第四話 決意
他の投稿者様たちの凄さを実感する...
俺は、本当に運がよかったのだろう。
俺が戦ったゴブリンが人のことを舐めていなかったら、俺は今頃ゴブリンの腹の中にいた。
現実はゲームのようにはいかない、警官でも勝てないほどに...ゴブリンは強かった。
俺は、ゆっくりと扉を閉め扉の裏で泣いた。
「ふっ...ぐっ...うぅ...」
俺は声を殺しながら泣き、父さんのことを思い出していた。
その時、ふとある記憶がよみがえった。
それは、母と兄が死んだとき泣き続けていた俺に言った言葉だった。
『うっ...ひぐっ...母さん...』
『隼人...いいか、この先どんなことが起こっても心を強く持て。苦しかったら泣いていい。泣いて泣いて泣き喚いて、そして...立ち上がれ。』
とんでもない根性論。だが、子供のころの俺にはこの言葉が深く刺さった。
(わかったよ、父さん。)
俺はもう泣いていなかった。
残っていた涙を袖で拭うと音を立てないように、俺はキッチンに向かう。
(まず、武器がいる。包丁だと折れる可能性があるけど、油断している今がチャンスだ。気にしている暇はない。)
俺は包丁をキッチンの棚の中から取り出した。
「...ステータス。」
ブオン
次に俺はステータスを開いた。
袋小路で見た時、確かSPというものが溜まっていた。
ステータス
風原 灰翔
職業 シーフ
属性 土
Lv 2
SP 10
HP 5/10
MP 2/2
筋力 2
器用さ 3
スタミナ 2
耐久力 3
知力 2
スキル
>投擲 Lv1(10)
>逃げ足 Lv1(10)
深層運命
>英雄願望 Lv1
>Lv1 全身全霊
]
(HPが少しだけ回復している...よく考えれば、さっき戦った時より痛みが引いている。)
ステータスを確認した俺は、スキルの詳細を見た。
]
―投擲Lv1―
物体を投擲する際に補正が付く。
補正はスキルレベルが上がるにつれ強化される。
任意発動。
―逃げ足Lv1―
逃走時に速度に補正が付く。
補正はスキルレベルが上がるにつれ強化される。
任意発動。
―全身全霊―
魂の叫び、それが英雄への第一歩。
HPとMPを消費して全ステータスを1.5倍する。
任意発動。
どうやらさっきの行動でスキルが付いたようだ。
Lvを上げるにはSPを消費するらしい。
ただ...一つ問題がある。
(深層運命ってなんだ?)
スキルとは別枠である存在。運命ということは、ほかの人にもあるのだろうか?
―英雄願望Lv1―
英雄を望み、されど英雄には程遠く。
焦燥と絶望、それでも英雄を望むのなら。
茨の道を進む、運命を与えよう。
スキルレベルが上がる度、弱者が強者に挑むためのスキルを入手する。
Lv1 全身全霊
Lv2 ?
etc...
(これは深層心理を読まれてるってことか?英雄...か。)
俺はとりあえずゴブリンを殺すため、必要なスキルのレベルを上げることにした。
(まぁ、これしかないよな。)
俺は、迷わず投擲のLvを1上げた。
俺は、リビングの扉の前まで戻った。
心臓が高鳴る、吐きそうだ。
(落ち着け...息を殺すんだ。)
俺は、ゆっくりとリビングの扉を開けると父さんを食い荒らしているゴブリンの首筋に狙いを定める。
(さっきと同じ。さっきと同じ。さっきと同じ。)
俺は緊張で震える手を抑えながら、ゆっくりと近づいていく。
どうやら、ゴブリンは筋力以外弱いようでこちらには気づかず父さんを貪っている。
「ふっ!」
ズシュ!
「ギョア!?」
勢いよく包丁をゴブリンの首に振り下ろし、首筋に突き刺した。
「全身全霊!!!」
一気に体が軽くなる、これがスキルか。
俺は刺さった包丁を抜き、強化された身体能力でゴブリンを蹴り飛ばす。
「ギャゥア!?」
ゴブリンは激しく吹き飛ばされ、机を破壊しながら壁に叩きつけられる。
ただゴブリンにはまだ息があるようで、立ち上がろうとしている。
強化されたと言っても一般人、化け物を殺せる力はない。
...だからこそ。
「投擲!!!」
俺は包丁を思いきり、ゴブリンの頭を目掛けて投げる。
すると、包丁は物凄いスピードで正確にゴブリンの頭に飛んでいく。
「ブギュ!?」
包丁がゴブリンの頭に当たった瞬間、ゴブリンの頭が弾け飛んだ。
おそらく全身全霊の効果がまだ残っていて威力が跳ね上がったのだろう。
ゴブリンはきっと何もわからずに死んだ筈だ。
「はぁ...はぁ...父さん、敵は取ったよ。」
俺は虚ろな瞳で倒れている父さんに近寄り、瞼をそっと閉じた。
父さんの手には...家族の写真が握られていた。
ポロン
<モンスターを撃破しました>
<経験値を付与します>
<Lvが上がりました>
電子音が鳴り、レベルアップを告げる。
だが、俺はステータスを確認する前に父さんを庭に埋めることにした。
こんな世界じゃ葬式すらまともにできないだろう。
その後、俺は庭に穴を掘った。
まったく疲れず、軽く掘ることができた。
俺は父さんの遺体を穴の中に入れると、父さんが大好きだったビールを穴の中に数本入れた。
ふと...父さんが昔、一緒にビールを飲みたいと言っていたのを思い出した。
「さよなら...父さん。」
俺は父さんを埋め、一本だけ残していたビールを墓に半分掛け残りを飲み干した。
ビールはとても苦かったが、少し...しょっぱい味もした。