第二十九話 才能
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。
「やだーーー!!!」
子供のように駄々をこねているのは、新米隊員の綾鳥圭一郎だ。
「お前――なんでこの仕事選んだんだ……」
見下ろし、呆れたようにそう言ったのは、山南司だ。
「なろうと思ってなったんじゃないですよ!これしかやれる仕事がなかったんです!」
「学か?」
「そうだよ!」
「勉強すればよかったじゃん」
「あぁもう!気付いた時には遅かったよ!」
「肉体労働系の仕事なら他にもあったろう」
「公安は給料が良いってことで、親に無理やりここで働けって強制されたの!」
綾鳥とバディになってまだ二日、出動命令が出ているのに行こうとしないのだ。信じられないが、これでも綾鳥は人外対策部の試験を合格し、隊員としてここへ配属されていた。
こんなのが合格できてしまう人外対策部の試験が、山南にとって怪しく思える。
「お前が行かないなら、俺は先に行っている。後でどうなっても知らんぞ。大人として仕事はするんだな」
すると山南は、本当に一人で行ってしまった。
「どうせ僕なんて……ついて行っても足手まといなんだ」
うずくまり、頭を押さえながら綾鳥はそう呟いていた。
――通報があったのは、マンションの8階。804号室だ。マンションの住人は、既に避難を完了している。発砲は壁に向かってならば許可が降りている。しかし窓や外はダメだ。
彼はまだエリート隊員ではない為、人外を使用した武器はまだ持っていない。
人外はまだ、部屋からは出ていないらしく。そこまでは、安全に行けるとのことだ。
エレベーターに乗り、8階へと向かう。
ナイフを前に出し、人外が突然現れても対処できるようにしている。オペレーターによると、人外の覚醒は確認されておらず、通報者は家族だそうだ。一人犠牲者が出ているとのこと。
「家族の一人が犠牲になって、残りが逃げ出して通報したってところだな」
通報時点での最後の人外の報告は、人の姿に近かったとのことだ。それは、変形の遅い人外に多い特徴だ。
オペレーターからの報告を一通り聞くと、エレベーターは8階へと着いた。目の前に人外は居ない。依然として人外は804号室に居るようだ。
山南は、804号室へと向かう。ドアの前に立つと、装備のチェックを手で軽く確認だけし、円形のドアノブに手をかける。
左手でドアノブ、右手でナイフを構えている。ドアは少しずつ開いていく。固唾を飲む。覚悟を決めると、ドアを素早く開け中へ入る。
人外の姿はない。フローリングの上は血に濡れており、血は奥にある一つの部屋へと引きずられていた。そこへ、恐る恐る近付く。物音は聞こえない。部屋のドアを素早く開けた。
人外の姿はない。あるのは肉片だけだ。それどころか、大きな窓が開いていた。
「クソ!遅かった。外だ――」
山南はすぐにマンションを降りる。どうやら、山南と入れ違いで、人外は8階から外へと飛び降りたらしい。
「ここは8階……壁を伝いながらか、もしくは翼が無ければ人外でも降りれまい。相手は覚醒しているのか?」
しかし、問題はそこではない。マンションの住民は避難できていたが、周辺住民の避難は一定の範囲だ。マンションを降りるロスタイムで、その範囲を人外が越える可能性がある。
山南は、オペレーターに近くを巡回中の隊員を要請するように言った。しかし、必要ないと言う。
「何故だ!?」
オペレーターによれば、巡回している隊員がこの辺りには少ないとのことだ。一つに集中してしまえば、他の場所で人外事件が発生した際に対応ができない。
「住民に被害が出たらどうする!」
怒りをぶつけながら、山南は階段の方が早いと降りていた。しかし、オペレーターも考えなしではない。
「たった今、一人の隊員が現場に居る。安心しろ――」
マンションの裏、人外と戦闘中なのであろう音が聞こえた。
山南は、大急ぎでマンションを降り、裏手へと回る。そこに居たのは、一人で人外へ立ち向かう――綾鳥の姿であった。
「綾鳥!?」
「山南さん!名前呼んでる暇があるなら――手伝って下さいよ!」
泣きそうな顔になりながらも、綾鳥はナイフ一本で人外の攻撃を捌いていた。試験を突破できた理由も頷けた。綾鳥は、戦闘に関してだけは才能があった。本人が気付いていないだけだ。
山南は、大急ぎでカバーに入る。
「ふん!」
山南の攻撃が入り、人外は後ろへ跳ぶ。躱されたが、一定の距離を取ることに成功した。
「人外の特徴は――」
山南が言うと、綾鳥は答えた。
「多分、あの手めっちゃくちゃネバネバしてる!」
人外の姿は深緑をしており、手には謎の液体が付着している。
「なるほど、マンションを降りることができた理由が分かった。粘着性の液体を使用できるんだな」
「多分……でも、あいつそれ以外は普通の人外と変わらない」
それを聞くと、山南は安心して攻撃を仕掛けた。
「どうやって人に寄生するのかは知らんが――ここで殺させてもらう!」
綾鳥も共に攻撃を仕掛ける。二人の連撃を、人外は躱す。その手に捕まれば、恐らくは逃げられなくなる。二人も人外の手には十分に警戒をしていた。
しかし、綾鳥の着ていたコートに、人外の手が触れてしまった。コートは人外の粘着性の液体によって、人外の手からは離れない。
人外はすかさず、もう一本の手から爪を出し、綾鳥の頭を狙う。
「綾鳥!」
しかし、綾鳥は死ななかった。雄叫びをあげながら、コートを素早く脱ぎ、攻撃を躱しながらそのままコートを人外に被せた。
人外の視界は塞がり、粘着性の液体を持つ手によって、コートは人外から離れない。
「よくやった!」
そう言いながら、山南は人外の前頭葉付近を、ナイフで斬りつけた――
コートに覆われていたので、大凡のところを斬りつけたが、何年も戦ってきた感覚は素晴らしく、見事に人外の前頭葉を破壊していた。人外は活動を停止した。
「やりましたか!?」
「あぁ」
「もう二度とやんないですよ!出動命令なんて来ても!」
泣き叫ぶように言う彼だが、なんやかんやで来てくれたことを見るに、決して悪いやつでもないようだ。
「あぁ、期待しているさ」
笑顔で答えた山南に、綾鳥は「何を!!?」とやはり泣き叫ぶような声で言ってきたのであった。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
後書き読んでる人って居るんですかね、まぁ別に本編読んでくれれば良いので、後書きとか無視しても構わないんですけどね。
なるべく本編に関係のないことを書いておりますので、暇がある人は読んでやるかぁ――くらいで後書きを読んで下さいませ。では、また次回お会いしましょう。




