第二十三話 人間か人外か
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい
人外だから、人間の敵である。それは、人類全体の共通認識だ。
事実、人外による被害は、数え切れないほど世界で起きている。そう思われても、おかしくはない。いや、それが事実なのだ。
ならば、私達は人間の敵なのか?私達は、人間なのか?抑えられない衝動は、何処へ向ければ良い?
「よっす!赤塚!何処行ってたの?」
ソファに座りながら、頭を後ろに倒して陽気な女が一人、赤塚と呼んだ女に話しかけている。陽気な女は、髪は黄色のポニーテールで身長は低めだ。
「ちょっとコンビニに行ってただけだよ」
赤塚と呼ばれた女は、名前とは違い、髪は蒼くロングである。
「何買ってきたのー?」
「酒とつまみ」
「あー!そーいえばタッキー誕生日か!」
「あぁ、酒で構わんだろ」
「いいね!じゃあ私もなんか作るかなー!」
「中山、お前料理できたのか」
「全然?」
「だよな、お前が料理してるとこ見たことない」
「でも簡単なものなら作れるっしょ!やってみるよ!」
そう言うと、中山と呼ばれた女は、キッチンへと向かった。
その時、赤塚のスマホが鳴る。
「もしもし?」
「赤塚、人外が発生するぞ」
「場所は何処」
赤塚は場所を聞くと、コンビニ袋を机に置いて、中山の居るキッチンへ向かう。
「どしたの?」
「滝流からだ、人外が発生するらしい」
「私も行こうか?」
「あぁ、上手いこと周辺の住民を避難させてくれ」
「任された!」
人外の中にも、人間を捕食せず、繁殖もしない者達が居る。その数は少ないが、彼らは人間でありたいと願っている。
ヒューマン、それが赤塚達が所属するグループだ。
指定された場所へ、二人は向かっていた。
「タッキーさ、赤塚のこと好きなんだって」
中山が走りながら、そう言った。
「知ってる。分かりやすい」
「だよねー!今日、告白されちゃうんじゃない?」
「どうだろうね」
そんな会話をしていると、目的地に着く。滝流と合流すると、
「確かに寄生されてたのか?」
「あぁ、あれはもう人間じゃなくなってる」
「敵対?」
「だね」
人外は、相手が人間か人外かを、見ただけで判別することができる。
同じ人外に対して、繁殖(寄生)しない為の能力なのであろう。
そのお陰で、私達は人間の為に戦える。
「中山、いつものやつで上手いこと、周辺住民避難させて」
「あいさ!」
「滝流は、適当に武器見つけてきて、私と一緒にやるよ」
「了解」
そう言うと、三人は別々に動く。
赤塚は、人外が入っていった雑居ビルへと向かう。
雑居ビルに人外以外の気配は感じない。幸い、ビルの中に人は居ないようだ。
赤塚は、周辺住民に上手く避難を促す。
その時、スマホに通知が鳴る。どうやら、もう一人のハッキングができる仲間が、上手く周辺に居る住民のスマホに、避難通知を出したらしい。
「よし」
赤塚は、人外の居る雑居ビルへと戻る。しかし、ビルの前には一人の男が居た。
「!」
赤塚は驚きながらも、男に言う。
「ここは危ないから早く離れた方が良い」
しかし、男は何が何やら分からないと言った表情だ。
「兎に角、どっかに行け!」
男を両手で押す。男を来た道へと戻すが、その時、大きな爆発音がする。
「クソ!」
赤塚は時間が無いと悟り、手を引くと走り出した。
「人外事件だ!知らされてなかったのか!?」
男は首を振っている。そして、赤塚に問う。
「あなたは、誰なんですか?」
「私は…今はどうでもいい!兎に角、離れないと!」
すると、爆発のした建物から、人外が飛び出してくる。
「人外対策部は何をしているんだ」
男がそう言う。
「まだ到着していない!」
「到着していない?君は隊員じゃないのか?」
「なんだって良いだろ!てか、あの人外追いかけてきてるぞ!」
人外は、猛スピードでこちらへと迫ってくる。
そこへ、横から現れた滝流が、人外に向かって鉄パイプで攻撃した。攻撃された人外は、ターゲットを男に切り替える。
「何をしてるんだ!」
滝流がそう言う。
「一人だけ避難できてなかった!」
「…俺が時間を稼ぐ!逃げろ!」
そう言うと、滝流は人外と戦闘を始めた。
滝流を信じ、私は男の避難を優先した。
「知り合いなの?」
「そう、取り敢えず今は後。命を大事に!」
二人は、向こうへと走っていった。
滝流は、周りに人が居ないことを確認すると、自身の両手を変形させた。
人の姿をしているが、それは確かに人外であった。
相手の人外は、よく見ると、腰にもう一本右腕が生えている。
「変な姿してんな、被害が出る前にその存在を消してやる!」
そう言うと、滝流は人外へと突撃する。
右手の爪を、人外の前頭葉目掛けて振るう。しかし、三本腕の人外は、滝流の右腕を掴み、それを阻止する。
そして、左腕で滝流の頭を握り潰そうと掴みにかかる。しかし、滝流も負けじと掴みにかかる手を左手で阻止する。
互いに掴み合い、滝流は持ち上げられるように、足が地面から離れる。
腕の数は向こうが上、塞がった二つの腕、相手は腰から生えている腕で、滝流の顔に今度こそ掴みかかる。
「クソ!」
すると、滝流の体が大きく変形する。先程の腕だけとは違い、全体が変形する。
皮膚は硬く、並の武器では傷を付けられないその姿。人外は滝流の頭を掴むと、力一杯に握り潰そうとする。しかし、滝流の頭は潰れない。
人外は3本目の腕を前へ出す為に、屈むような体勢となっていた。人外の目の前には、変形した滝流の足がある。
答えは一つだった。
「腕が足りねえなら、こっち足だァァ!」
滝流は右足で、人外の前頭葉を破壊する威力で、強烈な蹴りを一つ入れた。
硬質化した足による蹴りは、人外の前頭葉を確実に破壊した。
人外は活動を停止する。しかし、滝流の人外化は解かれない。
「…クソ…早く…人の居ねえところに行かねえと…」
その時、一人のスーツ姿の男が、目の前に現れる。男は腰を抜かし、動けなくなっていた。
「…ッ!バカヤロオオオオオオオオオオオオ!!!」
赤塚が戻ってくると、そこには人間を捕食している滝流の姿があった。その姿は人外、人間ではなかった。
「滝…流…」
「どうして…どうして…こうなっちまうんだよ…どうして…俺は…殺したくなんて…なかったのに!」
滝流は涙を流している。しかし、捕食をやめない。
5分後、滝流の姿は人へと戻った。
完全化、完全な人の姿をしている人外は、捕食行為や繁殖行為を抑えることができる。
しかし、力を解放する為に体を変形させ、完全体となると、捕食行為や繁殖行為を抑えることが、できなくなってしまう。
一度変形させると、戻ろうとする意思が生まれてから、10分が経過しないと、人の姿へと戻れない。
一部を変形させるくらいであれば、なるべく抑えながら瞬時に戻すことすら可能だが、完全体とは違い変形させた部分以外、人間ベースの為あまり強くはない。
今回は運が悪く、避難ができていなかった一人の人間が目の前に現れたことで、滝流は衝動のまま殺害し捕食した。本人の意思とは関係がない。
その日は、星空が綺麗だった。丘の上、赤塚と滝流はそこに居た。
「ここなら、いいよね」
赤塚がそう言う。
「人も居ないしね」
滝流は、悲しそうな表情をしている。
「どうして…こうなっちゃうんだろ…今までこんな衝動は無かったのに…」
男は、頭を抱えていた。
「どうせ、私達は人外ってことなのさ」
人間時に衝動は無くとも、一度完全体となれば、その衝動は現れる。
「殺してくれ…君の手で殺されるのなら、俺は安らかに眠れる」
「本当に…良いのか?」
「あぁ、人殺しでは居たくない」
「好き…なんだろ…?私のこと…」
「だから、残酷だけど君に殺して欲しいんだ」
滝流は涙を流していた。
「…あんたは、立派な一人の男だったよ」
赤塚の手のひらから、そこには無いはずの短刀が現れる。
「俺…人の役に立てたかな」
「あぁ、立ててたとも、仕方がなかったんだ」
そう言うと、赤塚は短刀で滝流の頭を両断した。
風が冷たい。
側には死体が一つ。夜空には輝く星々。赤塚は、静かに泣いていた。
「結局、誕生日パーティーできなかったね」
中山がそう言う。
「…今日の人外事件のせいで、公安がこの近くを彷徨いてる。ここも、そろそろ離れるべきなんだろう」
赤塚は、酒を飲みながら、つまみを雑に口に入れては食べていた。
「次は何処へ行く?東京とか?」
「東京はそれこそ危険だろう。もっと田舎のところかな…」
「まぁ、楽しいとこなら何処でも良いよ」
二人は、パーティー用に買ってきた酒やつまみを、一夜で全て使い果たした。
「どうして、こうなっちゃうんだろうな…私達はただ…普通の人間で居たいのに」
昔、同じような仲間が二人、公安に助けを求めた。結果は、殺され、実験体にされただけであった。
彼らも元は人間だ、どうしてこうなってしまうのか…何故、寄生されても尚、人間としての意思があるのか。
何故、人外などと言う存在が、この世に生まれてしまったのか。
答えは返ってこない。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
誰だって、こうでありたかった、こうなりたかったってありますよね。私も、そう思うことがよくあります。
しかし、叶わないことも、世の中にはあるのです。今の自分を楽しんで、これからも生きていこう。では、また次回お会いしましょう。




