第14話 独断と苦戦
王都カルディナの東に近付く者の行く手を阻むように
聳え立つ山、アグー山。
そこはサーベルタイガーやワーウルフなどの凶暴な肉食獣に
上空にはワイバーンやウインドドラゴンまでが飛び交い
さながら魔境と呼んでいいような様相だ。
並の冒険者ならばまずは足を踏み入れないであろうその地で
オレ達は山頂に向かって進み続けていた。
パーティーは18人、壁役の聖戦士が6人に
治癒術士が3人、魔術師6人に弓使いがオレを入れて3人。
万全の体制ではないとはいえ、普段5、6人でこの危険度の
フィールドを探索できるレベルのA級パーティーが3隊、
そしてS級パーティーの俺達だ。
それでも、オレ達はこれまでの戦いに比べたら相当な苦戦を強いられていた。
「左翼!! 前線押されてるぞ! 押し戻せ!! 」
「んなモン分かってる!! こっちも必死だ!! 」
「ラノア! 魔法付与があと15秒で切れる! 掛け直しだ!
他二人は防御障壁展開!! 掛け直しが終わるまででいい! 」
「今は治癒魔法を……」
「んなモン戦闘後で間に合うだろ!こっちが優先だ!!
イグルド、詠唱終わるまでワイバーンの注意引き付けとけ!! 」
「今やってる!! だけど……」
空を自由に飛び回れるワイバーンにこちらの矢はなかなか当たらず、
逆に詠唱中で無防備状態のこちらの魔術師が狙われている。
だがそれを矢を射かけて追い払うのが精一杯だ。
誰か……前線に躍り出て敵を攻撃を翻弄できる奴が居れば。
「イグルド! お前の回避能力なら敵の前に出て攻撃を引き付けられんだろ!
前に出ろ!! 少しはパーティーの役に立て!! 」
バルゴさんから無茶苦茶な命令が飛んでくる!
いや、そんな危険な芸当こなせるような奴なんているもんか!?
前線に立ってる聖戦士は全身重装備に大盾で敵の攻撃を受けて
よほどでない限り致命傷は負わないようになっている。
それに比べたらこっちはほぼ生身の人間。この状態で鋼鉄も切り裂く
魔獣や翼竜の爪や牙の攻撃を受けたら……考えただけでもゾッとする。
それを身一つで躱しながら敵を引き付けるだなんて、どう考えても
マトモな精神で出来る事とは思えない。
死んでこい、とでも言いたいのか。
「無理ですッ!! 俺にはそんなの……」
「シャドウならやれたぞ!! お前も出来るんじゃないのか?」
その言葉を耳にしてついこの前、パーティーから抜けていった
ムカつく野郎の事を思い出した。
確かにオレはアイツが抜けてから「恩知らず」だとか
「前線に立つのが怖くなった腰抜け野郎」とか
「あんな奴で出来る芸当ぐらいオレでも出来る」と豪語していた。
それがこんなにも早く、本当にやらなきゃいけない状況になるなんて。
「どうした!? お前は口先だけの男か!?
そうじゃないならソレをここで証明してみせろッ!! 」
そこまで言われたからにはオレにも意地があった。
前衛が守ってくれてる安全圏から地面を蹴って飛び上がり
空を飛ぶワイバーンめがけて至近距離での一撃を当てる。
落下地点をめがけて他のワイバーンが空から、地上では
ワーウルフが2匹飛び込んでくるがすぐさま地面を蹴って躱す。
「キィエエエエェェェ!!」
すかさず別のワイバーンが2匹、急降下してきたところで
一匹目は軌道を読んで身体をそらし、
残った二匹目の頭を放った矢でブチ抜いた。
そこにようやく詠唱を終えた術師たちの魔法で
地面には複数の火柱が上がり、空からは雷が降り注ぐ。
ほとんどの魔物がそれらの魔法で絶命し、残った奴らも
唸り声や鳴き声をあげながら何処かへと逃げ去っていく。
こうして何度目かの魔物の大襲撃を切り抜けた。
だけど、もし今のタイミングで詠唱が終わってなかったら?
オレは矢を放った後の隙でサーベルタイガーに飛びつかれて
食い殺されていた可能性もある。
今回は良かったけど、次の群れが襲来したらどうする?
そう思うと、手放しには喜べなかった。
ようやく魔物の群れの脅威が無くなったのを確認して休憩に入る。
治癒術師は一人一人の回復をしているが人数が多いので時間は掛かる。
「ここは早く移動しないとまた魔物どもの群れが来る。
治療が済み次第さっさと動くぞ! 」
「はぁ!? ふざけんなよ!! 誰のせいでこうなったと思ってる!? 」
バルゴの発言に食って掛かってるのはA級パーティーリーダーの聖戦士ベア。
確かに王都出発前、斜面の角度が険しく道幅も狭い分、
一度に遭遇する敵が少ない北側を通ろうと言っていたのはこの男だった。
それに対して、今進んでいる南側は斜面が緩い分、多くの敵に狙われやすい。
それでもこの人数ならば陣形を広く展開して一気に敵を殲滅して進めると
力説して押し通したのがバルゴだ。
「俺たちゃメンバーの疲労管理も含めてそんなにさっさとは動けねぇ。
もしそれが不服ならS級パーティー様達だけで先に進んでくれ。
後で追いつくようにはするからよ」
先程のベアよりは柔らかい口調でそう説得するのは年長のウォラス。
だが「お前らの独断にはついていけねーよ」と言っている意味には
あまり変わりはない。
さすがのオレでもここは足並みを揃えていくべきだと思う。
数が多いとはいえ雑魚集団ごときにこれだけ手間取ってる状況じゃ
たった三人で先行してもウインドドラゴンくらいの大型モンスターとは
互角にやり合える気がしない。ましてや大型魔獣なんて。
圧倒的火力不足だ。だが……
「わかった。それなら俺たちは先に進ませてもらう。
合流地点はココから見える中腹にぽっかり空いてる竜の巣だ。
来れなきゃ死んだと思って置いていく」
バルゴはそう言うと野営用の荷物を担ぎ直し、ラノアの手を引いて
ゴツゴツした岩の斜面を早足で登り始める。
今までは憧れであるその男に付いていけば間違いないと思っていたが
ここにきて初めて、残るべきか進むべきかと迷った。
これ以上アンタの無謀に付いていけない、そう言ってやろうかとも一瞬考えた。
だが、それをしたらオレがさんざん文句を言ったあの男と同じだ。
それだけは、曲げられないよなと思った。
結局のところオレには、付いていくしか選択肢はないのだが。
初投稿作品としての短編になります。
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