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第13話 聖女の秘密と魂の蘇生

水の流れる音がする洞窟の中をひたすら進んでいく。


光の精霊ウィル・オ・ウィスプがちらほらと飛んでいるため

洞窟の中は外と大して変わらないぐらい明るい。

浄化の術法が働いているのか、魔物の気配も感じなかった。


程無くして洞窟の突き当り、広間のようになっている場所に

たどり着き、一人の老婆と対面する。


「よく来たね。アンタがここに来ることは聞いていたよ?

 色々話してやりたい事はあるが、とりあえずその娘を此処に」


そう言って自分の足元の円形に水が湧き出している床を杖の先で示す。

村にあった聖女の泉でやったように冒険者用マントに身体を包んだまま

ルビィの身体をその水の上に横たわらせた。

さすがに今回は同じ結果にはならないよな。


すると次の瞬間、光の精霊の様なほのかな光が彼女の周りに集まり

強い魔力がその場に流れ込むのを感じる。


「ヴァ……ルゴ??」

「ルビィ!! やっと気付いてくれたのか!? 」


駆け寄ろうとするが老婆が手を前に出して止めるようなジェスチャーをする。

その間に彼女はいったん開けた目を再び閉じた。



「せっかく感動のご対面を邪魔して悪かったけどね。

 魂の蘇生はまだ始まったばかりだよ。

 完全に再生するまでは寝かせといてやんな」

「魂の……蘇生??」


聴きなれない単語に首をかしげると老婆が説明する。


「ああそうか、アンタは分からなくて当然だね。


 いいかい、蘇生の術法と言っても必要な要件は二つある。

 一つは肉体の蘇生によって生命活動を再び回復させるもの。

 そしてもう一つが記憶や思考、つまりその人格を回復させることさ。

 今の聖教会のレベルじゃ肉体しか無理だったみたいだね」


そこで老婆は説明を区切り、独り言ちる。


「かくいう私も魂も含めた完全な蘇生はようやく完成するかって段階でねぇ。

 おそらく今回は大丈夫なハズなんじゃが……

 ラノアって子には悪い事をした」

「!?」


「アンタはラノアを村から連れ出した男のうちの一人だろう?

 あの子はね、森林狼(フォレストウルフ)の群れに一家で襲われて一旦命を落としてるんだよ。

 同時に死にかけたあの子の両親から懇願されてね、

 自分たちはどうなっても良いから、どうか子供たちだけは助けて欲しいって。

 だがあの娘は肉体と魂の一部、弟は魂だけしか蘇生しきれなかったんだ。

 それに自分に向くべきだった癒しの力が暴発したせいで聖女だなんて

 崇められるようになっちまって……」


そうか、それで彼女は喋ることも出来ず意思を表すのも曖昧で

代わりに治癒の術を得られたという事か。


「これはワシの個人的な罪滅ぼしの為のお願いなんじゃが……

 この子の魂を取り戻してやる対価として、あの子を救ってやってくれ。

 このまま王国なんぞに上手い事【聖女様】として祀り上げられて

 あの子の人生を台無しにされたんじゃ、申し訳ないからね。

 

 ここにワシの研究で生み出した指輪がある、持っておいき。

 どれ、あの子が今何処でどうしているか、調べてやろうかね」


俺に蒼い水晶のついた指輪を渡すと壁に手をかざし、何かを映し出す。

そこにはバルゴ・ラノア・イグルドの3人とそれ以外の十数人で

険しい山道を登っているのが見えた。


「これは……」


風景に見覚えがある。

2年前、超大型魔獣(ベヒーモス)を討伐した時に向かった王都の東に聳えるアグー山だ。


『俺たちは冒険者をかき集めて名誉挽回の為に奴を討伐する。

 その為にオレの装備を整え直さないとだし、冒険者を集めて

 大規模討伐依頼を出す為の支度金も出さなけりゃいけない』


そうだ、確かに奴はそう言っていた。

だとしたら今向かっているのは王都で壊滅的敗北を味わった

主級大型魔獣(キングベヒーモス)へのリベンジ。


正直、同行している冒険者たちがAランク以上の熟練だとしても

聖騎士団の一軍団と宮廷魔術師団ほどの分の戦力を補えているとは

到底考えにくい。ハッキリ言って無謀すぎる。


「すぐに行かないと!!」


俺は立ち上がり、急いで洞窟を出ようとするが老婆が引き留める。


「お待ち!そんな身体で行くつもりかい?」


老婆が声を上げると、辺りを漂っていた精霊たちがまとわりついてくる。


そうは言われてもこのまま黙っていればバルゴもイグルドもだが

ラノアは殺されてしまうに違いない。

俺一人がメンバーに加わったところでどれほど戦況が変わるとも思えないが

それでも負ける戦いに挑むと分っていながら見殺しにするわけにはいかない。

頭はそう考えているのだが身体と思考は抗いがたい眠気に支配されつつあった。

気が付くと光の精霊たちが俺の身体の周りを膜のように覆いつくしている。


「悪いが今行かせるわけにはいかないよ。

 そんな身体で犬死にされたんじゃ行くだけ無駄ってもんさ。

 ……大丈夫、奴らの戦力じゃそうそう簡単に目的には

 たどり着けるとは思えないからね」


老婆の声が段々と遠くなり、俺は意識を手放した。

初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

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