第11話 ラノアとの出会い
意識の薄い夢遊病みたいな状態のルビィの手を引きながら
王都の正門前で乗り合い馬車に乗り込む
行き先は今は『聖女の村 ラノア』と呼ばれている山間の村。
聖女の村……か。
王都を出て街道をひたすら南へと向かう馬車に揺られながら
俺はラノアと出会った時の事を思い出していた。
元々がなんという名前だったか忘れてしまったが
あれはラノアの村が森林狼の群れに襲われていた時だった。
救援依頼の緊急クエストに駆け付けたのは俺とバルゴの2人と
中堅冒険者パーティー4人組、それから村の警備隊3人に
それ以外は成人した男の村人たち。
この国ではその村や町が王国にとって重要な拠点でもない限り
魔物や盗賊団に襲撃されたなどの案件では王国軍は出動せず
冒険者ギルドに依頼される形となる。それゆえに緊急性の高い
クエストなどもその時に手が空いて依頼を受けた冒険者と
足りない分の人員は村や町の人間で補われることはよくあった。
だが戦闘経験の少ない村人など前線で戦わせられるハズがない。
結局依頼を受けた冒険者が村人もサポートしながら戦う事になるのだ。
その時も結局、俺たち冒険者と警備隊の9人が前衛で攻撃を防ぎ
槍を持った村人が後方から攻撃を加えるという陣形で戦っていた。
「三人一組で盾持ちの左右後ろに付け!! 」
「突出すると危険だぞ!!決して前衛より前に出るな!! 」
バルゴを始め、戦い慣れたメンバーは後方を注意しながら檄を飛ばす。
最初のうちは全員がそれを守って戦っていたが、
倒しても倒しても後から湧き出すように現れる狼の群れに
戦いに慣れていない後衛の村人たちは集中力を欠いていく。
そしてついに村人の中で戦闘開始前、一番意気込んでいた若者が
注意を無視して複数の狼の中に突撃した!
「っ危ない!! 」
「ぐわあああああっ!! 腕がっ!! 腕がぁぁぁぁぁ!!! 」
「ロイド!! このクソ狼どもめ!! 」
咄嗟にロイドと呼ばれた青年の横に入り、噛みついていた狼を斬り飛ばす。
だが同時に助けに入ろうとしたこの村の村長も群れの中に突出したため
村の入り口と村人を守るように組んでいた陣形に綻びができる。
狼たちはそこに気付いたのか、後衛の村人を狙って村側に雪崩れ込もうとしていた。
「バルゴ! 穴埋めを頼む!! 」
「そう言われてもこの数じゃ厳しいぞ!! 」
かくいう俺も青年と村長を攻撃の的にされないよう盾で後方に跳ね飛ばした時
剣を持つ方の手に一匹食いつかれている。何とか振りほどいたが傷口からは
激しい痛みが走っていた。
そんな中でガチャ、とドアの開く音と誰かが駆けだす音が
後方の村の方で聞こえる。
「ラノア!! 家から出てはいけないとあれほど……」
「!!!!!! 」
「キャウウウウウウン!! 」
直後、村の方から激しい光が放たれ狼たちが吹っ飛ばされる。
その光が数秒間続いて元に戻った後、噛みつかれた腕の痛みは
キレイさっぱり無くなっていた。
振り向くと先程噛みつかれていたロイドという青年も
出血が止まり、傷が跡形もなく治っている。
何が起こったんだ??
「グルルルルルル……」
一方弾き飛ばされた狼たちも起き上がり、警戒しながら
低い唸り声をあげている。
「皆、もう一度陣形を組んで仕切り直しだ!!
今度こそ誰も突出するな!!
村を守り切るんだ!! 」
バルゴの叫びに皆が我に返り、再び戦闘態勢に入る。
傷を負っていなかった者達も先程までより動きが素早い。
蓄積していた疲労も軽減されているように感じた。
そうして戦い続ける事数時間後、今度は陣形を乱されることなく
俺たちはついに100匹を超える森林狼の群れを駆逐することに成功した。
「どうもありがとうございました。
この件とは別に……この子を冒険者として連れて行ってくれませんか?」
報酬の受け渡しの後、村長が一人の娘を連れてくる。
先程の激しい光の中心にいた人物。金色の髪をした一人の少女。
「この子はラノアといって、先日モンスターに両親を殺されてから
全く喋れなくなってしまっていたんです。
その上でこのような力まで持っているとなると村の力では
守り切れるとは到底思えないので……お願いです」
確かに先程の尋常ではない力を身を守る術もない村人が持っていれば
そこに目を付けない者はいないだろう。
それもよりにもよって治癒の力とは……
先程ラノアが放ったような治癒や魔法付与を中心とする
神聖魔法は聖教会の人間によって独占されている。
それゆえ生まれながらにその力を持つ者は、その存在を聞きつけた教会騎士に
聖教会本部に連れていかれ修道士として訓練を受けさせられる事が
暗黙のルールとなっていたのだ。本人の幸不幸とは関係なく。
それならばあちらこちらを渡り歩く冒険者として転々としていた方が
教会の連中に連れていかれるリスクは少ない。
村長なりにそう思っての判断だろう。
当の本人はそこまでは気付いていないのか、戸惑ったような表情で
やり取りを見ているだけだが。
「わかった。そういう事なら引き受けよう。
よろしくお願いします、プリンセス」
バルゴはそう言うとラノアの前に恭しく跪き、手の甲にキスをした。
キザな行動だが不思議とそうした姿が様になる。
そうして、俺とバルゴのパーティーにラノアが加わったのだった。
初投稿作品としての短編になります。
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