表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第10話 グランベルグ大聖堂にて

呼吸の止まってしまっているルビィを抱きかかえ、館を出る。


背後で何か喚き散らすような声が聞こえたが、特に気にせずに

上流階級の貴族街を王城とは反対の方へとまっすぐに向かい

真ん中に高くそびえたつ建物へと向かう。


聖グランベルグ教会総本山、グランベルグ大聖堂。


王国の首都であるこの街に王城と並んで大げさすぎる建物が

ある事は知ってはいたが、訪れてみた事は初めてだった。

王城の正門よりも破る事が難しいのではないかと思うような門の前で

見張りの兵に()パーティー名を告げて来訪の意図を伝えると、

銀製の甲冑を全身に纏った教会騎士にぞろぞろと取り囲まれながら

門の中へと入るように言われる。


まるでこれから蘇生ではなく処刑でもされるみたいな熱烈な歓迎だ。

そう思って失笑すると教会騎士の一人に

『妙な真似をすれば8本の槍が喉笛を貫くことになる』

と注意された。

確かにルビィを抱きかかえて地面に放り出すことも出来ず

両手が塞がったこの状態ではどうすることも出来ないだろう。

郷に入らば郷に従え、か。

敵対するつもりはない事を示すために軽く謝罪したのだが

何の反応も得られないまま、大聖堂の奥の中心の部屋へと案内される。


そこは巨大な龍の頭ほどもあるような高さまでが吹き抜けになった

大きなホールの様な巨大な部屋だった。

その高さの天井近くの部分まで色とりどりのガラスがはめ込まれた窓があり

そこから射しこむ光が幻想的な雰囲気を醸し出している。

ホールの真ん中、数段分の階段が設けられた先にはベッドくらいの

白い布が掛けられた平らな台座があった。


教会騎士に死者の亡骸をこちらへ、と促されて抵抗感を覚えながらも

抱きかかえていたルビィを台座の布の上に降ろす。

外傷が全く無いからか、こうしていると今にも息を吹き返して

何事もなかったかのように目覚めてくれるような気さえしてくる。

だが…… それはもう自然には起こりはしないのだ。


そんな事を考えているとホール右側の扉が開く音と共に

一人の男がこちらへと悠然とした足取りで向かってくる。

それと同時に荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡る。


「これはこれは、かの有名な『カルディナの盾』の方々に

 お会いする機会が訪れるとは!儂がこの聖グランベルグ教会で

 大司教に次ぐ権限を持つ第三司教、ガレウスである! 」


見るからに高そうな法衣を着た小太りの脂ぎった中年の男が言い放つ。


こんな男に下げる頭など持ち合わせてはいないが、それでも今回は

モノを頼む立場である以上は最低限と思い、へりくだった調子で

こちらも自己紹介を返す。


「第三司教様にお目通り叶いまして光栄です。

 『カルディナの盾』に属します剣士シャドウと魔術師ガーネットです。

 この度……」

「おお、皆まで言わずとも分かる。この度の王都防衛の任、本当に

 大変な戦いでしたな。当教会に聖騎士団の方々も続々と足を

 運ばれていてこのガレウス、心を痛めておりますぞ! 」


言葉ではそう言いながらも満面の笑みを浮かべている。

当然だ、王国内にあるとはいえ王国軍と教会はそれぞれ独立した権力。

そして治癒や蘇生に関わる治癒術法は教会が一切権利を独占している。

そのおかげで王都を守る軍であっても負傷した兵の治癒には教会に

その都度多額の寄付を行って依頼しなければならないのだ。

風が吹けば桶屋が儲かる、という例えのように戦いがあれば教会は儲かるのだ。


「聞けばそちらに居られる紅蓮の魔女ガーネット殿も先の戦いで

 命を落とされたとか?だが安心召されよ!! 今より神の奇跡によって

 この者は祝福される!! 」


司教の演説じみた言葉に合わせてパイプオルガンの音量が上がる。


「しかし、その前に確認しておかねばならぬ事が……」


司教が急に下卑た笑みを浮かべて手をすり合わせながら歩み寄る。

こちらも言いたいことは大体わかっている。

これまでに貯めたなけなしの全財産の入った袋をテーブルに置いた。


「数えて貰っても良いが、1枚1万Gの白金貨で3000枚ある。それと」


首にかけていたネックレスを外して金貨の詰まった袋の隣に置く。


「ほほう、これは4属性精霊石のネックレスですな。これほどの代物なら

 足りない分の埋め合わせに充分でしょう」


どころか、これ一つで現金で渡した分と同じくらいの価値はあるのだが

ここで逆に対価不足で蘇生術を断られるよりは良い。

モノは金で買い戻せるが失われた命は戻せないのだ。


「よろしい!! それではこれより死者蘇生の奇跡を行う!! 

 主なる父グランベルグよ、我に加護の祝福を与えたまえ!! 」


司教が祈りの言葉を唱えて両手を掲げると差し込む光が強くなり

大聖堂の中は眩しい光に包まれる。

ここまでの振る舞いで金の亡者だとしか見ていなかったが

どうやら司祭としての力は別のものでちゃんと備わっているようだ。


数十秒の間、大聖堂が光に包まれた後、段々と元の明るさに戻っていく。

そして完全に元の状態に戻った後、司教が大きく息を吸い込んで


「これにて奇跡は相成った。神に感謝を」


と言い残して司祭は目の前を立ち去ろうとする。

ルビィがまだ起き上がってこない事を指摘すると

「少ししたら息を吹き返すだろう」と返された。

目を向けると確かに意識は戻っていないが身体の揺れで

呼吸をしている事は確認できる。

だが、本当に目を覚ますのだろうか?



大司祭が立ち去ってどれくらい時間が経っただろう?

ルビィが眠りから覚めたように目を開き、上体を起こした。


「ルビィ!! 良かった!! 」


普段は常に冷静であろうと感情を押し殺しているが

今回は抑えきれずに走り寄り抱きしめる。

俺のせいで死の淵を彷徨わせてしまったのだ。

それにもし身体も残らない様な損傷を受けていたとしたら……

二度と会うことは出来なかったかと思うと。


「……?」


だが抱きしめたその身体からは何の力も感じられない。

身体を離して顔を覗き込むが人形のようにそこに意志の光は

何も宿っては居なかった。


「おい!! これはどういう事だ!? 」

「見ての通り蘇生の奇跡は成功した。早々に立ち去られるが良い」


抗議の意を唱えるが神官騎士は意に介さないといった風にそう告げる。

大司教を呼び戻せと叫ぶとそこに残る神官騎士全員が剣を抜き

上層階からは洋弓銃(クロスボウ)を構えた騎士もこちらを狙っていた。


俺一人ならここに居る神官騎士全員を倒して大司祭を引きずり出すことも

出来るかもしれないが、狙いを定められた矢でせっかく蘇生した

ルビィをまた殺されることを考えたら、来た時と同様に怒りを抑えつつも

彼らに従って教会を退出する事しか出来なかった。


意識が定まらず足元さえおぼつかない彼女を連れ添って門の外へ出る。

非情にも大聖堂の門は閉じられ、開くことは無い。


失意に打ちひしがれていると一人の老婆が目の前に現れ、こう告げた。


「この状態……教会の蘇生術は未だにこの程度という事じゃな」


老婆は手に持っていた水晶を掲げて何かを唱えながらそう呟いた。


「老婆、何か知っているのか?」

「教会の蘇生術では肉体の蘇生は出来ても魂の蘇生は不可能。

 それを望むのであれば聖女の泉を探して尋ねるが良い。

 かの聖女の術が進化しておればあるいは……」


老婆は呟くようにそう告げて、他の者の往来の中に消えてゆく。

どういうわけか教会の司祭や神官騎士の言葉よりも

通りすがりの老婆の呟いた『聖女の泉』という言葉が気になって

俺は王都を後にして聖女ラノアと出会った村に向けて歩き始めた。


初投稿作品としての短編になります。

書き方など誤記がありましたら教えていただけると嬉しいです。

また応援や感想などいただけましたらとても励みになります。

どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ