第三十話 飛行機内にて
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
鉄の鳥は、雲よりも高いところを飛んでいる。
窓の向こうは雲海。雲海を見つめながら、男はイヤホンをしている。男の隣の席は空いている。
人外対策部は、世界各地に存在する。それ故に、人外対策部同士の交流などもあった。
八雲歩は、中国にある人外対策部へ向かう為、飛行機へと乗っていた。
本来であれば、もう一人同行する予定だったが、前日の人外事件により死亡した。
その為、予定を変更する訳にもいかず、八雲一人で中国へと向かうこととなった。
まだ、飛行機は日本の上空である。飛行機は順調に進んでいた――その時、前の方が何か騒がしいことに気付いた。
八雲の席は後ろの方に位置しているが、窓側の為前の方が見えない。仕方なく、席を降り確認する。そこには――変形を始める人外の姿があった。
機内アナウンスが流れる。
「機内にて、人外事件が発生しました。これより、空港へと引き返します。繰り返します、人外事件が発生しました。これより、当機は空港へと引き返します。乗客の皆様は、焦らず、乗務員の指示に従って下さい」
アナウンスが繰り返される。不運に見舞われた空の旅。幸いなのは、ここに隊員が一人居たことだ。
「避難して下さい。人外対策部です」
八雲は、乗務員に手帳を見せると、トランクに入っていたナイフを取り出す。
本来であれば、荷物検査で引っかかるが、ナイフだけは人外対策部の隊員にのみ、持ち込みが許可されている。
人外が発生したのは、前から3番目の列。
八雲は、近付く。すると、人外が突如――破裂した。
いや、本当に破裂したのではない。破裂したように見えたのだ。人外の頭は、不気味な赤い花のようになり、花びらの不規則な位置に、目や口があった。
「これじゃ、本当に人外だな」
化け物と呼ぶに相応しいその姿に、腕は赤く変色し、しなやかさが目立つ。
人外の変形には、人の形を保つものが多いが、一部、このような完全な怪物となるケースもある。
今回は、人の形こそしているが、頭や腕は完全にホラー映画のそれと変わらない。心臓の弱い人間が居れば、止まっていただろう。
次の瞬間――人外は何の前触れもなく、八雲に向かって跳んでくる。奇妙な動きは、もはや人間とは呼べないものだ。
八雲はナイフで人外の腕を切り、躱すが――人外は着地するや否や、続けて八雲に向け攻撃を放つ。
「ナイフ一本では、戦いづらい……」
八雲は攻撃を躱しながら、人外の隙を探している。人外の動きは素早く、このままではジリ貧だった。
座席は破壊され、遮蔽物も次々と無くなっていく。残された手段は――
「飛行機から、落とす――」
無茶な話ではある。飛行機から落とそうにも、上空から落とす為に、飛行機の扉を開ければ乗客が無事で済まない。
しかし――今は海の上だった。
「飛行機を海の上ギリギリまで降ろせ!さもなくば乗客全員が死ぬぞ!」
そう叫んだ。機長は決断に迫られる。このまま空港まで行くか、隊員の指示に従うか。前者は、隊員が耐えなければ為し得ない。しかし、隊員が耐えれるほどの時間は残されていない。選択肢は一つだった。
「これより、当機は、海の上へと参ります。乗客の皆様は、乗務員の指示を聞き――」
手動に切り替わり、飛行機は高度を下げる。
あと必要なのは――
「乗務員の誰でも良い!俺が引き付けている間に、海のギリギリになったらそこの扉を開けろ!チャンスは一度きりだ!」
飛行機は、限界まで高度を下げていく。海の真上、アナウンスにより、タイミングが伝えられる。
「開けろ!」
勇敢な乗務員により、八雲が人外を引き付けている間に扉を開ける。しかし、それは命懸けの行為、幸い裏で乗務員が作り上げた簡易的なロープによる命綱は、扉を開けた乗務員が飛ばされぬよう、しっかりと引っ張り上げた。
乗務員が下がったところで、八雲は人外を扉の方へと誘導する。
落ちれば、八雲も助からない。そして、人外は海への適性が未だ分かっていない。海に落ちたところで、人外が死ぬとは限らない。
「やるしか……ない!」
気合一閃、男は覚悟を決め、人外に向かって突撃した。ナイフを、人外に向かって――投擲する。
人外は、投擲されたナイフに気を取られ、しなやかな腕を使い、ナイフを払い除ける。しかし、八雲の本命はそちらではない。
先ほどからの、人外が暴れまくったことにより、座席が崩壊していた。壊された座席は、丁度いい大きさとなっていた――
「喰らえーーーーーー!!!!」
八雲は座席を放り投げ、人外に命中する。
人外は突如投げられた座席に対応できず、後ろへ吹き飛ばされる。そこは、先ほど開いたドアであった。
――しかし、人外はしなやかな腕で、縁を掴み。生き残っていた。
「くっ!」
人外は、投げられた座席を捕食しながら、機内へと戻ろうとする。
「化け物が!」
八雲も負けじと、流れるものを投げつけた。
すると、人外は遂に片腕だけでその体を支えるような体勢になった。その時――八雲の目の前には、先ほど人外に払い除けられたナイフが落ちていた。
そして、後ろには先ほど乗務員に使用した簡易ロープ。八雲は瞬時にロープを巻き付け、ナイフを取ると人外に一直線に向かっていった。
ロープの先がどうなっているかは知らない。もしかすれば、どこにも繋がっておらず、誰もロープを持っていないかもしれない。
その時は、八雲は人外と共に海へと落ちることになる――しかし、選択肢は一つだ。
八雲は雄叫びをあげ、ナイフで人外を支えている指を切り飛ばした。持ち堪えていた人外はこれにより、自身を支えていたものを無くし、海へと落ちていった――
八雲は、ロープに引かれ、海まで残り一歩を耐えていた。
「引っ張れ!」
ロープの先に居た乗務員たちにより、八雲は一命を取り留めた。ドアを閉め、高度を上げた飛行機は、アナウンス通り一度、空港へと向かった――
結果、中国に行くことは叶わず、日本に降り立った八雲だったが、誰一人犠牲者を出さずに乗り切ったことは、テレビでも報道されるほど、一躍有名になった。人外対策部からも評価を受け、過去の実績なども関係し、八雲はエリート隊員となった。
あの事件により、八雲はインタビューを受けた際に、こう言っている。
「飛行機はもう懲り懲りだ」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
遂に30話!ちゃんと続けてる自分、偉い!そして10万文字も書き続けてたんですね〜。
ここまでついて来てくれている読者様にも感謝!では、また次回お会いしましょう。




