第三十五話 曇り空は永遠に
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
「外を歩けばポッポデロっ」
「何その歌」
女性隊員が二人、駅前を歩いていた。
「知らない?昔やってたアニメポッポデロの歌!」
「変な名前だな」
「めっちゃ可愛いんだよ!?」
ポッポデロの歌を歌っている若い隊員は、吉沢紗南だ。
「私は、その世代のアニメ知らないから……」
そう言ったのは、吉沢より年上である天宮時雨である。
「えー、有名なのにー」
「あんたの有名はどの程度なの?」
「うーん……このくらい?」
吉沢は、親指と人差し指で示した。
「分かるか!」
――鳩が駅の屋根に留まっている。一、ニ、三、数えるとキリがない。歩きっぱなしなので、たまには休憩もする。二人はベンチに座り、吉沢隊員は鳩の数を数えていた。
すると、吉沢隊員が白い鳩を見つける。
「あ!アルビノだ!」
「どこ?」
「あそこ!」
左端から三番目の鳩は、群れの中でも目立って見えるほど白く綺麗だった。
「初めて見たー!」
「よかったね」
片手にコンビニで買った珈琲を持ちながら、二人は他愛のない話をしていた。
歳の差はあるが、会話には困らない。それは、年上である天宮が合わせているというのもある。だが、吉沢も話題が途切れないほどのコミュ力を持っている。
世代は違えど、彼女たちの相性は良かった。特に苦もなく、いつもこの二人で巡回をしていた。
翌日、天宮の隣に吉沢は居なかった。昨日、仕事が終わり吉沢は少し先に帰ることになった。
天宮はやることがあり、少し遅れての退勤となる。吉沢の退勤から10分遅れで、天宮は帰路に就いた。
二人は帰る方向も同じで、退勤時間が合う二人は共に帰ることもあった。時に飲みに行くこともあり、一人で帰るのは久々であった。
駅に向かう最中、ビル街の一角を歩いていると、天宮の耳に悲鳴が聞こえた――天宮は、すぐに悲鳴の聞こえた方角へと走り出す。
幸い、隊員は仕事の時以外でもナイフや、一部特殊武器の携帯は許されている。人外の可能性も考え、天宮はすぐにナイフを取り出せるよう構えながら走った。
悲鳴は路地の中。奥へと入っていくと、悲鳴の主が現れた。必死に走ってくるその男は、天宮の顔も見ずに言った。
「助けてくれ!人外が――って女かよ!逃げるぞ!」
「……これでも人外対策部の隊員だ。あなたが逃げた方がいい」
「隊員か、助かった――頼む!」
そう言うと、男は走り去った。天宮は少し溜息を吐くと、男が逃げてきた方へ歩く。ナイフを取り出し、人外からの攻撃に備える。
すると、路地の角から――それは現れた。
人外には亀裂があり、まだ女性の人の姿をしていた。腕は変形が進んできており、その瞳には涙を浮かべていた。
「けテ……助……けて……天宮サン……」
天宮は数秒立ち尽くすと、心を殺しナイフを向ける。天宮の瞳に、光は無い。表情は死んでいた。
天宮ができることは、せめて苦しまないよう一瞬で急所を攻撃することだけだった。動きの鈍い人外は、天宮の一撃を受け活動を停止した。
――天宮は、人外事件についての捜査や追跡など、警察に近い動きをする人外対策部の特察課と、自身の所属する対策課に頭を下げ、前日の帰りに起きた人外事件を調査することになった。
今回の人外は、吉沢紗南である。しかし、なぜ人外が路地裏に居たのかそこに引っかかる部分があった。
そこで、昨日助けを求めてきた男性を探すことになる。不思議なのは、その男性が見つからないことであった。
人外の成長スピードは個体差があり、天宮が睨んでいるのは、その男が人外であるという可能性だ。
人外には、人間に化ける個体も存在する。吉沢を誘い出す――もしくは、無理やり吉沢を路地へと連れて行ったかだ。
吉沢も対策課の人間だ。男二人では無理だが、男一人くらいであれば対処はできるはずだ。それができなかったということは、男の力は人外並みである。
特察課は、警察並みの動きができる。通常の時間であれば、警察が動くが。人外が絡めば、捜査にも危険がある。すると、人外対策部が動いた方が安全なのだ。
聞き込みをしていると、2日後――その男を見たと言った住民を見つけた。その人によると、最近その男は都内のネットカフェに居るという。
店の名前を聞くと、天宮は車に乗り込み、そのネットカフェへと向かう。
「対策課の許可はどうやって取ったんすか?」
そう言ったのは、特察課であり今回天宮に同行することになった矢島だ。
「どうせバディが死んだんだ。許可なら捜査も進むとすぐに降りたよ」
「そうっすか」
矢島は車を運転させ、目的地へと走らせる。
「お前の相方はどうした」
「有給使って家族で旅行に行ってるらしいっすよ」
「そうか――」
天宮は、助手席で窓の外を見ている。空は曇っている。まるで、天宮の心を表しているようだ。
――都内のネットカフェの中、男はパソコンと睨めっこしている。男は、某ちゃんねるに書き込みをしていた。
スレ主のニート「やっぱまずいかな」
名無し「逃げてる時点でオワりだよw」
夢見るナイト「おつw」
スレ主のニート「なぁ、頼むよ!お前らの知恵で何か良い解決法見つけてくれよ!」
名無し「無理無理w海外逃亡でもしたら?」
夢見るナイト「もしくは、窃盗でもして捕まる?w」
茶柱「本末転倒で草」
スレ主のニート「もういいわ、自分でなんとかする」
名無し「おっ頑張れーw」
ナナシ「いや捕まれよ」
――男は、書き込みを終えると準備を始める。
「やはり、捜査のされない場所へ逃げるのが一番だ。まだ、警察は動いていない。動いているのは人外対策部の特察課だ」
男は荷物を詰め込むと、部屋から出ようとする。しかし、ドアは男が手をかける前に開いた――
「人外対策部だ。三原淳一郎だな。捜査に協力してもらいた――」
三原は矢島を押し退け、逃走を図るが――後ろで待機していた天宮に確保されてしまった。
「クソ!」
「何故逃げる?」
天宮は聞いた。すると、三原は開き直ったように言った。
「あぁ!そうだよ!俺がやった!あの女をな!」
三原は、力を抜いて諦める。
「あ〜あ!つまんねー!結局あの女犯かすこともできずに終わったし、別の女捕まえたらよかったなー!」
天宮は耳を疑う。
「――は?……お前……今、なんて言った?」
「……あ?……お前ら俺を捕まえに来たんじゃ……」
天宮の頭の中に、悪い予感が木霊する。
「……お前……現場にもう一人居たか……?」
「……谷西――」
「そいつは今日どこに居る!?」
「知らないよ!」
すると、天宮は矢島にその場を任せて突如走り出した。
「な――どこに行くんですか!?天宮さん!」
「予想が外れた!現場にもう一人居た!そいつが人外だ!」
事件の顛末はこうだ――吉沢は、帰宅途中に二人の男に絡まれた。一人なら抵抗できたが、流石に男二人には敵わず路地へと連れて行かれる。
そこで――二人は乱暴を働こうとするが、もう一人が人外化。吉沢に寄生菅である尻尾を刺し、吉沢を人外にする。そして、その男は三原も襲おうとした。
しかし、三原は逃げて私の下へと辿り着いた。その人外は、恐らく私に気付いてその場を去ったのだろう。
そして――「人外は今、栄養を求めてどこかで誰かを捕食しようとしている!」オペレーターにそのことを伝えると、事件が発生した周辺の警戒を促した。その直後であった――
「天宮!人外事件だ!場所はあの路地から200メートル先のビルの中だ!」
「クソ!遅かった」
その場所は近く、天宮は走って向かった――
通報によれば、さっきまで人間だったやつが、突如人外になったという。勿論、急成長を遂げる個体は存在するが、今回はそれとは違うと――天宮は気付いていた。
――ビルの前に着くと、天宮は自身の武器を取り出す。周辺の避難は完了している。応援も、もうすぐ駆け付けるが待っている暇はない。
相手には確かな知性がある。いつ、どう動くか分からない。それどころかこのビルはガラス張り、人外ならば容易く破って逃走することも可能だろう。
天宮は、中へと入り通報にあった階までエレベーターで向かう。オペレーターからは待機するように命じられていたが、今の天宮に待機という言葉は無い。
エレベーターは6階に停まり、天宮は銃を構えながらエレベーターから降りる。廊下は多方面に伸びており、部屋などが幾つもある。
「一つ一つ、虱潰しにやるしかないか……」
そう言うと、天宮は銃を構えながら歩き出す。一つ一つのドアを慎重に開け、人外が居ないかを確認する。
勿論、既に人外が別の階に行ってしまった可能性もある。だが、一人ではこうするしかないのだ。
応援が到着するまで、あと5分。天宮は、それまで一人で戦わなくてはいけない。
ビルの中は静かだ、物音は天宮が開けるドアの開閉音のみ。時々、人外にやられたのであろう死体も見かける。それでも立ち止まらずに、天宮は探し続けた。
そして――その時は来る。
九つ目のドアを開こうとしたその時――人外がドアを蹴破り、天宮を押し倒し跨るような姿勢となった。
人外の姿は赤黒く、亀裂は確認できなかった。角は生えており、尻尾もある人型だ。
「っ!!!」
天宮は怯まず、オートマチック式の拳銃で人外の頭を撃つ。しかし、人外は素早く避け距離を取る。
「クソクソクソクソ!!あいつさえ食えていれば、今ここでお前に寄生できたのに!」
その人外は、はっきりと人の言葉を喋っていた。
「人外が……人間みたいに喋ってんじゃねえ!」
天宮は怒り、人外に向けて発砲する。それを躱しながら、人外は天宮に接近する。廊下の上に薬莢が落ちる。その数は、7個。
「撃ち切ったな!それがお前の敗因だ女ァァ!」
人外は、天宮に近付くと右腕で天宮の腕を振り払う。銃を落としてしまった。天宮は、人外の攻撃を躱しつつ咄嗟にナイフを取り出し振るう。人外はそれを回避したことで、天宮はなんとかその場を切り抜ける。
「生憎と、銃よりナイフのが得意でね……」
すると、人外は言った。
「あぁ?その声……あん時の隊員かよ。チッ――なら警戒せずに殺しとけば良かったナァ――!?」
その瞬間、人外の右腕が切断され落とされる。
「喋ってる暇あるなら戦えよ」
それは――急接近した天宮が、ナイフで人外の右腕を切断したためであった。天宮に慈悲はない。既にあの時、この人外への慈悲は消え失せていた。
「舐めんなよ女ァァ!!!」
人外は左腕で、天宮を掴もうとするが届かない。天宮の姿勢は低く、素早かった。そのまま、天宮は背後へ回り込み、人外のアキレス腱を切り裂いた。人外は、そのまま前へと倒れ込む。
「な――!?何が――」
人外の頭に、先程はたき落としたはずの銃口が向けられている。
「――だが、その銃には弾が入っていない。近付いてナイフを使おうものなら、俺が左腕でお前を今すぐ殺してやる……!」
「あぁ、お前は一つ勘違いをしている」
「何をだ!」
「薬室には、弾が一つ入る――ということをな」
銃声が一度、6階に響き渡った。応援が駆け付けた時には、人外は活動を停止していた。
――その後、三原は強要未遂により逮捕された。天宮は特察課に礼をすると、対策課へと戻る。そこには、新たなバディとなる隊員が居た。
しかし、天宮とは合わず、わずか数ヶ月でバディは変わってしまった。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
これを読者様が読まれている時――私は休みが終わり、発狂していることでしょう……
休みが終わり、憂鬱かもしれませんが!そんな時は、小説でも読んで気分転換しましょう!
え?私の小説内容が重い……?明るい回を引き当てましょう。きっと、気分も明るくなります!ちなみに私は重い方が可哀想で可愛くて好――
「また次回お会いしましょう」




