第五十六話 夢を叶えた鳥
人外に、人としての意識は存在しない。寄生された以上、宿主は亡骸のロボットなのだ。
ジョン・ジャーニー
空を見ていた。大好きだった空。私はいつか、あの空へと羽ばたきたい。そんな衝動に駆られていた。
一二歳になった時、私は自衛隊を目指すことにした。飛行機よりも、もっと早く大空を羽ばたける戦闘機に憧れたからだ。
父は私を止めた。理由は自衛隊内の性事情にあった。実際問題、ニュースにもそういった被害が多く取り上げられていた。だけど、それでも私は止まらなかった。人間の目的意識は、どんな障害物でさえも乗り越えられる。そう信じて父を説得した。母は否定も肯定もしなかったけど、私のことを見送ってくれた。
兄は、人外対策部の隊員であった。私が中学の時には、人外対策部でも期待の新人と呼ばれるようになっていた。常に危険と隣り合わせな仕事。そんな人から贈られる言葉は、きっと否定なのだろう。だけど、私の夢を語った時、兄は私を肯定してくれた。そうして、戦闘機パイロットの夢へ向けて私は歩き出した。
今日、私は空を飛んでいる。大空を羽ばたき、雲をも越える。憧れた空に、私は胸が熱くなった。こんなにも、間近で見た空は美しく広い。地面ではない、大空を私は飛んでいる。
◇◆
「あれ……」
気が付いたら、私は地面に打ち付けられていた。紅い血が、地面に広がっている。血が出ているのは、私なのだろうか。
「空……」
もう一度、自分の羽を動かそうとした。だけど、痛くて中々動けない。
足音がした。どうやら、ここは町らしい。建物の、倉庫か何かを突き抜けてそこへ落ちた。生きているのが不思議なほど、そうだ。
「私……撃墜されたんだ――」
あの時、私は他の戦闘機に撃墜された。そのまま落ちて……そして――。
「……」
私の前に、兄が立っていた。
全身が痛くて、動けそうになかった。喉も、何かの破片が刺さっていて喋るのも辛い。兄が来てくれてよかった。そういえば、最近は家に帰っていなかった気がする。久しぶりに、兄とも話してみたい。
「お兄……ちゃん――」
◇◆
――東京都公安人外対策本部オフィス四階にて、男二人が珈琲を片手に話をしていた。
「いや〜おっかないっすね〜」
若い男は、今朝のニュースを見ながら何気なく話し出した。
「空に人外が飛んでいた、なんて。そんなもん人外対策部じゃ対処できないっすよ」
すると、男よりは年上に見えるもう一人の男がデスク上にある珈琲を啜り、若い男の世間話に乗った。
「あぁ、空を飛ぶ人外は少ないからな。空自の戦闘機頼りだ。問題なのは、その人外が、被害を出したか否かだ。人外が落ちた倉庫は、今は誰も使っていない廃墟同然の場所だった。それは幸いだったが、あの人外の詳細な情報がない。腐るのが早すぎたからな」
「腐るのが早いって、三〇分もあるのにですか?」
「いや、五分で腐ったそうだ。理由は分からん」
年上の男は、パソコンの時計を一瞬だけ見ると、言葉を続けた。
「だが、人外の対処にあたった隊員はこう証言している。お兄ちゃんと、人外は言ったそうだ」
「えぇ? その人の弟か妹だったとか?」
「いや、どうやら弟も妹も居なかったらしい」
「じゃあ、その人外はなんなんですか」
若い男の問いに、年上の男は答えた。
「人外は、ガリガリに痩せていたらしい。腐るのが早かったのも、その影響があったからだろう。これは推測だが、人外の腐る速度は捕食した人間の数に比例するのではないか、という話だ。しかし、それを確かめる方法はない。だが、もしその推測が合っているのなら、奴はずっと空を飛び続けていたのかもしれない。大空を、誰にも気付かれずに」
若い男は納得したように返事をして、次の話題を喋ろうとした。
「時計を見ろ、昼休憩は終わりだ」
「うぇ、短――」
残念そうに男は、自身のデスクに向き合い午後の業務を開始した。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
メタルギアにハマり、絶賛執筆サボり中です。はい、すみません執筆します。
ちなみにサイコマンティスまで倒しました()
では、また次回お会いしましょう。




