第三十四話 未解決事件のファイル
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
住宅街のある場所で、人外による被害者と思われる遺体が発見された。一人には捕食痕があり、もう一人に捕食痕は見つからなかった。
どちらも背中に切り傷があり、捕食痕の無い方は、突き刺されたような痕があった。特察は、逃げていたところを殺されたと推測している。二人に血の繋がりはなく、二人の繋がりを示す人間関係も確認されなかった。
恐らく、人外に追いかけられている時に、たまたま目の前にもう一人の被害者が現れてしまったのだろう。
運が悪かったのだろう。現場は警察と捜索用の隊員に任せ、新米隊員である鳩羽と、長年隊員をやっている隅田は、巡回を続けた。
「しかし、捕食痕が一つしかなかったのは何故なのでしょう。捕食しているところを、通報者に見つかったとか?」
「それが妥当だろうな。そこの捜査は、担当の隊員にやらせるしかない」
人外対策部には、隊員やオペレーターの他にも、役割を持った者が居る。
前線で人外と戦う三つの階級を持つ隊員。前線で戦う隊員をサポートするオペレーター。そして、人外事件についての捜査や追跡など、警察に近い動きをする特察隊員。全体の指揮を取る司令官など、他にも前線には立たず、事務処理などをする者や人外対策部にも多数の仕事がある。
――しばらく歩いていると、オペレーターからの通信が入る。
「人外事件だ。そこから、北東120メートル先の民家とのことだ。直ちに現場に向かい、対処してくれ」
すると、二人は人外事件話のあった民家へと走り出す。
「さっきのとこと近いですねー。同じ人外でしょうか」
「可能性はあるな」
住宅街の空は曇り。どうも、明るい心境にはなれない。二人は、人外事件のあった民家へと辿り着く。周辺住民の避難は、完了しているらしい。
「突入するぞ」
「はい」
隅田の掛け声で、二人は民家に突入する。比較的新しめの家の中は、血に濡れていた。
一回のリビングに、現在進行形で捕食されている父親と思しき姿があった。既に死んでいる。
人外は、二人の方を振り返る。亀裂があり、角や尻尾がある典型的な姿であった。右手のみが大きく変形している。
「狭いな」
「オペレーター発砲許可を」
鳩羽が許可を求めると、オペレーターから許可が降りる。
「撃てます!隅田さん!」
「いいぞ――撃て!」
瞬間、人外が動き出す。咄嗟に撃つも外れ、鳩羽隊員に巨大な右手が振り下ろされる。しかし――間一髪のところで、隅田隊員がナイフ一本でそれを防いだ。
「家の外へ誘き出すぞ!」
「了解!」
すると、隅田隊員は上手く振り解き、二人は民家から飛び出してくる。人外もそれに乗り、二人を追いかけて道へと出た。
「ここならば、こちらも動きが取りやすい」
しかし――人外の視界に映っているのは、隅田隊員のみだ。人外の左後ろ。銃を構えていた鳩羽隊員が、隅田隊員を見る人外の無防備な頭を撃ち抜いた。
それは、一発で前頭葉にダメージを与え、人外は活動を停止した。
先程、二人で民家から出たのは、ただ戦いやすい場所を求めたのではない。相手の油断を誘うための行動でもあった。
「流石だな、鳩羽。およそ新米とは思えん」
「いえいえ、僕なんてまだまだです」
二人は、安心したようにすると一度民家へと戻る。無いとは思うが、生存者が居るかもしれない。処理班を要請しながら、二人は家の中を歩き回った。
すると、2階の部屋に犠牲になった少女を発見した。
「悲しいですね……?」
鳩羽隊員が、何か違和感に気付く。
「隅田さん」
「なんだ?」
「この少女……切り傷がありません」
「殺害方法が他なのだろう」
「いえ、刺されているんです」
「爪で刺したんじゃないか?」
「でも、さっきの捜索中だった二人の死体は切り傷でしたよね……?というか、もう一人にあった刺し傷……致命傷になるところじゃありませんでしたよ」
この少女にも、致命傷となるところは見当たらない。すると――オペレーターから通信が入る。
「先程、捜索中の二人の遺体の内、一つが動き出し人外化した!気を付けろ」
しかし、時は既に遅い。鳩羽の目の前には、起き上がった少女が――鳩羽の頭を切り飛ばしていたのだから。
「鳩羽ァァ!!!」
隅田隊員は、即座に武器を取り出すが――少女は隙を与えず隅田隊員の頭も切り飛ばした。
――人外事件は現在も解決していない。分かっていることは、人外は最初から一体ではなく、二体であったこと。切り傷と刺し傷の人外は別であったこと。それに気付かなかった為、隊員にも被害が出たことなど。
その事件は、現在も未解決の人外事件の資料に載っている。切り傷の人外は死んでいるが、刺し傷の人外は未だ見つかっていない。
少女の人外の方は、後に山井隊員によって討伐されている。もう一人は現在も行方が不明だ。
未解決の事件をデータに纏めている羽田オペレーターは、その事件を少しだけ見ると、画面を閉じた。
退勤時間だ。羽田オペレーターは、準備をすると家へと帰る。外は雨、傘を忘れた羽田は、仕方がないのでシャワー感覚で家に帰ることとなる。雨はまだ、止みそうにはない。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
もう百話まで残り三分の二になったんですねー。このまま続けていきたいものです。特に語ることはありませんので、また次回も楽しんで頂ければなぁと思います。では、また次回お会いしましょう。




