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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第二部 人外紀行
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第五十一話 タッチ

 人外に、人としての意識は存在しない。寄生された以上、宿主は亡骸のロボットなのだ。


 ジョン・ジャーニー


「一人でしれっと行くつもりだったのにな……でも、安心して来れたし、そのことは感謝しなきゃなぁ」


 駅から出てきた女性が一人、そう呟いた。


「良い機会だ。後腐れもない。ここから心機一転、頑張りますか!」


 二〇一三年、八島陽咲(やつしまひさ)は大阪の地に降り立った。


 ロングの赤い髪に、一七○センチほどの身長。黒のニットに、明るめな茶色のジャケットを着ている。デニムのショートパンツの下は、モデルのような長い足が目立つ。


 彼女にとっての、新しい人生の幕開けでもある。


 ◇◆


「本日から、臨時の巡回隊員の担当と、第五作戦班に配属させていただきます。八島陽咲です。よろしくお願いします」


 八島が頭を上げると、五人の男性隊員が笑顔でそれぞれ自己紹介を始めた。


 人外対策部には、作戦班と呼ばれるものがある。大規模な人外事件が発生した時、巡回隊員含めそれぞれ所属している班へと合流し作戦に移る。


 八島が当てられたのは、欠員が出た際の巡回以外、基本第五班でのデスク業務となっていた。八島は自身のデスクに誘導されると、デスクの椅子に座った。


杉浦(すぎうら)、八島に第五班での仕事について教えてやってくれ。俺は会議に出なきゃならん」


 五〇代ほどの男性隊員がそう言うと、杉浦と呼ばれた若い隊員が指示通り、八島に説明を始めるフリをした。彼が会議に向かうと、杉浦と呼ばれた隊員は肩の力を抜いた。


「どうかしましたか?」


 八島がそう言うと、杉浦は溜め息を吐きながら答えた。


「会議っていうの、絶対嘘ですよ」

「どうして?」


 他の三人は、先程の笑顔とは違いやる気のなさそうな顔で業務についていた。


「葉山班長、いつも仕事を私たちに押し付けてタバコ吸ってるんです」

「それ、他の人たちにバレないの? というか、上に報告すれば――」

「それができないんです。葉山班長、上層部が入れた厄介者で……あの人、ろくに戦闘経験もないのにコネだけで上がってきたんです」


 八島は、納得したように顔を縦に揺らした。


「下手なことが言えないのね」

「そうです。八島さんも、大阪から出て行った方がいいっすよ。良い班もありますけど、別の班へ移動するなんてさせてはくれませんよ。あと、ハラスメント系も多いので気を付けてください。前は、女性隊員を自殺に追いやったことも――」

「分かった。ありがと、教えてくれて」


 重い空気が流れる。この班では杉浦の方が先輩だが、人生としては八島の方が先輩であった。八島の少し余裕そうな顔を見て安心したのか、杉浦は仕方なく仕事についての説明を始めた――。


 ◇◆


「もしもし〜?」


 屋上で、壁に凭れながら八島はスマホを耳に当て街を眺めていた。


「うん、中々楽しそうな職場だよ。そっちは?」


 周りに人はおらず、八島一人であった。


「よかった。あっそうだ。羽田ちゃんが言ってた知り合いの名前、誰だっけ」


 しばらく話していると、屋上のドアが開く。


「じゃあね、またどっかで飲みに行こ」


 八島が電話を切ると、目の前にある男が現れる。


「楽しそうに電話してたね?」

「おや、班長さん。名前誰でしたっけ」

「葉山だ。新人なら一発で覚えろ」

「無理ですって〜あと、新人でもないですよ。元々東京で隊員やってましたし、こっちのやり方は知らないですけど」


 八島は笑顔で答える。葉山の顔は、何か別のことを考えているようだった。


「まぁいい。今日は飲みに行くぞ、新人は歓迎しなきゃな」

「飲みですか! いいですね」


 すると葉山が、八島の凭れかかっている壁に勢いよく手を当て、顔を近付ける。


「忘れんなよ、ここでは俺が全てや。逃げる事は許さん」


 残された左手が、八島の胸へと近付く。


「いいんですか? 人、来そうですけど」

「あぁ?」


 すると、屋上のドアが開く。葉山は焦ったように八島から離れ、その姿を見るとバツが悪そうに去っていった。


 入れ違いに、男が横目に葉山を見ながら八島に向かって歩いていく。


「あなたが、八島さん?」


 八島は、その男を見た。


「おや、もしやあなたが西山さん?」


 西山三平(にしやましんぺい)。若くして人外対策部のエリート隊員となり、大阪の人外対策部では有名な人物であった。


「羽田ちゃんから話は聞いてるよ。若くしてエリート隊員になるなんて、お強いんですね」

「八島さんこそ何を言ってるんですか。同じくらいの歳で、同じエリート隊員になってるじゃないですか」

「ここじゃただの隊員だよ。元エリート隊員ってだけ。あなた様には及びませんですことよ〜」


 西山は軽く笑うと、他愛のない話をした。自販機でコーヒーを二本買うと、八島に向かって投げる。


「ほい」


 八島がキャッチすると、西山は出入り口の方へと歩き出す。


「なんかあったら呼んでください。羽田さんのご友人ですから、私もできるだけのことはしますよ」

「サンキュー」


 西山が去ると、八島はホットコーヒーの缶を開けて飲み出す。


「……ありがとな、これなら安心できる。しかし西山よ、私はココア派だ」


 ◇◆


 午後二時頃、八島がトイレから戻ろうとしていた時であった。


「八島」


 その声に、八島は答えない。


「おい!」


 肩を掴まれ、八島は立ち止まる。


「上司に向かってなんだ? その態度は」


 八島は振り向かない。


「良い機会だ。上下関係を――」

「いいんですか? 向こう、なんだか騒がしそうですよ?」


 廊下の向こうは、八島の言う通り騒がしかった。


「葉山班長!」


 男が一人、葉山に向かって駆け寄る。


「大規模人外事件が発生。第二班、第五班、第六班は城島(じょうしま)指揮官の指示の下、直ちに現場へと出動せよとのことです!」


 葉山は頭を掻いた。


「あーハイハイ、連絡ご苦労さん。八島――どこ行った?」


 既にその場には、男と葉山の二人しか居なかった。


 ◇◆


 人外事件が発生したのは、ある工場であった。職員のほとんどが人外化、第一、第二、第三工場の人外殲滅が今回の任務だった。


「作戦といっても、簡単なものね」


 八島は、杉浦隊員と共に緊急車両のある車庫へと向かっていた。


「ですね。第一工場は第二班が、第二工場は五班。第三工場が六班を殲滅します。第五班は、担当オペレーター二名がサポートをしてくれます」

「いや〜私、大規模作戦への参加経験自体はあるんだけど、班に所属はされてなかったから楽しみだな〜!」

「楽しみって……八島さん前はどこに配属されてたんですか?」

「病院」


 その言葉を聞いて、杉浦は顔を変える。


「病院勤務って……相当な実力がないと――」

「そんなことないよ〜。期待してるぜ、杉浦先輩」


 車庫には既に、他三名も揃っていた。車は、装甲車のような頑丈な作りをしていた。運転席と助手席の後ろには、大型のトラックにある荷台のような場所があり、そこには隊員が座れる横長の座席が向かい合っていた。


「後はあの班長か」

「置いていきたい……」

「部下にそんなこと言われるなんて、相当な人だなぁ」

「八島さんは、なんでそんな余裕そうなんですか……」

「ん〜? いやぁ、私って相変わらず年下に弱いなと」

「……?」


 杉浦は、何を言っているのか分からないといった表情をしていた。


「シャッター開けて!」


 運転席に座った隊員がそう言うと、杉浦が答えてシャッターを開けに行く。八島は後部座席に座ると、装備の最終チェックをした。


 人外対策部の緊急車両が、歩道を超えてアスファルトの上に降り立つ。シャッターが閉まり、杉浦隊員が乗り込む。


「お前たち! いつものように前線に出て戦え」

「はい……」


 いつの間にか乗っていた葉山に、隊員たちはゲッソリしながら答えた。八島だけは、明後日の方向を見ていた。


 ◇◆


 ――⁇⁇


「……気を付けろよ」


 ある女性がそう言った。


「大阪の人外対策部には、厄介なやつがいる。堺に行けばよかったものを……どうして大阪なんだ。今すぐにでも、行き先を変えたらどうだ?」


 その女性は、溜息を零していた。八島は答える。


「知り合いが居るんでしょ? だったら会ってみたいじゃん!」

「あの班がマシなだけだ。大阪の人外対策部は、全国の人外対策部の中でもやばいことで有名だ。ろくな噂がない。堺の人外対策部が独立するわけだ。政令都市としての特権だな」

「じゃ、そっちにも逃げ道はあるわけだ」

「逃げ道な……そう簡単に逃してはくれないぞ……」

「いや〜案外、前とは変わってるかもよ?」

「それはないな」

「それはないかぁ」

「……お前はいつも楽観的だな」

「可愛い後輩たちを見てると、目の保養になって元気にもなるのさ」

「その理屈はよくわからん。それがお前の楽観的なところに繋がるのも、よくわからん」

「えー、可愛い子居なかったら今頃私はネガティブジメジメ女になってるかもよ〜? それに羽田ちゃんだって、後輩や年下は可愛いでしょ?」

「どうだろうな――」


 ――緊急車両は規制線を越え、工場の前に停車した。


「さて、やりますか」

「何か言いました?」

「ううん、何も。杉浦先輩がバディでしたよね! 頑張りましょう!」

「……? はい?」


 車から降りると、六人は工事へと近づいていく。オペレーターによる作戦開始の合図と共に、第五班は工場の中への突入を開始する。


 工場の中は薄暗い上、広く入り組んだ構造になっていた。隊列を組み、慎重に進んでいく。


 先頭には、下川(しもかわ)隊員と佐井嶋(さいじま)隊員が二列になり、サブマシンガンを構えている。その後ろに、(やなぎ)隊員がマチェーテを二本構えていた。


 その後ろから、杉浦と八島が二列に付いていた。一番後ろは、班長である葉山がアサルトライフルを構え他の隊員よりも周囲の警戒をしていた。


「先輩、後ろ見ときましょうか?」

「あぁ、頼む」


 隊列を組みながら移動する際は本来、後ろの人物が背後の警戒を行う。しかし、肝心の葉山班長は汗を垂らしながら落ち着かない様子で辺りに銃口を向け続けている。


 八島は自身の武器である、焔一刀(ほむらいっとう)を鞘から抜き構え、背後の警戒に当たった。


 焔一刀は、人外と異物を混ぜ込んだハイブリッド型の珍しい武器である。その刀身は長く、赤と黒が目立つ大剣と呼べるが、不思議な形をしながら細身でもあった。鞘から抜いた瞬間、その大剣は炎を纏う。


「!」


 葉山が突然、八島に銃口を向ける。


「そんな物騒なもんを、班長である俺に向けるな!」

「いや、後ろの警戒しとかないと、班長がそんなに注意散漫でどうするんですか」

「うるさい!」


 八島が溜息を零す。杉浦はその様子を尻目に歩いていると、前を歩いていた柳隊員にぶつかった。


「っ……どうした?」


 柳隊員は動かないまま、前を見ている。


「……来るぞ」


 前列の二人が、斜め上の天井に銃口を向けている。


「――」


 全員が息を呑む。薄暗くとも見える、天井に張り付いた無数の人外。


 人形の体は灰色で、皮膚は柔軟に見える。腰が曲がっており、顔は比較(ひら)たい方が突出したような姿をしていた。生え並んだトゲのある歯が上下に付き、紫の長い舌からは、とろみのある透明な液体が垂れていた。


 直後――葉山から、射撃の命令が下る。


「撃て! 撃てぇぇぇ‼︎」


 前列の二人が、サブマシンガンによる連射を試みる。人外の動きは速く、何体かには命中し、地面に落ち苦しみながら活動を停止していたが、大多数の人外は機械や天井を這いながら、飛び付くように攻撃を仕掛ける。


 飛びつく人外を、二本のマチェーテ持ちである柳隊員が捌いていく。杉浦隊員は、拳銃とナイフで近付いてくる人外と戦闘をしている。


 葉山班長はライフルで乱雑に撃つが、そのほとんどは無意味な鉄の塊となっていた。


 すると、杉浦に向けて三体の人外が向かってくる。杉浦の持つ武器で、計四体を捌くのは至難の業であった。


「くっ――!」

「下がって!」


 八島のその言葉を信じ、杉浦は後ろへと飛ぶように下がる。そこへ、八島の方から放たれた炎の斬撃が、四体の人外を焼き裂いた。


「離れないで下さい、先輩」

「あ、あぁ!」


 いつの間にか現れた人外は、工場を埋め尽くすほどに多く。ライフルを持った隊員は、リロードせざるを得ない状況まで追い込まれる。


 前列二人の隊員は、同時にリロードする状況を作らないよう、タイミングを調整できていたが、葉山班長は一人であった。柳隊員は一人で捌くのに精一杯な状況、誰一人として葉山班長を助けるものはいない。


「クソ! クソ! お前らん誰でもいい! 俺のカバーに入れ! はよォ!」


 オペレーターからの指示が入る。


「葉山班長の援護を」


 オペレーターの監視がある以上、下手なことはできない。見捨てることすら、許されないのだ。


「クソ! 八島さん、私は葉山班長の援護に! 援護お願いできますか!」

「おっけー!」


 すると、杉浦がリロードをする葉山に襲いかかる人外に向けて、ヘッドショットをかます。八島は杉浦に向かう人外を処理しつつ、自身に向かってくる人外も処理をする。


「キリがない! 何体居やがるんだ!」

「佐井嶋、一旦引くぞ」

「ダメだ! お前たちサブマシンガン持ちがこいつらをやらないでどうすんだよ!」


 班長の言葉に、二人は眉を(ひそ)める。下川が後ろに顔を向け、大声で放つ。


「班長こそ! ライフル持ってるんでしたら、こいつらもっと始末して下さいよ!」

「黙れ!」

「クソ班長――」


 飛んだ血が、下川隊員の頬にかかる。それは、先ほどまで佐井嶋と呼ばれていた隊員のものであった。下川隊員は、目の前で頭を食い千切られたその姿を見る。


「クソがああああ――‼︎」


 乱射するサブマシンガンは、人外を一掃すると役目を終え、リロードする隙はなく(しかばね)となる。


「班長! 撤退命令を! オペレーターもなんか言って下さい!」


 オペレーターは何も言わない。無数の人外に、なす術もなく食い殺されるのを待てというこの状況。冷静で居られたのは、柳隊員と八島だけであった。


「このままじゃ、みんながやられる。一番死を恐れているはずのあの石頭も、冷静な判断ができてない。あまりにも数が――!」


 八島は、ある場所に目をつける。


「ドアが一つ――あそこは、出口へ向かう通路のドア。そして――しめた!」


 八島は突如、杉浦にこう言った。


「葉山班長のリロードが終わったら、私の援護をして下さい!」

「分かった!」


 八島は、葉山班長の近くにある人外が群がった縦長の巨大な機械に向かう。そして、人外に向けて焔一刀による炎撃(えんげき)を繰り出す。刀から放たれた炎の斬撃は、人外たちを貫通するように焼き切る。


 杉浦は指示通り、八島に背後から向かう人外に攻撃をしながら、自身に向かってくる人外の処理も行う。


「さっきよりも、私に向かってくる数が……柳隊員?」


 杉浦の後ろには、柳隊員が居た。


「俺は、読めたぞ。あいつのやろうとしていることが」

「……?」


 八島が炎撃を繰り出すたび、巨大な機械の一部が熱によって溶け、自重を支えれなくなっていく。


「とりゃ〜!」


 それは、木を切り倒すが如く、縦長の巨大な機械が、葉山班長と他三名を隔てるように地面を揺らしながら倒れた。


「な――何が起きた⁉︎」


 葉山班長は、状況の理解が追い付いていないようだった。


「お前ら! 俺の援護――」


 葉山班長の顔が固まる。倒れた機械に張り付き、自身の周囲を取り囲む人外たちを見ていた。


「あ……あぁ……ああぁぁぁぁ――!!」


 悲鳴と叫びが、耳にうるさいほどに木霊している。


「やめて! 痛い! やめろ! お前ら誰でぁ――助け――! やだ!」


 隔てた向こう側は、隊員たちには見えない。


「オペレーター、班長がやられました。撤退の指示をお願いします」


 八島が、至って冷静に通信機に向けそう言った。


「……撤退せよ」


 その言葉で、生き残った三名は、八島が見つけていた出口に向かう通路へ向けて走り出す。


「八島さ――」

「ほい、今は生き残ることが最重要任務!」


 通路を塞ぐ人外を、炎撃で退けながら進む。出口に飛び出し、八島たちは工場からの脱出に成功した。


「さて、と」


 八島が立ち止まる。


「二人は一度退いてて、私はもうちょっとここに残る」


 杉浦が驚いたように言った。


「何を言ってるんですか! 死にに行くんですか⁉︎」

「まぁまぁ、応援呼んできて!」


 すると、柳隊員が言う。


「俺も一緒に――」

「あなたなら分かるでしょ、杉浦先輩をよろしくね」


 数秒の間に、柳は杉浦の腕を引き、車のある場所まで連れて行った。


「ふぅ、久しぶりに暴れますか――」


 ◇◆


 ――第二班には、新しく二名の隊員が移動してきた。


「本日から第二班に配属された、柳俊光(やなぎとしみつ)だ。よろしく頼む」

「第五班から、ここに移動することになりました。杉浦たかしです。よろしくお願いします」


 そこへ、ガタイのいい男が近付く。


「よぉ! 最近ここの班長やることになった奈多山(なたやま)だ。よろしく頼むな!」


 杉浦たちは歓迎されながら、新たな班での仕事に移っていった。


 ◇◆


「いや〜、やられちゃったな〜」


 八島が歩きながら、そんなことを呟いた。


「あっても別の県への移動かな〜って思ってたけど、まさか公安自体に来るなとは。権力を持った大人は怖いなあ」


 紙パックのいちごジュースを片手に持ち、ストローを口につける。もう片方の手は、スマホを持ち耳に当てていた。


「お前バカだろ」

「いや〜あんな若い子が、あんな上司の下で働いてるとか可哀想でしょ〜」

「捕まらないだけ運がいい方だ。事故で処理されたのも、西山や奈多山が上手く話をつけてくれたからだぞ」

「お陰でその人たちが居る第二班に、二人を移動できたしね」

「お陰で、じゃない」

「良いじゃん、結果オーライよ」


 電話相手は、溜息を吐いている。


「お前はどうするんだ? 公安から追い出されて、武器も……」

「武器ならあるよ?」

「……は?」

「民間に入った」

「……」


 八島はジュースを飲み干すと、たまたまあった自販機横のゴミ箱に入れた。


「てか、大阪の人って思ったよりも関西弁使わないんだね?」

「……仕事だからだろ」

「あー、そっか」

「……まぁ、いい、私がお前の人生に文句の一つも言う権利はない」

「流石羽田ちゃん、話が分かる」

「西山と奈多山には、ちゃんと礼を言っておけよ」

「ほいさ! ……そういえば、西米の様子はどう?」


 数秒の沈黙の後、羽田と呼ばれた電話相手は答える。


「着々と仕事をこなして行ってるよ。バディとも上手くやれてる」

「……そっか、よかった」


 八島の顔は、安心したように笑顔を見せていた。


「お見送りありがとうって、伝えといて」


 あぁ、そう羽田は言った。別れの言葉を言い、八島は電話を切った。


「さて、良い機会だ。後腐れもない。ここから心機一転、頑張りますか!」


 それは、八島が最近どこかで言った一言。そして、これが彼女にとって本当の、新しい人生の幕開けであった――。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 お久しぶりです。ちゃんと書いてましたよ、この通りね。実を言うとリアルが忙しくなったり、色々気にしすぎて執筆の手が止まるということが起きていました。そんなスランプも乗り越え、久しぶりに人外を投稿することができたのです。待っていてくれた方々が居れば、心より感謝と一言を――お待たせしました。

 なるべく投稿を続けていけるよう努力しますが、無理のないペースでやっていきますので何卒。では、また次回お会いしましょう。

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