第五十三話 死体の行方
人外に、人としての意識は存在しない。寄生された以上、宿主は亡骸のロボットなのだ。
ジョン・ジャーニー
「臭ッ‼︎」
バイトの若い男はそう言って、死体の一部から手を放す。
「バカやろう、急いで回収するんだ。俺たちが処理しないで誰が処理する⁉︎」
「っ……はい!」
水色の服や帽子、マスクやゴム手袋を見に纏った男たちが、着々と人外の処理を行っていた。炎天下の中、袋に詰めては清掃作業を行う。
作業が終わり、大型トラックのような人外清掃車の荷台に作業員たちが乗り込んでいく。回収したものは全て、荷台の奥に収納していく。
荷台の床に疲れ込んだ様子で座り、作業着を脱いだ若い男が言った。
「まさか……こんなにキツい仕事だったなんて――」
「お前は仕事を舐めてるのか? 世の中にキツい仕事なんていくらでもある。これよりもキツい仕事だってあるだろうよ。どうせお前、高い時給に目が眩んでこのバイトやってるだろ」
中年男性の作業員に言われ、若い男は返す言葉もなかった。
「俺たちがこういった仕事をしているから、街は今日も綺麗に回っている。そりゃ、人外事件なんて関わろうとしなければ気にすることもない。事実、避けようもなければ、人生で一度も人外事件に遭遇したことがない人たちも居る。お前もそういったタイプの人間だろう」
「そりゃ……そうですよ。テレビで見たことくらいはありますけど……実物は……」
「お前、なんで死んだ人外がああなるか知ってるか?」
「あの臭いっすか? てか、体もドロドロ……」
「そうだ、ドロドロだ」
「暑さにやられて溶けたんじゃないんすか?」
若い男の疑問に、中年男性は答える。
「それもあるにはあるが、冬場でも変わらない。夏場は腐る速度が尋常ではないがな」
「腐る? あれ腐ってるんですか?」
「あぁ、人外は死後一時間以内に必ず腐り出す。それも、体自体が急激に溶け始める」
中年男性はタバコを取り出し、口に咥えてライターで火をつけた。
「人外が寄生する方法が長らく分からなかった理由は、調べたことがあるか?」
「いえ、興味なかったもんで」
「体内……主に内臓を調べられなかったからだ」
「そういえば、処理してる途中も中は泥のようになってましたね……」
「人外が初めに腐るのは、寄生管含む内臓だ。三〇分以内に腐り切ってドロドロになる。人外の特殊器官を使った武器が少ないのは、特殊器官を冷凍保存する時間がないからだ。そういった武器は一部のエリート隊員か、エクストラ隊員にしか配られない。今は異物なんてものもあるから、一般隊員にも発火ナイフくらいは配られるがな」
人外清掃車が動き出す。目的地は、人外対策部特別警察課。通称、特察課と呼ばれる場所だ。
「普通に暮らしてて、人外の死体を見ないのが分かったっす。いつも、こうやって裏で処理をしてる人間が居たんすね」
「そうだ。人外の死体なんて放置すれば、街がガスマスク必須の異臭に包まれてしまう。俺たちの仕事は、この世に生きる人々の生活を守るものだ。例えそれがバイトだろうと、立派な社会貢献。どうだ? 悪くもないだろ?」
若い男は顔を下に向け、数秒して顔を上げる。
「うっす」
覚悟の決まった若い男に、中年男性は満足した顔でタバコをポケット灰皿に仕舞った。
「あの人外は特に面白みもないものだ。特察課で身元の確認が済めば、すぐに焼却処分されるだろうな。特殊器官でもない限り、研究課に送られることはない」
「人外対策部にも、色んな種類があるんすね」
「あぁ、大きく分けて三つだな。人外対策部人外対策課。大体の人間が言う人外対策部は、この人外対策部に当たる。前線に立って人外と殺り合うやつらと、サポートをするやつらの集まりだ。人外対策部特別警察課。事件性のある人外事件や、捜査をする人外専門の警察だ。俺たち処理班も、この特察課の一つに入っている。そして、人外対策部研究課。人外についての研究や、武器の製造などを行っている。そんな感じだな」
若い男は帽子を取り、自身の膝と膝の間に帽子を取った手を置いた。
「研究されるにしろ、焼却処分されるにしろ。そんな最後は、例え死んでても嫌っすね」
「あぁ、そんな現実を見ないで住む人間は生きやすいだろうよ。だが、この現実を見てしまった俺たちは向き合わなきゃならん。人外という存在とな――」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
中々忙しく、執筆に手を付けられない日もありますが、本日もなんとか投稿することができて何よりです。
人外の寄生についての謎が長らく解明されていませんでしたが、遂にその謎も解き明かされたということで、またまたこの作品についての情報に触れられたかと思います。
ストックも少なくなってきたので、更に頑張って執筆していかなければ。では、また次回お会いしましょう。




