第三十八話 異物
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
あれは、京都へ出張に出ていた時の話だ。
西山三平今年で31歳。子供の居るごく普通の社会人だ。強いて違うとすれば、僕は人外対策部のエリート隊員だ。
大阪の人外対策部に所属している僕は、本来管轄である大阪での仕事をするのだが、時に隊員が足りないと応援に行く場合がある。
その日、京都で起きていた人外事件の応援に行くよう上からの指示を受け、僕は京都へ向かっていた。
京都では現在、空が暗くなるという現象に見舞われている。被害は出ていないが、明らかに異常なそれを放っておけるわけもなく、他の都道府県からも招集して調査に当たっている。
暗闇のせいで植物は育たず、外は常に夜のような状態だ。一部の住人は、この状況に気味悪がって京都から離れていく。勿論、京都全体がこうなっているわけではないが、このまま解決せずに時が過ぎるのを待つわけにもいかない。
新幹線は、暗闇が広がる京都へと近付いていた。京都行きの車内に、人はほとんど居ない。
京都に入り、少しすると空が暗くなる。本当に夜のようであった。違和感があるとすれば、月と星が見えないことである。月から反射した光はない。それはつまり、完全な暗闇の世界。町の灯りだけが、唯一この京都を照らしていた。
窓の外は、異様な雰囲気に包まれていると同時に、町の灯りだけが星のように綺麗だった。
京都に着くと、僕はまず京都の人外対策部へと向かう。この夜の中でも、人外事件は発生しているらしく。暗闇故に、対応も困難を極めているとのこと。
確かにこの暗さであれば、通常の人外であれど姿が見えない。しかして、この現象を引き起こしている人外がどこにいるかも、いまだ分かっていない。
懐中電灯による灯りだけで、僕は道を間違えないようスマホに映るマップを頼りに歩き出す。
車はあまり走っていない。この暗闇だ。下手に走って灯りのないところへ辿り着けば、身動きが取れなくなるのだろう。
この現象が起きたのは、二日前のことだ。京都市を中心に、周辺が広がるように暗闇となった。
分かっているのはそれだけであり、この現象を引き起こしたと思われる人外による被害は、今のところ報告はされていない。
人外対策部に着くと、僕は早速巡回に当たることとなる。この暗闇では、すぐに出動ができず、被害が拡大する恐れがある為。巡回の数を増やし、いつどこで人外事件が発生しても対応できるようにしている。
僕が京都に招集された理由は、その巡回の人手を増やしたい為だ。
◇◆
エリート隊員である僕は、一人での巡回となり、暗闇の町を歩くことになった。
街灯により灯りは多少あるが、照らされている場所以外は暗闇のままである。通行人もあまり居らず、みんな家に篭っている。
店なども営業を停止しているところが多く。そもそもトラックなどがこの暗闇のせいで来れず、搬入ができない。
電車関係は、決まったレールの上を走るだけなので動かせるが、それ以外はこの暗闇では無理だ。国からの配給で、家には食料などが届けられるが、それも全て歩きか自転車で届けなくてはならない。
このまま長引けば、いずれ京都という町は終わるだろう。この暗闇は、雲や宇宙がおかしい訳ではない。人工衛星など、使えるものは使ったが、分かったことは空間自体が暗くなっているということであった。
今までこういった例は、世界でも報告されたことはない。間違いなく厄災級と言えるが、それにしては瞬間的な被害がない。
とにかく、今は巡回をしながら原因を突き止めるか、公安が動くのを待つしかない。
2時間ほど巡回を続けていると、担当オペレーターからの指示があった。どうやら、今巡回している近くで人外事件が発生したらしい。
僕は急いでそこへと向かう。僕が今回持ってきた武器は、光剣と呼ばれる光る異物を使用した武器であった。
辺りを照らすだけでなく、刃には人外の器官を使用した毒が塗り込まれている。暗闇の中でも戦えるように設計された、僕の武器の一つだ。
トンネル内や、灯りのない建物での戦闘を想定していたが、まさか京都でこのような活躍をするとは思わなかった。
人外の発生した民家へと辿り着くと、すぐに僕は中へと入る。住民は保護されているが、周辺住民は避難できていない。暗闇の中、どこから人外が現れるか分からないからだ。戸締りが今できる限界である。
民家の一階にはおらず、二階へと上がる。もし、家から逃げ出していれば、この暗闇の中、探し出すのはほぼ不可能だろう。
取り逃すことはできない。2階の部屋を開けると、そこに人外は居た。少女が一人、弱々しく助けてと言った。
少女に跨り、捕食しようとしていた人外に向け、僕は光剣で斬りかかる。人外は躱し、壁の方へと寄りかかる。少女は動けそうにもない。部屋は決して広くはない。
光剣の刀身を考えると、少女に当たる危険性も考え下手に振れない。秘策はあった。
「待ってろ。すぐに片付ける」
僕は、光剣の剣先を人外の目に向ける。幸い、人外はこちらの動きを伺っていた。
その時間が、人外の敗北を招く。瞬間――光剣から放たれた一直線の光が、レーザーのように人外の目を潰す。視界を奪った次に取る行動は、人外の前頭葉に向け刃を振るうことであった。
◇◆
血だらけの少女に応急処置をし、救急車が来れない為、僕はすぐに担いで病院へと向かった。
どうやら、人外化したのは少女の兄であったそうだ。目の前で兄が人外となり、自身を襲う。考えたくはないことだ。
少女は泣いていた。出血は止まったが、怪我は酷く、すぐに治療が必要だった。幸い、病院は近く、少女はすぐに治療を受けることができた。
◇◆
巡回を交代し、僕は一度人外対策部へと戻る。
まだ、この暗闇の原因は突き止められていないらしく、皆頭を抱えていた。
一つ、気になることがある。暗闇の直前、人外の姿は目撃されていない。そして、この世界には異物が転がっている。たまに、異物による異常現象が発生した事例が存在する。
そして、そういう時の専門家が、アラスカには居た。僕は、そのことを上に伝えると、その案はすぐに採用されることになった。
◇◆
FCS――融合事件以降、異物が世界に広がり、異物による事件や驚異的な能力を秘めた異物が確認されていた。異物についての保管、または事件解決を目的とする組織がFCSであった。
アラスカに拠点を置くが、世界のどこかで事件が起きた際に、協力を要請すれば来てくれる。
FCSはすぐに京都に着き、調査を開始した。僕たちの仕事はその間の巡回。事態の解明には、3日が掛かった。
暗闇が発生した中心地。そこの地中に、それは発見された。暗闇を発生させる異物。名前を侵食する暗闇と名付けた。
起動した原因は分からないが、その異物が起動したことにより発生した暗闇であったことが分かった。機械的な見た目をしたそれの、起動ボタンと思しき部分を押したことで、京都の暗闇はあっさりと消えることとなった。
その後、異物はFCSにより保管され、僕は大阪へと戻ることになった。
京都で起きたこれが、厄災級でなかったことは良いことだ。しかし、安堵の溜息の吐くのは早く。本当の厄災級は、京都ではなく大阪で起きていたことを知る――
あとがき
どうも、焼きだるまです。
異物とはなんぞや、と思った人居ますよねー。私から言えることは、巡導の運命も是非!お読みになって下さい!としか言えません。
元々こうするつもりでしたので、あとは読者様の考察脳に任せます。では、また次回お会いしましょう。




