第七話 記録帳
この作品には一話ごとに登場人物や時系列、舞台などが変わります。それをご理解の上でお読み下さい
とある船の記録帳――
八月二十六日。今日から記録係として、ここに一日の出来事を記録することになった。私の名前はジヒダス・リーガン。この船の記録係であるが、主な業務はそれ以外には雑用だ。
午前の記録。前半は出港の準備をしていた。荷物を積み、船の最終チェックを行う。九時丁度、船は出港した。船員は八名。目的地へ向けて、船は大海へと進み出した。
午前の記録。後半は雑用をし、他の船員も自身の業務に就いていた。船も問題なく動いており、今のところ順調である。
昼食の記録。昼の一時頃。調理場の手伝いに入っていた私は、昼食の準備ができたと船員に伝えに行く。船員を前半組と後半組に分け、昼食が取られた。私は後半に取り、後片付けなども手伝っていた。
午後の記録。休憩も取りつつ、前半は皆自身の業務に励み。特に記録することもなく後半へと続く。
午後の記録。後半は、体調を崩し、一人部屋に篭ってしまった調理師の代わりに私が夕食を作り、夕食を取ると日も暮れてきたので夜組に後を任せ、私含む船員五名は眠りに就く。
八月二十七日。午前の記録。前半は海が荒れており、あまり良好とは呼べなかった。どうやら嵐が近付いているらしい。出港の前にそのようなことは報告されていなかったのだが、天候とは分からないものだ。朝食を取ると皆、自身の業務に励んだ。
午前の記録。後半、船に異常が起きた。いや、船に異常があったのではない。船員の一人が人外となったのだ。なんということだ。我々の中に人外への対抗手段を持った者はおらず、ましてやそんなことは想定すらされていなかった。仕方がなかった。人外にタックルをかました勇敢な船員により、人外は嵐の前の海へと姿を消した。
昼食の記録。震え上がる船員を呼び、昼食を取る。一人減って六人。三人ずつで昼食を取る。そして、自身の業務に戻った。
――船員は減っていった。一人は荒波に飲み込まれたが、他は一日経つごとに人外となっていった。なんということだ。もうここに残っているのは記録係である私しかいない。故郷に帰りたい。帰って、家族に会うんだ。でも、一人では帰れない……。いや、帰れる。だって、私は既に人ではないのだから。
◇◆
「確かにあの時のものです」
そう答えたのは、この記録帳が発見された船の船員であった。ニコラ・スコールである。
「あの時の出来事を、教えていただけますか?」
新聞記者は、ニコラに向けそう言った。
「異変は、二十六日の夕食の時でした。調理師が体調不良により部屋に篭ったと、記録係の男に言われ私は確認に行こうとしたのですが、記録係の男は寝かせておいてやれと言い、私を引き止めました。その後、記録係が作った夕食を取り、その日は眠りました。その日以来調理師を見ていないので、恐らく既に殺されていたのでしょう」
新聞記者はそれをしっかりと書き込みながら、話を聞いていた。
「二十七日。昼に差し掛かろうとした時、初めての人外が発生しました。私のタックルにより、成熟し切る前に人外を海に落とせましたが、次の日も人外は発生しました。船員が半分を切った時、限界を感じた私は海に飛び込みました。人外になるくらいならば死んでやろうと、そう思ったのです。しかし、私は運良く近くにあった海岸に漂着し、現地の人により私は奇跡的に一命を取り留めました」
「半身の麻痺は、その時の後遺症ですか」
新聞記者がそう聞くと、車椅子に座るニコラ氏は頷いた。
「そして、九月六日。この記録係の故郷は人外事件により、多数の死傷者を出し崩壊。奇跡の生還を果たしたジヒダス・リーガンは故郷に戻った後、住民を人外化させ、大量虐殺を招いた最悪の人外として名を残したと」
「恐らく、飯の中に寄生虫を入れていたのでしょう」
「経口摂取でも寄生すると、そういうことなのですね?」
「船員が刺されていたならば、恐らくは気付いていただろう。ジヒダス・リーガンに尻尾は生えていなかった。勿論生やしたり、仕舞ったりできるのかもしれないが、少なくとも我々の前では生やしていなかった」
「寄生管は尻尾以外にもある場合もあり得ると……なるほど、貴重なお話をありがとうございました」
そう言うと、新聞記者は足速に帰ろうとする。
「あなたも気を付けるといい。人外についての新聞を書いていれば、リーガンのような異例の人外に襲われてもおかしくはない」
「頭の隅に入れておきます」
そうして新聞記者は帰っていった。
ある難破船から見つかった記録帳。リーガンは何者だったのであろうか、それは分からない。分かることは、通常の人外とは異なっていた。ただそれだけだ。
あとがき
ども!焼きだるまですー。この作品の世界観は共有されているので、もしかしたら読んでると面白い発見ができるかもしれませんね!このお話が他と繋がるかもしれませんし、他のお話もまた、他のお話と繋がっているかもしれません。そういった部分もまた、楽しんで頂けると、とても嬉しいです。では、また次回お会いしましょう。