第四十話 気分屋
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
バイクは山道を走っている。乗っているのは、髪の長い女性だった。白のヘルメットに、ゴーグルを嵌めている。背中に、鞘に入った刀のようなものを背負っていた。
最近、この辺りでは人外事件が発生したばかりであった。人外は、現在も見つかっていない。山道で、父親と娘が殺された凄惨な事件であった。
「ここら辺〜?」
女性は突如、独り言のように喋り出した。すると、
「うーん、臭い」
「よし!」
スマホは点いていない。通話や通信機からの声ではない。その声は、鞘から聞こえていた。
「山の中、入ってみますか!」
「登山とかできるの?」
「なぁに、人生一回くらい!登山は経験しないとな!」
女はバイクから降り、ゴーグルを外した。
「よし!行きますか!」
◇◆
人外対策部には、特別隊員と呼ばれる者たちが居る。通常とは異なる理由で入った者たち、または特別な理由で通常とは違う行動をしている者たちだ。
浅香千夜、人外対策部の中でも制御が効かない上、実力者であったため特別隊員となった人物だ。
彼女に担当オペレーターは居ない。彼女が勝手に動き、勝手に報告するだけだ。自由に生きたい。それが彼女の希望であった。縛られるのは性に合わないらしい。
「山の良い匂い〜」
「山の匂いってどんなの?」
「鼻なかったなお前」
「そうだよ。だから教えろ」
「ん〜、良い匂い」
「語彙も、何もかも君は足りていない」
「だって勉強もしてこなかったも〜ん!」
フフフっと山道を歩く彼女に、刀は溜息?を吐いた。
「よくバイクの免許取れたな」
「天才だからね〜」
「否定もできないのが、ほんとに腹が立つ」
「いぇーい」
バカと天才は紙一重。公安が、彼女を制御できない理由でもある。
「そーいえば、臭いって言うのに鼻はないんだね。逆に人外はどんな臭いなの?」
「うーん、臭い」
「ありゃ、君も大概だね」
そう言うと、彼女は立ち止まった。
「うん、今のなし。違ったね」
「うん、臭い」
木々の間。そこから――人外が飛び出す。
彼女は、それを当たり前のように勘だけで躱した。
「おー、危ない危ない」
角が生えており、体表は赤黒く黄色い亀裂が見える。鬼のような姿のそれは、彼女の消えた虚空を切り裂いた。
体勢を立て直すと、人外が見たのは鞘から刀を取り出す彼女の姿であった。
刃は……折れていた。残っているのは、わずか5センチほど。とても人外を殺せるとは思えないそれを、彼女は握っていた。
「さぁて!いっちょやったりますか!」
すると、人外は動き出しもう一度彼女へ向かって爪を立てる。それを彼女は、刀で薙ぎ払った。
それも、当てたわけではない。人外の爪は、虚空にある何かに当たり、後ろへと吹き飛ばされた。
その直後、人外の攻撃をした右腕は、切られたことに気付いたように切断され落ちた。
人外は何かを察し、距離を取った。彼女も逃さないよう追いかけながら刀を振るう。本来であれば当たらない刃。しかし、確かに刃はあった。見えていないだけで、折れているように見えるだけで、彼女の刀には刃がある。
「てりゃー!」
人外は彼女の攻撃を躱す。そして――
「!!」
彼女は察し、人外から離れるように後ろへと飛んだ。瞬間、目の前には巨大な岩が現れる。
地面から突き出すそれは、人外の任意で出せる能力のようだ。人外は覚醒していた。
「でも――!」
彼女は見抜いていた。その人外の能力は、あまり強くはない。理由として、目の前にしか岩を出さなかったこと。そして、最初に岩による奇襲ではなく爪での攻撃を図ったこと。
ならば、答えは一つ。
「空!長くなって!」
空と呼ばれた刀は、彼女の要望にお応えする。彼女の姿は変わらない。刀も、一見何も変わっていないように見える。しかし――
「安全圏からの攻撃!受けて――みなさい!」
すると彼女は人外の居る方へ、刀を横へと薙ぎ払った。それは、近くに生えていた木をも切り倒した。その見えない刀身は、恐らく10メートルほどだろう。
目の前の岩すら切られ、貫通するように人外の前頭葉は破壊された。
彼女の実力も、この刀による影響が大きかった。そして、この刀は彼女にしか扱えない。刀が望まないのだ。
「終わり!」
そう言うと、彼女は刀を鞘に戻した。
「おつかれー!」
「ふー、数日ぶりに人外の血を浴びれて最高の気分だよ」
「ごめんごめん、だって遭遇しないんだもん」
「やっぱ、公安戻った方が良くね〜?」
「あなたの刀、一人で使わないと周りに迷惑かかるじゃん」
「人の血でも良いんだよ?人外と大差ないって」
「はいはい。山降りますよ〜」
「まだ山頂に辿り着いてないよ?」
「飽きた」
「えぇ」
彼女は飽きた。その一言で山を降り、バイクのあるとこへと戻っていった。
◇◆
山道を進んでいると、彼女は道に添えられていた花束を見つける。
「……」
「臭ーい。ここら辺で誰か死んだね」
「なるほど、じゃあ、あの人たちなのかな」
すると、彼女はバイクを降り、近くを歩き始める。
「?どこ行くの?」
「お花摘むの」
「トイレ?」
「ここでする気は起きないなぁ」
そんなことを言っていると、彼女は木の近くに生えていた物を摘み取った。
「君にとってそれが花に見えるなら、一度病院に行った方がいいよ」
「これは……お腹が空いただけです」
「でもそれ毒だよ?」
「えっでもこれ、シイタ――」
「カキシメジ」
「カキシメジ……」
「バリバリの毒キノコ」
「バリバリの毒キノコ……」
すると、彼女はそのバリバリの毒キノコを持ちながらバイクへと戻る。そして、
「お腹空いたでしょ〜!美味しそうなキノコ置いとくね!」
「死者だから毒は関係ないか〜!なるほど!アホ、バカ、不謹慎、義務教育の敗北」
「だって、良いお花見つからなかったんだもん!それよりお腹空いたの!行くよ!」
そして彼女はバイクに跨る。
「目指すは美味しい料理を出すお店だ」
「公安には報告したの?」
「飯食べたら報告します」
「ダメだこりゃ」
バイクは走り出す。山道の脇に置かれた花束には、美味しそうなキノコが添えられていた。たとえ毒でも、彼女なりの慈悲なのだ。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
二日連続で休んでしまい、大変申し訳ありませんでした……
ほんとにこんなはずじゃなかったんです……なるべくこうならないよう、今後も努力してまいりますのでお許し下さい……では、また次回お会いしましょう。




