第四十二話 死神
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
寝転がり、空を見上げた。原っぱの上は心地良い。青空に雲がぽつぽつ。太陽が僕を照らしていた。
◇◆
僕の名前は日士嶋純頼。人外対策部の普通級隊員だ。みんなは僕のことを、死神と呼ぶ。どこかの隊員も、僕と同じ呼ばれ方をしていた気がする。
今日は5月24日。僕は新しいバディと共に、巡回をすることになっていた。
バディになった人は、何故だかとても怯えた顔をしている。きっと、みんなの呼び方のせいだろう。僕が死神だと。失礼だな。仕方がないじゃないか。
そんな憂鬱な気分も、この天気のお陰でなんとか気にならずに済みそうだ。
気が付けば僕は、カフェの前まで来ていた。
「美味しそう」
僕はカフェに入る。まだお昼には早いけど、たまにはこういうのも良いだろう。
バディは、まだ昼休憩の時間になっていないと僕を説得しようとするけど、そんなことは関係ない。
僕は構わず食べたいものを食べ、飲みたいものを飲んだ。満足すると、僕は巡回に戻る。
幸い、オペレーターはうるさく何かを言ったりはしてこなかった。その方がありがたい。僕はうるさいのが嫌いだ。このバディも、少し頭が固いんじゃないだろうか。でも、結局僕と同じく食べては飲んだのだから、人間っておかしな生き物だ。
昼が過ぎ、僕は足がクタクタになった。
公園のベンチに武器を下ろして、僕はその横に座る。バディは諦めたように、トイレに行くと言った。
本来、普通級にはベンチに置くような武器を持ち歩くことはない。でも、僕は研究所の人にお願いして、武器を作ってもらった。
月刀輝夜短刀と呼ばれる部類の武器だ。なんとなく、名前がかっこいいから僕がそう付けた。
輝夜には異物が使用されていて、血を吸う珍しい短刀であった。血を吸えば吸うほど強くなる。切れ味は勿論、使用者自身にも大きく影響する。
切れ味は良くなるが、研いでも良くはならない。たまに、動物でもなんでも血を吸わせる必要があるのが難点だ。その代わりに、刀自体はとても綺麗だ。まるで、月明かりが照らす夜空のような短刀だ。
休憩をしていると、オペレーターから人外事件の発生が報告される。場所はこの公園だそうだ。
かなり広いので、僕自身も気付いていなかった。バディは既に、現場へ向かっているらしい。仕方がないので、僕も行くことにする。
おっと、輝夜を忘れるところだった。
◇◆
バディは、既に戦闘を始めていた。人外は二体。僕はバディに、通信機の電源をオフにするよう伝える。
僕はいつも、戦闘中は通信機の電源をオフにしている。オペレーターから何か言われると、あまりにもうるさくて戦闘に支障が出るからだ。
上にも許可は取っているので、バディも仕方なくそれに従ってくれた。
さて、時に複数の人外と戦うことはある。今回は二体。だけど、それは僕にとっては好都合だ。血が二つも吸えるのだから。
二体の灰色人外は、こちらへと向かってくる。バディはナイフ、僕は輝夜を手に取った。
周りに壁のようなものが無いため、銃の許可が降りなかったそうだ。僕みたいな刀を持てば良いのに、みんな頭が固いんだなぁ。
一体の人外が、僕に向かって変形した腕を振るってくる。この人外、腕が刃のような変形をしている。まるでカマキリのようだ。
僕は輝夜でその攻撃を防ぎ、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。まずは邪魔な左腕を、輝夜の一振りで切ってあげた。
切断面から溢れた血は、僕の輝夜に吸い寄せられ、吸収される。輝夜の色は、夜空から夕暮れへ時間が戻るように変わる。
でも、まだまだ足りない。すると、バディが僕の近くまで退いてきた。
「日士嶋さん!俺のナイフだけじゃ太刀打ちできません!」
なんだか、とてもうるさいことを言っている。今の輝夜は、腕は切断できたが切れ味はまだ悪い。
人外の前頭葉目掛けて、短刀を震えるほどの力はない。人外の腕が邪魔で届かない。
片腕を失った人外が、僕から一度距離を取った。すると、背中合わせのようにしていたバディに、もう一体の人外が襲いかかる。なるほど、好都合だ――
僕は躊躇わず、バディの背中を刺した。丁度、人外にそのまま短刀は貫通して、ネギマのようになっていた。
「あっがっ――」
バディの方から血が溢れている。バディと人外の体からは、血は溢れない。短刀が吸い上げているからだ。短刀の色は、段々と朝焼けのように明るい色へと変わっていく。
残念ながら、最大出力には足りないようだ。だけど、これで十分。
僕は、短刀を捻り、刃を上に向ける。バディがうるさい声を出した。次に、短刀をそのまま上に向けて切り上げる。切れ味が上がり、僕自身の力も増した今。二つの体を切り裂くことなんて、造作もなかった。
人外とバディは、上半身だけが真っ二つになり、活動を停止した。後ろから、片腕を失った人外が僕に襲い掛かる。
朝焼けの輝夜は、人外の腕ごと、前頭葉を破壊した。辺りには、飛び散った絵の具のように血が散らばっている。
僕は少し歩くと、綺麗な原っぱの上に来ると、寝転がり、空を見上げた。原っぱの上は心地良い。青空に雲がぽつぽつ。太陽が僕を照らしていた。
今日も僕は生きている。そうだ、オペレーターに報告しなくちゃ。事件は解決したと。これで僕は、平和に今日を過ごせると。
「気持ちいいなぁ」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
最近、暑いようで半袖にすると肌寒いといった変な季節でございます。体調を崩す方も居ますでしょう。私も読者様も、体調には気を付けて過ごしていきましょう。では、また次回お会いしましょう。




