第三十六話 人と人外
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
「役立たず」そう呼ばれたのが、俺の人生だ。
生まれた時から俺は、大した才能も無ければ努力もできなかった。親にも罵られ、友人には陰口を。俺に居場所はなかった。
恨んだりもした。だが、それよりも俺は逃げ出すことを優先した。それでも、俺はどこに行っても役立たずであった。
気が付けば、ゴミ箱を漁り食べられるものを探す日々。人生なんてどうでもよくなっていた。ビルの隙間に居る、ただの浮浪者。それは、俺の人生そのものを表していた。
――その日は、やることもなく河川敷を歩いていた。あわよくば、食べれる雑草でも見つかれば良い。
ジャンパーが無ければ、冬の寒さには耐えられなかった。これを見つけたのは、最近では一番のラッキーだ。
冬は食べられる物も少ない。夏場であれば、食べ物はそこいらに落ちている。世の中の人間は、虫だと言って嫌うが、俺にとっては貴重な食料だ。
しかし、それも冬場では見つからない。ノビルなどは見つけられたが、収穫はその程度だ。
そのまま俺は、橋の下へと辿り着く。そこは、俺が休憩に使っていた場所だった。だが、そこには――弱った少女が体を丸めていた。
段ボールを下に敷いて、ワンピース一枚のみ。まだ幼いそれは、こちらを死んだような目で見つめる。
ろくでもない浮浪者なら、相手がガキだろうとおもちゃにしたかもしれない。どうやら、訳ありの雰囲気だ。弄んでもバレはしないだろう。
だが、俺が取った行動は、ジャンパーをかけることだった。
「……え?」
少女は目を丸くしていた。見れば、体は傷だらけのボロボロだ。俺も、子供の頃は体がボロボロだった。だからか、放っておけなかったのだろう。
「風邪引くぞ」
「……おじさん、私を殴らないの?」
どうやら、ろくでもない目に遭ったようだ。
「家出か?」
「……違う」
ならば捨て子か?と聞いたが、それも否定されてしまった。
「ならばお前はなんなんだ?」
「……お父さんとお母さんは死んだ」
親が死んで一人?ならば、本来引き取る人間が居るはずだ。それが居ないとは?
「そうか、どうして一人で居る?」
「一人で居ないと……怖い人たちに殺されちゃう」
「怖い人たち?」
すると、少女は言った。
「うん、人外を殺す怖い人たち」
少女が何を言っているのか、俺には理解できなかった。薬でも飲まされたのだろうか。
「人外対策部が?あいつらは人間を殺さねえよ」
「違う」
少女は立ち上がる。
「私は、人外なの」
その時、少女の左腕が変形する。だが、俺は怯みもしなかった。
「そうか、俺を殺すのか?」
「怖くないの?」
「役立たずの人生に未練はない」
俺の人生に価値はない。あるとしてそれは、初めて役立たずでなくなった時だけだ。
「……そう」
少女の腕は変形を止め、元に戻る。それを見て俺は気付く。
「お前……寄生虫に乗っ取られてないのか?」
「……分からない……私は……なんでこうなっちゃったの?」
そもそも、ここまでボロボロなのも謎だ。
「体の傷は人外対策部につけられたのか?」
「ううん、怖いお兄さんたちに虐められた」
「そうか」
この少女は、命の危機でも人を殺さなかった。どうやら、俺の知っている人外とは違うらしい。すると――少女のお腹の虫が鳴く。
「……」
「腹が減ってるのか?」
「うん……」
「……人外は、普通の食べ物は食べるのか?」
「食べれるよ」
どうやら、自分を食わす必要はないらしい。俺は、さっき取ったノビルと、カップラーメンを取り出した。
俺も、丁度昼食を取ろうとしていたところであった。ゴミ箱から見つけた、奇跡のカップラーメン。久しぶりのご馳走は、この少女に取られる。
火を起こし、川の水を軽く濾過してから沸騰させカップラーメンに入れる。
俺はノビルを火で炙り、そのまま齧り付く。ノビルはネギの仲間だ。焼くだけしかできなかったが、食べれる物には変わりない。何も入らないよりマシだ。
そんなこんなで、カップラーメンが完成する。箸は、近くに生えていた木の枝を貰った。苦味はなかったので毒ではない。
出来上がったカップラーメンを、少女に渡す。
「おら、食え」
「――!!」
少女は辛抱たまらんといった表情で、箸を手に取りラーメンを啜り出す。少女の顔は、幸せの絶頂といった表情をしている。
「うまいか」
「おいひい!」
「そうか」
そう言うと、俺は残りのノビルを食べる。
「おじさん、食べないの?」
「俺は草でいいよ、菜食主義なんだ」
「おじさん嘘つき、それならカップラーメンなんて持ち歩いてない」
勘の鋭い少女だ。冗談だから仕方ないが、それでも悪くはない。
少女は箸の持ち手を俺に向けた。
「おじさんも食べないと、お腹空くよ?」
「だから今、草食べてるだろ。それに子供はちゃんと食わ――」
「おじさんだってガリガリだよ?」
確かにその通りだ。ここ最近、まともに食べ物なんて食べていなかった。だから、カップラーメンを見つけた時は喜んだものだ。
それでも――俺はその箸を受け取らなかった。
「いいから、俺の分まで食――」
その時、口の中にラーメンを掴んだ箸を突っ込まれる。少女は真剣な眼差しであった。
不本意だが、ここまでされれば啜るしか選択肢はなかった。
「……美味いな」
そう言うと、少女は先ほどよりも笑みを強めていた。人外とは、到底思えない。いや、恐らくは人に近いのだろう。
「名前を聞いてなかったな。なんて名前だ?」
「名前ない」
「あ?親居たんだろ?戸籍だって」
「私のこと、秘密にしてた」
「……だとして、名前がないというのもいかがなものか……」
俺はしばらく頭を悩ませた。そして、一つの結論に至る。
「分かった、俺が決めてやる。お前の名前は――赤塚蒼だ。赤塚は俺の名字。蒼はお前の髪の色だ」
すると、少女はその名前を大変気に入った。赤に蒼と、矛盾した名前だがそれも良いだろう。
「おじさんの名前は?」
俺は立ち上がり、自身の名前を名乗った。
「赤塚栄一、役立たずの男だ」
こうして、人外の少女と浮浪者の奇妙な関係は始まった――
あとがき
どうも、焼きだるまです。
今回は戦闘シーンありませんでしたねー。たまには、こういう平和な回?も良いでしょう。
物足りない人は、是非時系列や謎を考察してみて下さい。意外と面白いかもですよ。では、また次回お会いしましょう。




