第三十三話 民間の光
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
「綺麗な海!綺麗な彩り!そして――beautifulおっぱ――」
ビーチパラソルの下、ビーチチェアに座っている青年は強く頭を叩かれた。下心を出していたその青年の髪は、赤焦げ茶をしている。
「仕事に来てんだから、ちゃんとやりなさい」
そう言ったもう一人の青年は、黒い髪をしていた。
「えー、せっかく沖縄に来たのにー飛軽のケチー」
飛軽と呼ばれた黒い髪の青年は、呆れたように言った。
「拓人、俺たち民間にこんな仕事が回ってくるのは珍しいことなんだぞ?それと同時に、ここには公安や他の民間の人外対策部も来ている」
拓人と呼ばれた、赤焦げ茶の青年は言う。
「まさか――人外対策部のみんなでパーテ――」
拓人は、また頭を叩かれた。
「危機感を持て、相手が分かっていないんだ」
「分かってるよぅ……もう……今回の人外は隊員を狙って被害を出しているんだろ?」
――3日前、民間で人外対策部をやっている拓人と飛軽の元に、公安からの依頼が届いた。
内容は、沖縄での人外調査に、民間である二人にも参加してほしいとのことだった。招待されていたのは、二人だけではなく、他の民間にもそれは来ていた。
その理由は、沖縄で現在起きている人外事件にあった――人外の特徴は分かっておらず、現在分かっていることは、人外は、人外対策部の隊員を集中して狙っているとのこと。
更に、被害は拡大しており、送られた隊員が次々に消息を絶っているという。
相手は、隊員の顔を知っているようで、特にエリートなどは優先的に消えているようだった。
このことから、公安もエクストラを下手に出し、切り札であるエクストラ隊員を失うのを恐れ、民間であれば優先されないだろうと、民間に依頼したのだ。
この依頼を受け、二人はすぐに準備をして沖縄へ向かうことになった。特に今回の依頼は、本来であれば近い民間に依頼すれば良いものを、わざわざここに依頼したということは、公安にも認められているということだ。
こういったものは依頼の増加にも繋がり、報酬として貰える金も大きいので受けない選択肢はない。
そうして、二人は沖縄の地に降り立ち、隊員であるとバレないよう観光客風の姿でビーチに訪れた。
問題は、人外の居場所を公安も掴めていないことであった。このままでは、囮となっている公安の隊員に被害が出る。
「拓人、やっぱり公安の隊員に張り付いたほうが……」
「いや、やめといた方が良いと思うなー。多分人外は孤立したタイミングを狙ってる」
拓人は冷静に分析していた。こんな男でも人外対策部の一員であり、試験でも勘の鋭さから評価を受けていた。飛軽が彼に付いて、共に民間をしているのもそれが理由だ。
「……拓人のそういうのは、確かによく当たる。だから信じてるけど、それでもビーチでくつろぐ理由にはなるか?」
「まぁ、なんとかなるでしょ」
隣のビーチチェアに座っている、楽観的な彼を心配する飛軽の目に――何かが映る。
「拓人」
「何?」
「今、拓人の左の方……奥に居た人が消えなかったか?」
「え?」
拓人は体を起こし、左側を見る。
「んぉ……見てなかったから分からん」
「だろうな……行ってみよう」
そう言うと、飛軽は今回のために水鉄砲風に塗装しておいた、人外用ハープーンガンを持った。
人外用ハープーンガンは、銃の先端に引き金を戻すと引っ込む特殊な返しのついた、槍のような物が付いており。引き金を引くと、金属糸に繋がれた槍が発射され相手に刺さった時、相手をこちらへ引き寄せるという人外対策部公認の武器だ。
しかし、扱いが難しく使う人間は少ない。今回は、それの特別仕様だ。(塗装は本人)拓人は、ライターのような小さな何かを持っている。
飛軽が見た場所に着く。しかし、異常は見当たらない。
「見間違いじゃない?」
「いや、確かにここに人が……」
「公安の人?」
「男性だった……服は隊員のものではなかった」
「囮役の隊員には私服も紛れてる。どうやらダメっぽいね」
「クソ……」
「被害の起きたタイミングを探ろうか」
そう言うと、拓人は公安に連絡を入れた。
「あ!公安の人ー!」
電話を今すぐ変わってやりたかった。仮にも依頼を頂いてる側だ、敬語を使え……飛軽はそのような顔をしていた。
「お!分かりましたぁ!あざます!」
スマホを仕舞うと、拓人は飛軽に言った。
「分かんない!」
「グーかパー、どっちがいい?」
「じゃあ、僕パー出すからグー出して!」
「おっけーグーね」
派手なパンチは拓人の右頬に命中し、拓人を後ろへ吹き飛ばした――
その後、公安からの報告により、日が出ている時間帯に被害が多いことが分かった。
「夜に被害は出ていないのか?」
ホテルにある食堂で夕食を取りながら二人は、夕方に届いた公安からの情報ついて話し合っていた。
「らしいよ〜。被害が発覚したのが夜だったってこともあるから、一概には言えないけど多いらしい」
大きく腫れた右頬を揺らしながら、夕食を食べている拓人が言った。
「夜は眠っているのか?」
「でも人外に睡眠って無くねー?」
「人の居ない夜ではなく、日が上っていないとダメな理由か……」
もぐもぐと食べている拓人が言った。
「昼に見たっていう隊員の人、一瞬で消えたんだよね」
「あぁ」
「丸呑みされたんじゃないの」
「はい?」
「被害の出てるとこ、全部日が当たるところなんだよねー」
「それがなんで丸呑みになるんだよ」
「カメレオンって、その場の色に体を変色させることができるらしーね」
飛軽が目を丸くした。
「人外は体を周りに同化させている?」
「しかもそれができるのは日が登ってる間だけとか?」
ぶっ飛んだ発想だが、有り得はするかもしれない。しかも、こういう時の拓人の勘は本当にバカにならない。
「分かった。つまり夜に探せば」
「出てこないだろうねぇ」
「……ならどうすれば?」
「それこそ、囮じゃないかな」
「……?」
「ごちそうさま!」
夕食を食べ終わった拓人は、部屋に戻る。飛軽も、残さず食べると拓人を追うように部屋へと戻った。
翌日――拓人に起こされ、飛軽は昨日のビーチから少し離れたところに車で向かうことになった。運転は飛軽だ。
「なんでここなんだ?」
「勘」
「ですよねー」
「勿論考えもあるよ」
「ほう」
しばらく車を走らせていると、目的地へと辿り着く。そこは道の途中であった。
「こっからは降りて行くよ」
「?車でも行けると思うけど」
「いいからいいから」
拓人に従い、飛軽は先へと進む。進んだ先にあったのは、人気のない広場だった。周りに建物は無く、あるのは中央に聳え立つ大木だけだ。
すると、拓人は言い出した。
「あの上にハープーンガンぶっ刺して、登ろう」
「なんで?」
「イイカライイカラ」
強引に押され、仕方なく飛軽は言われた通りにハープーンガンを木に向けて撃つ。朝早くからここに連れてこられ、やらされることは木登り。一体何を考えているのかと、飛軽は溜息を吐いていた。
「よいしょっと」
二人は木に登ると、拓人の指示で隠れるような体勢で木の上に座った。
「で?そろそろ教えてくれたって良いだろ?」
「シーッ、静かに」
そろそろ飛軽の拳が、拓人の左頬に行きそうだったが我慢した。そして20分後――広場に人が現れる。それは、公安の隊員であった。しかも一人。
隊員は、何かを警戒しているように歩いている。木の影は、隊員から少しだけ離れていた。そして――
木の影に一瞬、何か大きな動物の足のようなものが見えた――次の瞬間、
「飛軽!あの人の左側にハープーンガンを撃って!」
「!」
飛軽はすぐにハープーンガンを、指示通りの場所へ撃つ。ハープーンガンは、虚空を突いた。いや、そこには確かに何かが居る。
そこに居る何か――に刺さったハープーンガンが、こちら側に引き寄せる。二人は、引き寄せられたそれ――を避け、それは木の影によって姿を現す。
人を一人飲み込めるような大きな顔と口、前足は太く、後ろ足は短く小さい。太い尻尾の先端は細く、寄生菅が確認できる。
文字通りの人外、もはや化け物としか言いようのないその異形の姿。これが、沖縄で隊員を狙い殺してきた人外の姿だ――
引き寄せられた勢いのまま、人外は大木の枝に打ち付けられる。その枝を、人外は巨大な腕で掴むと、二人を睨みつけた。
「ホアアアアァァァ!!!!」
不快な鳴き声を放ち、人外は日の当たる場所へ行こうとする。しかし、飛軽がそれを許さない。
「行かせねえよ!」
ハープーンガンで撃ち、大木の影からは出させない。そして、拓人が昨日持っていたライターのような物を取り出し、大木から降りる。
「最新式の武器、とかと喰らうがいい!」
拓人は、そのライターのようなものを人外の前頭葉と思しき部分に向けながら突撃する。
「おおおおおおお!!!!」
しかし、人外は巨大な腕を振り回し攻撃する隙を見せてはくれない。更に人外の口も巨大ときた。あれに飲み込まれてしまえば一発だろう。すると――
「俺も加勢する!」
そう言ったのは、先程拓人によって囮にされていた公安の隊員であった。
「こっちだ!クソ人外!お前の好きな公安の隊員はここに居るぞ――!」
人外は挑発に乗り、隊員に向かって前足の力を使って走り出す。すると、人外の尻尾に飛軽のハープーンガンが当たる。
そのまま人外を引っ張り、大木にぶつけるようにした。大木に打ち付けられた人外に、公安の隊員が下から攻撃を仕掛ける。
しかし、人外はハープーンガンにぶら下がりながら、大きな口を開けて隊員を捕食しようとする。
このタイミングで、飛軽はハープーンガンのトリガーから指を離す。すると、人外を支えていたハープーンガンは無くなり、人外は地面へと打ち付けられる。
口が閉じた一瞬の隙――人外の目の前には公安の隊員。横から近付いてくる、拓人の存在は人外の視界に入っていなかった。
「ここだァァーーーー!!!」
ライターのようなものが、人外の前頭葉付近に当たる。そして、拓人は持ち手にあるスイッチを押す。次の瞬間、ライターのようなものからビームサーベルのようなものが現れた。
それは、人外の前頭葉を貫通した。前頭葉を破壊されたことにより、人外は活動を停止した。
「よっしゃーーー!!」
拓人は喜びで燥ぎ回った。飛軽は、やれやれといった雰囲気だ。公安の隊員も、安堵の溜息を一つ吐く。
三人の機転と、拓人の勘が当たり、無事に沖縄で起きていた人外事件は解決された。
沖縄での人外時間は、この人外によるものと判明した。太陽の光がある場所でのみ、周囲の風景に溶け込むことができ、その大きな口で隊員を次々と丸呑みしていったようだ。
通りで目撃例もなければ、隊員が次々と失踪するわけであった。巨大な割に軽く、地面に跡も残らないといった特殊な能力も持っていた。
囮となった隊員はエリート隊員へと昇格し、二人には報奨金として800万円が送られた。
二人で山分けして400万、民間にしては大きすぎるほどの収入であった。
せっかくの沖縄なので、一日だけ沖縄を楽しんだ後、二人は飛行機に乗り込んだ。
「いやー!僕たち更に有名になっちゃうね!」
「そして、仕事もこれから増えるぞーこれ。前と違って公安からの完全に認められちゃったし、忙しくなるよ?」
「良いじゃん!なんなら世界狙っちゃいましょうぜ!」
「世界って……拓人は何を目指しているんだ」
ワッハッハーと笑う拓人を尻目に、飛軽はやれやれといった表情を取った。
「なれるよ、拓人なら世界でも」
だから、飛軽はついてきたのだ。民間になると言った拓人を信じて――
「何か言った?」
「なんでもねーよ。俺は寝る」
「えー!」
アイマスクを付けて、飛軽は夢の世界へと向かってしまった。拓人は残念そうにすると、やることもないので窓の外を見つめることにした。
窓から見える広がる海は、どこまでも続いていた。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
えー実は私、沖縄に行ったことがございません。いや!中学校とかの修学旅行で行くだろう!?って?行かなかったんだなーこれが。てか、行けなかったんすよねー……悲しい……
せめて、小説の中だけでも沖縄を感じましょう……では、また次回お会いしましょう。




