第八話 厄災級
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい
厄災と呼ばれる人外達がいる。それは――甚大な被害を出し未だ、討伐されたとの報告がない最悪の厄災達。俺は……その日、因縁の厄災と……遭遇した――
◇◆
「お疲れ」
女性オペレーターがそう言う。
「お疲れ様、梨花さん。俺は先に帰らせてもらいますよ。」
「分かった。気を付けて帰れよ。あと、下の名前で呼ぶな」
「はいはい、気を付けますよ〜梨花さ〜ん」
梨花と呼ばれたオペレーターは少し、その隊員を睨んだ。しかし、隊員は気にせずに帰っていく。
西米健、エリートオペレーターからエリート隊員へとなった、珍しい隊員であった。
綽名はタピオカ。西米という言葉は中国語で、タピオカという意味があることからその綽名が付けられた。本人はあまり、タピオカは好きではない。
羽田梨花、エリート隊員からエリートオペレーターへとなった、珍しいオペレーターであった。過去に厄災と承認されていてもおかしくはなかった人外事件を解決した、頭の切れる人間である。
「明日、タピオカ入りの飲み物でも奢ってやるか」
そんな嫌がらせを考えながらも、羽田はまだ残っていた仕事に手を付ける。その仕事の四分の一ほどが終わった時であった。管制室の扉が、大きな音を立てて開く。
「報告! 先程の住宅街での人外事件が難航を極めており、多数の隊員が負傷! 人外クラス、エリート以上と思われます!」
走ってきたのであろうその男は、呼吸を荒くしながらそう言った。すると羽田は、
「タピオカ、人外事件だ。まだ動けるか?」
通信先から声がする。
「はいはい、動けますよ。どこですか?」
「三丁目の住宅街だ。既に、多数の隊員に負傷者が出ているそうだ」
「人外レベルは?」
「エリート」
「そりゃあ、俺が動くしかないですね。分かりました、すぐに向かいます。応援も向かわせて下さい」
◇◆
――時刻は午後八時三十二分。夜の静けさに包まれていたはずの住宅街は、今やその見る影もなかった。
俺が現場付近に到着すると、前線を撤退していた負傷した隊員が話をしてくれた。
「気を付けて下さい。あれは、エクストラを呼ばなくちゃいけません! エリート隊員だけじゃダメだ! 既に民間人や、隊員が何人も犠牲になっている」
「なるほど、分かりました気を付けます」
再び走り出すと、隊員が教えてくれた方向へと向かう。目的地へと辿り着くと目の前には、大量の死体と何名かの生き残った隊員が居た。
そこに、やつは居た。赤黒く変色し、大きく歪に変形し生えた角に、細長い尻尾。体には多数の亀裂と、大きな片翼が生えていた。
「タピオカ、聞こえるか? おい! 西米!」
「人外を確認……羽田さん……こいつやばいですよ」
「状況を報告しろ」
「知っています。このクソヤロウを」
武器を取り出し、構える。
「俺の……親友を奪った最悪の野郎だ!」
怒りが込み上げる。俺にとっての日々を奪った、最悪の元凶だ。
その瞬間、俺は武器を構え、人外との距離を詰めようと走り出す。するとクソヤロウは、腕を俺へと向ける。その赤黒い手からは硝子のような結晶が幾つも現れ、クソヤロウの正面を覆う。
俺はは構わず、俺専用の武器である王の槍(上下に深紫色をした大きな角、もしくはドリル型のようで中央に持ち手となる棒部分がある)をクソヤロウの正面を覆う結晶に、ブーメランのように投擲する。
王の槍はその重さと遠心力によりその威力を高め、結晶へと向かう。クソヤロウは何かを察し、結晶を残し大きく跳び上がり空へと退避する。
クソヤロウの予想は的中していた。王の槍は、簡単に結晶の壁を打ち破る。しかし、王の槍はそれだけでは止まらず、軌道を変えクソヤロウの下へと飛んでいく。
その瞬間、クソヤロウの周囲に無数の光の玉が現れる。現れた光の玉は、打ち上げ花火のように爆発した。
すると、光の玉から弾け飛んだ破片が弾丸の雨のように地上へと降り注ぐ。
クソヤロウへ向かっていた王の槍は軌道を変え、俺の頭上まで来るとプロペラのように回転し、降り注ぐ弾丸の雨から俺を守った。
破片の雨が過ぎ去った後――周りに残ったのは、生き残っていたはずの隊員達が文字通りの蜂の巣となっている姿であった。
◇◆
広範囲に及ぶそれは西米の周りのみならず、その周辺へと降り注ぎ、前線から退いていた隊員や、遅れて避難していた住民へも被害を出した。人外は、爆発に紛れ行方を晦ました。
生き残ったのは数名。その一人であった西米は本部へと戻ると、後処理をした後、残りを羽田に任せ帰宅した――
「元気無さそうでしたね」
一人の男性オペレーターが、羽田に話しかける。
「仇を取り損ねたどころか、多数の被害を出したんだ。無理もない」
「今回の被害や人外の強さを見るに、上層部はこれを厄災級であると決定するそうですよ」
「むしろあれが厄災じゃないならば、ここまで多くの市民や隊員は犠牲になり続けていない」
「エリート隊員も亡くなったんでしたっけ?」
「そうだ、何人もな」
これは今日中に帰れないな、と思いながら羽田は仕事を続けた。
◇◆
帰宅途中の西米は、人の居ない高架下でその拳を壁に大きく叩きつけていた。
「クソ! クソクソクソクソ! クソッ!!!!……取り逃した……なんで――なんで俺にあいつを殺すだけの力が無いんだ⁉︎」
時刻は既に十二時を回っていた。夜の住宅街に、その声はよく響いていた。
「もう、二度とあいつと戦える機会があるなんてことは分からない。もうあのクソヤロウを倒すことすら、仇を取ることすらできないかもしれないのに!」
西米は泣き崩れる。エリートでは太刀打ちできない厄災級の人外、それは数秒で多数の死傷者を出し、普通級の隊員ではまるで歯が立たない。
本来厄災級はもっと甚大な被害を出すのだが、過去の件を踏まえ未だ止めることをできないことから、公安はこれを厄災と承認。以降、その人外を「鉄砲の雨」の異名で呼ぶことになった。
――夜の住宅街には、失った友に顔を合わせられないと泣き叫ぶ男が一人居た。そこへ、一人の女が近寄り奢られて帰るか、このまま帰るか、どちらだ? っと言われ、男は素直にその女へと付いていった。
気が付けば既に午前一時となっていた。それほどまでに、彼の涙は数え切れないほどの悔しさと恨みを孕んでいた。
◇◆
管制室では、仕事を押し付けられた男が一人。仕事を代わりに引き受けてくれれば明日、一緒に飲みに行こうと言った羽田の提案を受け、男は喜んで承諾した。
羽田さんと二人きりで飲みに行けるという餌に釣られた男は一人、押し付けられた仕事に励んでいた。
――翌日、羽田とその男、そして数名と主催者による飲み会が開かれた。男は、羽田さんと二人きりの飲みではないことに涙した。
男の泣き声は、居酒屋の騒がしさに飲み込まれた。
あとがき
ども、焼きだるまです。次回も読まないと人外があなたの家に発生します。嘘です。また次回お会いしましょう。




