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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
3/60

第三話 成り損ない

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい


 一九??年八月二日、午後三時 二十四分――

 奈良県のとある村にて、人外事件が発生した。


 人外対策部のある町からは、遠く離れていた。多数の被害が予想されていた――が、通報から二十三分ほど。ようやく、俺たちはその村へと辿り着いた。


「自然豊かですねー」


 そう言ったのは、女性隊員の花咲淳子(はなさきじゅんこ)だった。助手席に座りながら、まるでここに人外が居ることを考えていないように、呑気な顔でそう言った。


「気を引き締めろ、既に通報からかなりの時間が経っている。二人だけでなんとかできる規模の事件かすら分からんぞ」

「分かっていますよ、奈鳥(なとり)さん。人外が発生した民家は、村の奥だそうです」

「そこまでは、このまま車で行くか。住民の避難はできているのか?」

「通報によると、大半が避難できているようです」

「ならば発砲もできるな」

「そうですね。人外については、分からないことだらけですから。寄生の仕方が分からない以上、無闇に近付きたくはないですし」


 そんな会話をしながらも車を進めていると、目的地であった民家の前へと辿り着いた。


「降りるぞ」

「はい」


 人外が、家の中に居るとは限らない。もしかすれば――通報から時間も経った今、ここには居ない可能性もある。


 そんなことを考えながら、俺はリボルバー式の拳銃を上へ向けながら民家へと近付いた。


 ◇◆


 ――とても古い二階建てのその民家は人の気配はしないが、そのドアノブに手を触れた時、家の中で大きな物音がした。


「……突撃するぞ」

「分かりました」


 すると、俺たちはドアを素早く開け中へと入った。


「二階だな」

「階段が狭いですね」

「俺が二階に上がって始末してくる。お前は、一階でやつが逃げた時に対処できるようにしておけ」

「了解、お気を付けて」

「あぁ――」


 花咲を残し、俺は階段を登る。一呼吸をした後、二階の一番近い部屋のドアを開けた。


「人外対策部だ!抵抗をやめろ!」


 そこには――


 正座をした、赤黒い炎を少し纏った老人のような姿の人外が居た。人外は俺を見つめる以外、何もしてこない。


「……?」


 襲ってくる気配の無い人外に数歩近付くと、拳銃を前頭葉の部分に向けて構えた。その時――


「やっと来テクレましたネ」

「ッ――…………待っていたのか?」


 一筋の汗が流れ落ちる。


「ハイ……ですカラ早く……私を始末して下さい……」


 今までの人外事件の中で、このような事例は見た事がなかった。


「……あなたは――人外……なのですか?」

「さァ……人外なのか人間の方ナノカ……。ただ分かるのは、コウヤッテ自我を保ってラレルのも時間の問題だとイウことデす。さぁ早く、私を始末して下さい」


 人外は確かにそう言った。俺にできることはそれしかなかった。望み通り、迷わず引き金を引いた。


「ありがとう」


 そう、人外は言い残し絶命した。


 数分間その場に立っていると、下で待っていた花咲が二階へと上がってきた。


「奈鳥さん? 大丈夫ですか?」

「あぁ――すまない……考え事をしていた」

「何かあったのですか?」

「この人外は、殺されることを待っていた……。今までに無い事例だ。人外の意思なのか――それとも、人間としての意思が残っていたのか?」

「……分かりません。でも、少なくとも被害は無かったようですよ」

「通報したのは人外となる前の、こいつの妻であったな」

「もしかしたら……誰も殺したくはなかったのかもしれません。でなくては、その妻も恐らく通報される前に殺されていたでしょう」

「これでよかったのだろうか」

「分かりません。分からないことだらけなんですから――帰りましょう」


 俺は息を一つ溢すと、花咲に指示を出した。


「処理班へ連絡を」

「はい」


 ◇◆


 ――こうして何の被害もないまま、この事件は解決した。


 まだ人外について、詳しいことが分かっていなかったあの頃、あの人外はかなりの異例だった。今ならば、あの人外の謎を解明することができたのだろうか……。それは、誰にも分からない。


 今はもう隊員は引退し、淳子とのこの時間を大切にしていこうと思う。


 俺もきっと……人外となってしまっても、彼のように誰も殺さずに座して待つのであろう。その時が来ないことを、ただ願う日々だ。

あとがき

焼きだるまです。三話です。特にないです。次回も楽しんでお読みいただければ、それで良いのです。

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