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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
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第四十三話 銀海上の戦闘

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。


 船が動き出す。出港の時間だ。


 天気は生憎の曇り。木漏れ日だけで、海の世界は照らされていた。


 それでも十分に明るく、波も落ち着いていた。船の大きさは、小型のフェリーほど。向かう先は小豆島。基本こういった島には、小さな人外対策部の支部が存在する。今日、船に乗っている私たちが小豆島に向かうのも、支部からの要請があったからだ。


 同じ船に乗船しているのは、5年ほどやっている普通級の隊員、吉原龍司(よしはらりゅうじ)だ。


「オロロロロロロロロロ」


 現在絶賛、船酔い中だ。


「薬は持ってこなかったのか?」

「忘れまじだ……」


 涙目になりつつも、海に次々と内容物を吐き捨てていく。そんな彼を尻目に、私は顔を海に戻した。


 矢羽田寺将(やはたじしょう)、小さい頃は変わった名前だと揶揄(からか)われたこともある。今となっては目立つ名前故、覚えやすい良い名前だ。


 小豆島までは、まだ少しある。私が、中に入ろうとしたその時であった――


「……! 矢羽田さん!こっち!」


 先程まで、マーライオンのようになっていた吉原が突如、私の名前を呼んだ。


 私はすぐに彼の下へと行くと、指差す方向へと目線を向ける。海の向こう。何かが体を出している。


 船と並行して進んでいて、最初は鯨やイルカなどと見間違えそうなそれは、決してそんなものではなかった。


 体表は黒く、スベスベとしている。すると、反対側に居た人々も何かを見つけたらしい。


 どうやら、一体ではないようだ。今、この船は人外に囲まれていた。パッと見で三体ほどか。左に一体、右に二体。


 海は、融合事件以降少しだけ危険にもなった。その為、船には必ずこういった時のための攻撃可能な装置が付いている。


 しかし、人外に対抗する為の手段じゃない。大きさ的には当てることはできるだろうが、使用できる回数にも限界がある。そもそも、前頭葉を破壊できなければ意味がない。


 今まで、海に適応した人外の事例はあった。だが、海の広さやその少なさから人外対策部も優先はしていなかった。


 基本、人外は地上で発生する。海で発生することなど、あまりないのだ。


 通常の人外が海の中で生きていけるのか、これは今でも分かっていない。最初から適応しているのか、後天的に適応していくのか。何しろ、人外については分かっていることが少ない。


 吉原はあまり使えそうにない。となれば、必然的に私一人での戦いとなる。


 人外は、少しずつフェリーとの距離を縮めていく。吉原には、乗客に中へと避難するよう誘導の役目を与えた。担当オペレーターとの連絡を取る。発砲の許可はすぐに出た。


 何せ、あれに攻撃する方法は銃くらいしかない。フェリーは速度を上げ、人外を撒こうとするがそれも無意味。ここでやるしかないのだ。


 銃を向けたその直後、人外の一体がこちらへ向かって飛び魚のように跳んだ。人外が地に足をつけたのは、むしろこちら側が有利だ。しかし、乗客が居るフェリーの上で、海以外に向かっての発砲は許可されていない。


 人外には足が生えている。足の先には、水かきのようなものがついていた。海に適応するためだろう。人型と言うよりも、蛙を長くしたような見た目のそれは、立ち上がるかと思いきや――そのまま横になった。


 瞬間、ヌメヌメとした体を動かし、人外は(うなぎ)のように船内を駆け回る。その動きは素早く、ナイフでは間に合わない。


 それどころか、時々突撃してきては噛みつこうとしてくる。厄介なのはそれだけじゃない。海にいる二体が、船体に噛み付いている。時々それをやめては、フェリーを右から左、左から右へと渡るように跳んでは噛みつこうとしてくる。


 船上では動き回る一体。海からは跳んでくる二体。明らかに一人で戦える相手ではない。エリート隊員ならまだしも、普通級の私では不利だ。


 小豆島までは、まだ少しかかる。着く前に、人外によってフェリーをやられてしまう。


 フェリーの後方部へと行くと、先程から床を這いずり回っている一体が、こちらへと迫っていた。その時――


 二階から――あるはずのない槍を手にした吉原が、雄叫びを上げながら人外に向かって刃を向け、落下の勢いで背中を突き刺した。


 槍は見事に貫通し、そのまま床へと突き刺さった。鰻を捌く時、固定用の目打ちを使ってから捌く。そうすることで、ヌメヌメとした体でも捌くことができるのだ。


 今の人外の姿が、まさにそれであった。人外は暴れているが、その姿も状況も、鰻のそれと変わらない。私は瞬時に、持っていたナイフで人外の前頭葉らしき場所を切り付けた。


 人外は活動を停止した。だが、まだ二体も残っている。吉原は槍を引き抜くと、私に槍を渡してきた。


「悪い。今にも吐きそうなんだ」


 なんともダサいセリフだ。だが、悪くはない。


「分かった」


 私は槍を受け取り、残りの二体に備える。槍は簡素な作りをしていた。船内にあったのもか、乗客が持ち込んだものかは分からないが、丈夫な白い棒の先端にナイフを付けただけの代物だ。


 しかし、この船の上ではそれだけでも十分な効果を発揮できるだろう。吉原は二階へと戻る。


 残り二体は海の中。私は、銃を片手に構えて撃つ。しかし、当たることはなく。それどころか海に入れば弾が減速してしまう。海からは、体の一部しか出さない。それだけでも、かなりの脅威だ。


 すると、二階から銃声が聞こえた。それは、左側を泳いでいた人外に命中した。吉原が撃ったのは二階から。上から撃てば、人外に攻撃しやすいのだろう。


 しかし、急所には当たっていないのか、暴れるようにこちらへと向かってくる。


 海から跳び、こちらへ齧り付こうと大口を開けた人外に、私は槍を向ける。


 たったそれだけのことで、人外は勢いのまま槍に刺さる。口から突き刺さった槍は、そのまま前頭葉らしき場所を貫通していた。


 人外は串に刺さった魚のような状態で、活動を停止した。これで、残るは一体。


 しかし、中々人外は出てこない。それどころか、フェリーの下側に攻撃を仕掛けている。どうやら、直接戦うよりも、沈没させた方が勝機があると見たらしい。


 しかし、船の下には――瞬間、ドォンと大きな爆発音のようなものが聞こえた。対・海獣用兵装、津名雲(つなくも)が使用された音だ。


 海獣の体を破壊できるロープが繋がっている槍を、船体から高速で射出するというものだ。


 海獣用のため、人外を想定して作られてはいないが、それでも十分だったらしい。人外は、一分もしない内に、水面に頭を綺麗に破壊された姿で浮かんだ。


 ◇◆


 気が付けば、私たちは小豆島へと辿り着いていた。乗員乗客に被害はなく。フェリーの方も、そこまで大きなダメージはなかった。


 吉原は島に着くまで、終始吐いてばかりであったが……彼が居なければ解決はできなかっただろう。間接的でも彼の活躍はあった。


 さて、仕事はこれからである。何せ、観光に来たのではない。小豆島では、先程とは別の人外事件が発生している。


 吉原が落ち着き次第。私たちは支部へと向かうことにする。ふと――海の方を見やった。


 曇り空は変わらず、木漏れ日だけが照らしていた。波は落ち着いており、曇り空が反射した 銀海(ぎんかい) と呼ぶに相応しいその光景は、私の目を細めさせるほどに眩しく美しかった。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 お久しぶりです。しばらくお休みを頂いての、久しぶりの投稿です。今日からまた、人外を楽しみにお読みになって頂けると嬉しいです。

 お休みの間も、沢山の人に応援、お読みになって頂けました。本当に感謝しかありません。これからも、人外を、どうぞよろしくお願いします。では、また次回お会いしましょう。

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