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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
4/60

第四話 人外

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい


「クソ喰らえ!」


 酷い臭いと、ボロボロの小屋に囲まれた貧民街に喧騒が木霊する。


「あぁ⁉︎ テメーが俺の薬を奪ったんだろうが!」

「お前が俺のを取ったんだろうが!」


 どちらも目は血走り、恐らくはどちらも薬をヤっているのだろう。殴り合い、物を投げつけるが、それを止めるものは誰もいない。


 皆生きる事に精一杯で、他者に気を配る余裕なんてないのだ。ましてや、喧嘩をする者、窃盗をする者、薬を売る者、体を売る者、奴隷商人。その全てが、この貧民街では日常茶飯事なのだ。


 すると――喧騒の元である一人の男が、近くにあったフライパンを掴み取り相手の頭へとフルスイングしようとした。その次の瞬間――



 辺りは、フライパンを持っていたはずの男の血で染まっていた。



 ◇◆


 昼過ぎ――


 一人の女が、ボロ小屋の中で得物の手入れをしていた。すると、小屋の暖簾が広がり、そこからは顔面蒼白の貧民街にしては上出来な服装をした男が飛び入った。


「――! はぁ……はぁ……人外ハンターとは、あなたでお間違いないですか⁉︎」


 女は驚きもせず背を向けながら、


「そーだ。つーか、この辺で人外ハンターなんて俺くらいしか居ないだろ」


 そう言った彼女の肌は、この辺りでは珍しい白人で、髪はロングの赤焦げた色をしている。服はこちらもまた、貧民街にしては上出来な深緑色をしたコートに黒のシャツとダメージジーンズを履いていた。その手には、先程研いだばかりのサーベルが握られている。


「人外が、南の貧民街に出没したんだ! どうか退治してくれないか⁉︎」

「金はいくら出すんだ?」

「そんなこと言ってる場合か⁉︎ 今もこうしているうちに、被害が――」

「知ったこっちゃないねぇ……、俺は金にならないならやらないんだ。そもそも非公認の人外対策部やってんだから、無償で動くわけないだろう? 貧民街に人外ハンターが居てくれているだけ有難いと思え。で? 金は?」

「――……被害の出た区域の住民から集める」

「へぇ? 一体どれくらい集まるんだい? それ」

「分からない――」

「はぁ?」

「なら、いくら払えば動いてくれるんだ⁉︎」

「納得いく金があれば動くさ」

「その納得いく金を教えてくれよ!」

「いいんだぜ? 俺は――金が無けりゃ動かないだけだからな」


 その一言で、男は長い顔をして渋々答えた。


「三○……いや……五○○はどうだ⁉︎」


 五○○という数字は、この場所ではかなりの金額であった。数ヶ月は節約すれば、生きていけるほどの――


「ふぅん? いいぜ、受けてやるよその仕事。ただし、払えなかったその時は――どうなるか分かってるよね?」

「あぁ……大丈夫だ……」


 すると、女はサーベルを仕舞い立ち上がり、男の立つ出入り口へ向かう。


「南の方だったねぇ……案内しな、被害と人外の特徴は?」

「三名ほどが死亡したと分かっているが、それ以上は分からない。周りの住民は避難して、今は誰もその場所に近付けない」

「なるほどねぇ、――覚醒はしているのかい?」

「分からない。何せ一目散に逃げてきたからな……」

「そうかい、まぁいいさ」


 すると女は前触れもなく走り出し、男も遅れて必死にそれについていく。


 ◇◆


 ――女が男の指示する方向へ走っていると、段々と人は減っていき、遂には誰もいない場所へと辿り着いた。


 静けさが辺りを包んでいる。周りには、捕食された人であったであろうものが散らばっていた。


「こりゃ酷いねぇ。来るのが遅れたとはいえ、この被害を見るに……相手はもう覚醒しているねぇ?」


 女の後ろから遅れてやってきた男は、その惨状を見るや否やその場で嘔吐した。


「もういいよ、あんたはここから離れて金でも集めてきな? 俺一人で十分だ」

「……分かった」


 すると顔色の悪い男は、足元が蹌踉つきながらも走り去っていった。


「さぁて、こりゃもう寄生された人間……いや人外が居てもおかしくはないねぇ?」


 すると女はサーベルを出すと、構えながら歩き始めた。


 二、三分経ったであろうその時――女の左正面にあった一軒の小屋が、爆発でもあったかのように砕け散った。中からは――ターゲットであった人外が姿を現す。


「そっちから会いに来てくれるとは嬉しいねぇ⁉︎ いいぜ、遊んでやるよ」


 すると人外ではなく女の方から突撃し、慣れた手つきで人外の左腕と右腕を即座に切り落とした。


「そんなにノロマじゃ、俺とは対等に遊べないねぇ⁉︎」


 すると――人外は口を大きく開け、女に向け光線を放つ――が、それを女は平気で躱した。光線は後ろにあった小屋へと命中し、爆発するかのように砕け散った。


「物騒なもん持ってんねぇ⁉︎ でも当たんなきゃ意味ないんだよ!」


 すると女は、コートに隠していたダガーナイフを二本投擲、ナイフは人外の目へと刺さり人外の視界を奪う。


 後退りしながらも人外は、光線を無差別に撃ち始める。しかし、その女には効かない。人外との距離を詰めた女は、サーベルで人外の前頭葉目掛けて切りつけた。


「くたばりな!」


 切られた人外は、そのまま地面へと倒れる。前頭葉へダメージを受けた人外は活動を停止した。


「呆気ないねぇ……?」


 すると女は気付く。人外のすぐ側に、逃げ遅れたのであろう。怯えきり、アザだらけの痩せこけた少女を見つけた。


「こんな状況で生きているやつが居るとはねぇ? あんた、怪我はないのかい?」


 少女は首を横に振り、女に右太腿を見せた。そこには、何か針で刺されたような痕があった。


「これは、刺されたのかい?」


 少女は頷く。


「そうかい、じゃ、死にな――」


 女が持っていたサーベルは――少女の頭を無慈悲に、何の躊躇いもなく一刀両断した。


「悪く思わないでくれ? 寄生されたやつが生きてると、こっちの仕事が余計に増えるんだ」


 そういうと女は、何事も無かったかのように周辺を歩き回り、刺された生存者が居れば殺していった。


 ◇◆


 翌日――女の小屋に男は来ていた。


「約束の金だ……」


 袋に入った金を、男は女へと渡した。


「ちゃんとあるね……金は貰ったよ、さっさと出て行ってくれないか?」

「子供を……殺しただろ……」

「何言ってるんだ? あれは人外だよ」

「分からないじゃないか! もしかしたら人外にならな――」

「素人は黙っててくれないかな? うるさくて頭が痛くなりそうだ」

「あいつは……俺の……娘だったんだよ……」

「へぇ? あんたの娘、痩せこけている上にあんたは娘を連れて逃げなかったんだね?」

「――たまたま……側に居ない時だったんだ……」

「母親は?」

「――何が言いたい?」


 男の顔色が変わる。


「あんたさ、よくこんなけの金を集めれたね? 住民だけじゃ集まらないよ、これ」

「……貯金していたんだ」

「こんな貧民街でこれだけの金をかい? そりゃ凄いねぇ! 大層立派な仕事をしていらっしゃる!」

「……あんた――」

「分かってるよ、お前――奴隷商人だろ?商品であるやつらを殺したから怒っている――そうだろ?」

「……」

「そして仲間を呼んで、力尽くで私を奴隷にしようと?」


 アッハハハハ! っと、大きな笑い声が響いた。


「恩を仇で返すとはまさにこのことだな! アッハハハハ! なんだい? 俺を達磨にでもして性奴隷にでもしようかってか? いいねぇ! サイッコーだ」

「っ――そうだ! お前ら! こいつを捕らえろ!」


 その言葉と共に、暖簾から大男が二人飛び出し女へと襲いかかる。


「ふーん――ブサイク筋肉達磨になら、なれそうだね?」


 その瞬間、サーベルにより大男二人の手足は一瞬で切断されていた。文字通りの、筋肉達磨となっていた。大男二人はその一瞬で、痛みにより気絶した。


 「ヒィィ!」っと情けない声を上げ、後ろへ尻餅をつく奴隷商人に対し女は、


「どうしたんだい? 良さげな商品があったから、私が代わりに達磨にしてやったんだよ? 筋肉質だけど……気持ちいいのかねぇ? この穴」

「化け物……」


 男の顔は青冷めている。


「あぁ? 俺が人外とでも言いたいわけ? まぁ否定はしないさ、人間の方がよっぽど人外より化け物してる。もしかしたら、人外はこっちであっちが人間かもな! アッハハハハ! ……倫理観なんてもんは持ってないんだ。あんたも同じだろ?」

「ッ――許してくれ!」

「倫理観なんて持ってないって言ったはずなんだけど? 金は貰ったし、あんたを生かす理由なんてないんだけど?」


 サーベルを向ける女は、冷めた顔で見下していた。


「ねぇ――あんたは、いくらで売れるんだい?」


 青冷める男に、女は更に距離を詰めていく。


「そこに転がってるブサイク筋肉達磨でも、買い取ってくれる物好きは居るのかい? あぁ、それとも君が買い取ってくれるのかい?」


 男は首を縦に振る。


「そうかい……じゃあ、金は要らないからこの達磨さん達でヤってくれないかな?」

「何を言っ――」


 男の開いた口に、サーベルの先端が突き付けられる。


「私を達磨にでもして、性奴隷にでもしようとしたんだろう? なら立場が逆転した今、私がそれをしても文句はないよねぇ?」


 ――その後、男は怯えながら、ただ許しを乞うだけの機械となってしまった。


 それに対し、女はつまらないの一言で男の頭を切り捨てた。


 ◇◆


 ――日が暮れ、月明かりに照らされる夜の貧民街。廃墟に囲まれたとある人気(ひとけ)の無い場所で、男達の死体は焼かれていた。そこに、黒のコートを羽織った小柄な男が一人現れる。


「師匠、また依頼人を殺したんですか?」

「あぁ、金は貰ったからもう用済みだ」

「だからって、こんな悪趣味なことする必要はあったんですか?」

「相手も悪趣味なんだ、文句はないだろう?」

「師匠よりも悪趣味なやつなんて居ないですよ」

「そうかねぇ? まぁいいさ、で?雑談をしに来た訳じゃないだろう?」

「はい、本題に入らせていただきます」


 すると男は、一枚の紙を師匠と呼んだ女に手渡した。


「貧民街復興計画?」

「はい、ある資産家がこの貧民街を開拓し、新しい町へと変える計画を発表しました。これにより人外対策部も設立でき、人外の被害も抑えることができると」

「そりゃ困るねぇ? 私の仕事の一部が無くなるじゃないか」

「はい、ですので続けるのであれば、他の貧民街に――師匠?」

「何、そいつを殺せばそんな計画を続けるやつも居なくなるだろう?」

「……そうですね」

「人外の巣窟に手を出そうなんてバカのすることさ。本当の人外は案外、矛盾しているけど人間なのさ」


 そう言うと、師匠と呼ばれた女はサーベルを研ぎ始める。


「明日、そいつのところに行くよ。あんたもついてきな」

「仰せのままに」


 ――喧騒の過ぎ去った貧民街には、いつも通りの日常があった。そんな貧民街では、表ではすることのできない仕事も、あるのであった。

あとがき

どうもー焼きだるまですー。人間って怖いですよねーお化けより怖いんじゃないかなーと思うんすけど。取り敢えず、次回もまた楽しんで読んでいただければなーと思います!

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