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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
34/60

第三十二話 向き不向き

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。


 公安にある訓練場、地下にあるそこは、隊員の訓練や技術向上に向けたトレーニングなどに使用されていた。


「ぐっ!!!?」


 男が何かに吹き飛ばされ、後ろへ倒れる。


「立て、立たないと死ぬぞ」

「クソ――!!」


 男は立ち上がり、タバコを咥えた男に攻撃を仕掛ける。しかし、攻撃は防がれ、もう一度男は後ろへ飛ばされてしまった。


「がっ!」


 西米健(にしよねたける)、エリートオペレーターを辞め、隊員となった珍しい経歴を持つ。


「無闇に攻撃を振りすぎだ。それではどこかに隙ができてしまう」


 タバコを咥えた男はそう言った。


「どうすれば、強くなれますか……」


 西米は、手を地面につけながら、男に聞いた。


「ふむ、お前は間接戦闘には向かないようだな」


 残酷な言葉に、西米は拳を握る。歯を食いしばり、ただコンクリートの地面を見ている。


「お前、槍を持ってみろ」


 その言葉で、西米は顔を上げた。この訓練場には、沢山の代用武器がある。本物ではないが、実物と同じように使える訓練用のものだ。西米は、槍の代用武器を取りに行く。


 タバコを吸いながら、男は呟いた。


「こりゃ、時間が掛かるぞ。羽田(はねだ)



 西米は、エリートオペレーター時代に、担当していた隊員を失っていた。親友とも呼べる関係であった彼は、その隊員を亡くした時、酷く取り乱したという。


 そして、彼は誓った。親友を殺した人外を、この手で殺すことを。その為に、元々不向きであった隊員試験を受け、ギリギリのラインで合格した。


 しかし、成果は上げられず、ある人外事件で担当になった羽田オペレーターからの推薦で、この男の下で鍛えられることとなった。しかし、先程近接戦闘は不向きと言われてしまったのだ――


「このままじゃ、あの人外には勝てない……!」


 西米は代用武器を取り出すと、先程の男の元へと向かった。タバコは吸い終わったようで、ポケット灰皿へと仕舞っていた。


「これで良いんですね」

「あぁ」


 そう言うと、即座に訓練が始まる。西米の武器は槍の代用品、それに対して男は武器を持っていない。彼は手刀で相手していた。


「かかってこい――」


 その掛け声と同時に、西米は男に急接近した。槍を顎に向けて放つ――しかし、男はそれを躱し、片手で槍を掴み手刀で西米の顎を狙う。


 だが――先程とは違い、槍にしたことにより距離が生まれ、西米はそれを躱した。しかし、槍は依然として掴まれたままだった。


 すると、その掴まれた槍を利用し、槍を中央に遠心力を利用しながら飛び蹴りをする。蹴りは、男の後頭部を狙ったものだが、その前に槍を離されてしまった。


 西米は支えていたものを無くし、遠心力で後ろへと飛ばされる。そこへ、男は容赦なく襲い掛かる。


 西米はすぐに体勢を立て直し、次の攻撃に備えた。右、左、男の手刀は、相手が槍であろうと構わずに振るわれた。西米は躱しながら、槍で男の手刀を跳ね返す。


 しかし、次の一手も男は躱してしまう――

 結局、西米は男に一度も勝つことができずに、その日の訓練は終わってしまった。


「長くやっていれば、いつかは花が咲く時もある。少なくともお前は、今のところ死んでいない。せいぜい頑張ることだ」

「……はい……」


 西米は、悔しそうな顔をしたまま、訓練場を出た。訓練場を出ると、そこには羽田の姿があった。


「またコテンパンにでもされたか?」

「その通りですよ、梨花(りか)さん」

「その名前は、いい加減よしてくれないか」

「可愛い名前してますよ?」

「ならば、お前も相応しい名前で呼んでやろう」

「なんですか?」

西米(タピオカ)だ」

「なんで俺の嫌いなタピオカを名前に……?」


 嫌そうな顔をしている西米に、羽田は続ける。


「西米は中国語でタピオカだ。君はタピオカに愛されているらしいな」

「ただでさえ美味しくないのに、名前にまで入りませんよそんなの」

「なら、私を羽田と呼べ」

「それもやですね」

「変なプライドだな」


 そんな会話をすると、西米は巡回の準備をしに行った。


「羽田、来ていたのか」


 先程の男が羽田に近寄る。


「西米はどうだ?」


 男は首を横に振る。羽田は溜息を吐き、仕事に戻ると言った。


「お前も多忙だな」

「……だからあんたに頼っているのさ……じゃないと持たん」

「好きにするがいいさ、こんなご老体でも役に立てるならな」

「タバコをやめる件はどうしたんだ?」

「お前がオペレーターになったので吸います」

「ふん――勝手にしろ」


 羽田は、訓練場を去った――



 西米が巡回に入ると、通報はすぐに届いた。それも、西米が巡回中の場所からかなり近いところだ。オペレーターからの指示に従い、西米は人外事件が発生した場所へと向かう。


 本来であれば、普通級の隊員は二人以上での巡回が基本だが、この日は相方が途中で合流することとなっていた。しかし、その前に人外事件の通報が入ってしまった。


「こんなに天気が良い日に人外事件とは、人外も空気を読んでくれない」


 そう呟いていると、西米は早くも人外事件が発生した場所へと辿り着く。


 歩道の上を、人外が苦しそうに暴れていた。幸い、被害者はまだ出ていない。西米は、自身の武器であるナイフを取り出すと、人外へと近付く。


 人外は、まだ人の姿をしており、亀裂と赤黒く変色しかかった足が見えた。角は生えておらず、尻尾もまだ無い。


「チャンス――!」


 西米は急接近し、人外の前頭葉目掛けてナイフを振るう。しかし、それを人外は足蹴りで防ぐ。人外の蹴りは、西米の鳩尾へと当たった。


「ガハッ」


 西米は嘔吐した。その隙に人外が攻撃を仕掛けようとする。その時――


「させるか!」


 人外の背中に、ハープーンガンから発射された刃が刺さる。そのまま、人外は発射された方へと引き寄せられる。そこに居たのは、合流予定であった男性隊員、立花兵治(たちばなへいじ)であった――


 人外用ハープーンガンは、銃の先端に引き金を戻すと引っ込む特殊な返しのついた、槍のような物が付いており。引き金を引くと、金属糸に繋がれた槍が発射され相手に刺さった時、相手をこちらへ引き寄せるという人外対策部公認の武器だ。

 しかし、扱いが難しく使う人間は少ない。


 ハープーンガンによって引き寄せられた人外は、無防備な姿を晒している。ハープーンガンのトリガーを離し、人外に刺さっていた刃は取れ、人外は引っ張られた勢いのまま、歩道の上に叩きつけられ転がった。


「大丈夫か!?」

「あぁ、すまん助かった」


 西米はなんとか立ち上がると、二人で人外の方を向く。人外も立ち上がっており、変形も進んでいた。


「立花、ハープーンガンでやつを上空に飛ばせないか?」


 とても無茶な要望だった。だが、立花はその要望に答えることにした。そして、オペレーターに言った。


「空への発砲許可を」


 空への発砲は、落下した弾が人に当たる危険性がある。しかし、西米は周辺住民の避難が完了していることを前提で言っていた。


「……許可しよう。だが、無闇には撃つなよ」

「わかってますよ、無闇には撃ちませんとも!」


 すると、西米はオートマチック式の銃を取り出す。それと同じタイミングで、人外も動き出す。


 すると、立花はハープーンガンを信号機に向けて撃つ。信号機に引っかかると、ハープーンガンは立花を信号機に引き寄せる。


 そのままトリガーを解除する。引き寄せられた力のまま、立花は宙に浮いている。そして、ハープーンガンの狙う先は、人外だ。


 立花は、ハープーンガンを人外に向けて発射する。命中すると、今度は宙に居る立花の方へ人外を引き寄せる。その入れ替わりで立花は地面へと着地する。


 トリガーを解除すると、人外は引き寄せられた力のまま、先程の立花のように宙に浮いていた。人外は、空中で無防備な姿を晒している。その瞬間を――西米は見逃さなかった。


「当たれ!」


 放たれた銃弾は、人外の前頭葉に命中し、人外は空中で何もできないまま、活動を停止した。


「しゃーー!」


 立花と西米は、二人で喜びの声を上げた。



 人外事件は解決したが、相変わらず西米の訓練は終わらなかった。銃の腕前などは良いが、イマイチ近接性に欠ける。男は、西米にこう告げた。


「お前はエリート隊員になったら、遠距離から中距離を担当できる武器を手にしろ。お前は近接では何もできないが、一定の距離があればお前の戦闘能力は輝く。これからも、そのことを忘れるな」


 それ以降、西米はナイフはあまり使わず、中距離や遠距離の武器を扱うようになる。


 最初は槍、そして実績が積まれていくと、自身の武器を手にする。その頃は融合事件により発生した異物を使用する武器も開発されており、西米は異物を使用した武器を受注した。


 後に、王の槍と呼ばれるその武器は、西米にとって一番の武器となる――

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 ある程度の時系列が、なんとなく分かってきたのではないでしょうか。

 まだまだ不明な点もありますが、もし、読者様の中に気になるよ!って人が居れば。時系列などを、読者様なりに考察してみるのも良いかもしれません。では、また次回お会いしましょう。

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