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バイク小説集  作者: SARTRE6107
3/12

舞浜まで

 日曜日、家のソファーに座りコーヒーを飲みながら、スマートフォンで明日の予定を確認していると、奥さんの晴香からLINEが届いた。

「同級生との一泊二日のディズニー観光が終わりました。お土産をいろいろ買ったよ」

 そのメッセージのあと、荷物が詰まった紙袋を三つ持った晴香の自撮り写真が送られてきた。天気予報によれば、今日は昼過ぎから雨の予報だ。紙袋を三つ持って家に帰宅するのは、少し大変かもしれない。

「荷物が多そうだから、舞浜駅に迎えに行こうか?」

 僕がラインで提案すると、すぐに既読がついて返信が返ってきた。

「ぜひ!お願いします」

「準備して向かいます」

 僕はすぐに返信を返した。

 僕は家の前の駐車スペースに停めている、白いダッジ・チャレンジャーR/Tに乗り込み、晴香と待ち合わせる舞浜駅に向かった。明日は午前八時に新幹線に乗り込み、上野から郡山への日帰り出張が予定されていたが、僕の家から舞浜までは車で三十分程度の距離しかない。往復一時間程度の運転など、大した疲労にはならなかったし、一日中家にいるよりはよい気分転換になった。

 車に乗り込み、住宅街から臨海地区に向かう。臨海地区に入ると、東京オリンピックによって新たに作られた様々な灰色のビルたちが、雨雲が薄く広がりつつある空に向かって突き出している。オリンピックが正式に決まるまでは、この辺りは空が広くて曇り空でも開放的な気分を味わえたのに、と昔を懐かしんでいると、十数年前に臨海地区に来た時の記憶が朧気によみがえってきた。



 中学卒業後、僕は地元でもかなり荒れた商業高校に入学した。まだ信念や志という物をどうやって身に着ければ良いのかわからない時期だったから、僕は野蛮かつ豪快な校風に流されて、よく不良仲間とつるんでいた。そして親しくなった小野君という生徒とバイクの話題になり、高校生になったのだからバイクの免許くらい取ろう。という流れになった。ちょうど小遣い稼ぎでアルバイトを始めようかと悩んでいた僕は、バイクの免許取得と車両の購入を目標にして、工事現場やビル清掃のアルバイトを始めた。

 そうして勉学よりも勤労に精を出した結果、僕は高校二年の夏にバイクの免許を取得して、スズキのバンディット250を買った。そして同じようにバイクの免許を取得し、ホンダのCB400スーパーフォアを買った小野君と一緒に、思い出作りとして湾岸道路へバイクで出かけた。夏の日差しが強い日で、アスファルトからの照り返しと、トラックのエンジンの熱が強烈だったが、空は広く、排気ガスにかすんでいたが晴れていた。僕たちはバイクに乗ってディズニーランド周辺をうろつき、倉庫街にあるコンビニで小休止を取った。

「バイクがあると、こういう所に足を延ばせられるからいいよな」

「だよな。いいよな」

 僕の言葉に小野君は鷹揚に答えた。そして周囲を見回しある事をつぶやいた。

「この近くに、ディズニーランドがあるんだよな」

「おう、今の俺らにはどうでもいいけれど」

 僕は先ほどの小野寺君のように鷹揚に答える。

「今は何ともないと思っているけれど、また友達とディズニーランドに行きたくなるようなことってあるんじゃないかな」

「今はないだろうけれど、そのうちあるだろうな」

 僕は小さく答えた。



 こんな他愛もない会話をしてから、もう十数年が経つ。僕と小野君は卒業後別々の道に進んだ。僕はまじめに勉強をし直し、登記測量事務所を立ち上げて株にも手を出し、並行輸入のアメリカ車を買って奥さんと一緒に暮らすだけの収入を得ている。その間に世の中は新型コロナにオリンピック、元総理の暗殺など目まぐるしく変わっていたが、忘れられない高校生活を、忘れられない友達たちと過ごした事を振り返るようなことはしていない。それは僕が前に進み続けている証拠でもあったが、少し悲しくも思えた。

 僕が運転するチャレンジャーは湾岸通りを進み、東京都から千葉県に入った。「東京ディズニーリゾート」と書かれた標識の案内に沿って左折し、舞浜駅へと向かう。周囲はディズニーリゾートの駐車場に向かう車と周辺を往復するシャトルバスが走っており、大型トラックは無かった。僕は信号待ちで「もうすぐ舞浜駅」とLINEを送った。

 舞浜駅に着くと、駐車スペースの近くで紙袋を三つ下げた晴香の姿が見えた。晴香は車で来た僕を見つけると、周囲の安全を確認して僕の車へと駆け寄ってきた。

「ありがとう。すごい助かったよ」

 晴香は紙袋をリアシートに置いた後、乗り込んで感謝の言葉を口にしてくれた。

「どういたしまして」

 僕は簡単に答えて車を出した。舞浜駅を抜けて湾岸道路に向かうと、雨粒がフロントガラスを濡らし始めた。

「高校時代の友達と会えたのは、楽しかったかい?」

「ええ、忘れられない時間を過ごした友達だもの」

 晴香は嬉しそうにそう答えた。


(了)


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