第二十二話 交差する
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい
蒼い髪が、風に靡いている。黒のコートに白いシャツ、女は、片手に短刀を持ちながら、丘の上に立っていた。
側には死体が一つ。夜空には輝く星々。女の顔は、ここからは見えない。
午後2時頃、陽気な音楽に包まれながら、黒のワンボックスバンは町を走っている。
「兄ちゃん!ほんま助かったわ!ありがとな!」
サングラスを掛け、赤い帽子を被っている男が、車を運転しながら言う。
「いえ、むしろ僕の方こそ、車に乗せて頂けて本当に感謝してます」
「安いもんよ!まさか、こんな重い荷物をこんな大量に積むことになるとはな!」
駅へと向かっていた時、男は困り果てたように、大量の荷物の目の前で立っていた。
見たところ、かなり重そうな物ばかりだ。僕は以前、引越しのバイトをやっていた経験があり、それ以来、重い荷物を運ぶのは慣れていた。
荷物を積む手伝いをして、全てバンに詰め込むと、男は僕に何処へ行くのかと聞いてきたので、三宮駅と答えると、男も三宮駅の方面へ行くらしく僕をついでに、三宮駅へと車に乗せて連れて行ってくれることになった。
「兄ちゃん!この辺のもんじゃねえな?」
「はい、東京に住んでるんですけど、友人へ会いに来たんです」
「東京かー!そりゃ遠いところから遥々よう来たな!」
「はい、遠くから来てよかったです」
「そうやろそうやろ!友人には会えたんか?」
「そうですね、元気そうでしたよ」
「そりゃ良かったなー!今から帰るところか?」
「いえ、どうせなら兵庫をもう少し満喫しようと思いまして、これから、駅で色々なところへ」
「そうかそうか!ほな楽しみや!」
「はい!ありがとうございます!」
そんな会話をしていると、早くも三ノ宮駅のロータリーに到着する。
「ほな!元気でな!」
「本当にありがとうございました」
車を降り、男に手を振った。ふと、荷物を降ろす時はどうするのか、そう思ったが頃には男の車は去っていた。
「考えても仕方ないな」
そう呟くと、僕は駅へと入っていき、三宮駅へと向かった。
電車を降り、駅から出る。有馬温泉、兵庫にある温泉街の一つ。僕は、そこで残りの1日を満喫した。
途中、同じく観光に来た人と、話をしたりもした。なんでも、美しい世界を見に来たそうだ。カップルだろうか、羨ましいと思った。
翌日、僕は東京へと帰る為、新神戸駅へと向かう。でも、その前にもう少しだけ観光しておこう。そうして何となく山の方へと歩いてみた。
途中、若い女の人に出会った。驚いた顔で僕に近付くや否や、ここは危ないから早く離れた方が良い、と言った。
何のことやら分からない。何故だか周りに人はあまり居ない。
女はロングの蒼い髪に、黒のコートと白いシャツを着ていた。
「兎に角、どっかに行け!」
両手で押され、僕は来た道へと戻される。まるで理解が追いつかない。その時、大きな爆発音がする。
「クソ!」
そう言った女は、僕の手を引くや否や、走り出した。
「人外事件だ!知らされてなかったのか!?」
そう言われたが、スマホの通知は鳴っていない。
「あなたは、誰なんですか?」
手を引かれるがままに走りながら、僕は彼女に聞いた。
「私は…今はどうでもいい!兎に角、離れないと!」
すると、爆発のした建物から、人外が飛び出してくる。
「人外対策部は何をしているんだ」
「まだ到着していない!」
「到着していない?君は隊員じゃないのか?」
「なんだって良いだろ!てか、あの人外追いかけてきてるぞ!」
人外は、猛スピードでこちらへと迫ってくる。
そこへ、突如横から現れた男が、人外に向かって鉄パイプで攻撃した。攻撃された人外は、ターゲットを男に切り替える。
「何をしてるんだ!」
男がそう言う。
「一人だけ避難できてなかった!」
「…俺が時間を稼ぐ!逃げろ!」
そう言うと、男は人外と戦闘を始めた。
僕達は、言われた通りに走り出す。
「知り合いなの?」
「そう、取り敢えず今は後。命を大事に!」
ごもっともだ、東京から遥々来て、こんな所で死にたくはない。言われるがまま、僕は手を引かれながら走った。
ある程度離れると、女は走るのをやめた。呼吸を整え、辺りを見回す。山の近くに僕達は居るらしい。
「こっから、あっちに行けば、駅に着く。来た道の方には来ないこと、いいね?」
「分かったけど、君は?」
「戻らなくちゃ」
そう言って、女は来た道を戻っていってしまった。
結局、僕は言われた通りに、駅の方向へと歩き出すが、疲れてそれどころではなくなった。
仕方がないので、近くにあった喫茶店へと入った。
友人に会いに来て、観光して帰ろうとした時に人外事件に巻き込まれる。最後が台無しだ。
体が休まると、喫茶店を出る。ふと、何故だか山が見たくなった。
山道はすぐそこだ、
「ちょっとくらい、兵庫の山でも見ますかね」
自然は好きだ、緑は僕の心に安らぎを与える。
少し歩いていると、丘のような場所に出た。昼寝に良い場所だ。僕は寝転び、少しうたた寝をする。
しかし、起きるとびっくり。夜空には星が現れていた。
「!?今何時だ!」
スマホを見る。どうやら8時らしい。
「寝過ぎだバカ…どうしたもんか…」
途方に暮れていると、向こうから人が来た。それは二人、さっきの女と男であった。
僕はなんとなく、側にあった草むらに隠れた。
「ここなら、いいよね」
女がそう言う。
「人も居ないしね」
男は、悲しそうな表情をしている。
「どうして…こうなっちゃうんだろ…今までこんな衝動は無かったのに…」
男は、頭を抱えていた。
「どうせ、私達は人外ってことなのさ」
耳を疑った。人外?この人達が?
「殺してくれ…君の手で殺されるのなら、俺は安らかに眠れる」
「本当に…良いのか?」
「あぁ、人殺しでは居たくない」
「好き…なんだろ…?私のこと…」
「だから、残酷だけど君に殺して欲しいんだ」
男は涙を流していた。
「…あんたは、立派な一人の男だったよ」
女の手のひらから、そこには無いはずの短刀が現れる。
「俺…人の役に立てたかな」
「あぁ、立ててたとも、仕方がなかったんだ」
そう言うと、女は短刀で男の頭を両断した。
蒼い髪が、風に靡いている。黒のコートに白いシャツ、女は、片手に短刀を持ちながら、丘の上に立っていた。
側には死体が一つ。夜空には輝く星々。女の顔は、ここからは見えない。
結局、僕はあの夜のことを忘れられなかった。
あの人達は何者だったのだろう。僕には分からない。少なくとも、人の敵ではないのだろう。
結局、その日は友人に頼んで、迎えに来てもらい、家に泊まらせてもらった。
「長島〜ビール取ってくんね?冷蔵庫に冷やしてるから」
友人に従い、僕はビールを取ってきた。
「あんがと」
横に座ると、僕は人外対策部の隊員である友人に、一つ聞いてみた。
「人間に味方する人外ってさ、居ないの?」
「なんだそれ、そんなやつ居ねえだろ」
「もし居たら、凄く心強いと思わない?」
「どうだろうな、もしそうだとして、いつ人を襲うか分からない怪物を、側に置いておきたくはないよな」
ビールを飲みつつ、そう答える友人に、僕は「そっか」としか答えられなかった。
次の日、僕は東京へと帰った。
人外については、一般人である僕にはよく分からない。結局、あの二人について、僕は友人や人外対策部には言わなかった。
それが、正解なのかは分からない。それでも、一般人が手を出してはいけない気がした。
そっとしておく、それがあの人達にとっても良いのかもしれない。
今、あの人は何をしているのだろう。あの人は、本当に人外なのだろうか。
あとがき
どうも、焼きだるまです。
最近は、疲れで中々執筆が進みません。体力をつけなきゃですね…。それでも、読んでくれる人が居る限り、私は書きましょう。
でも、たまには休むのも、良い作品を作る上で大切でしょう。無理はせず、頑張っていきたいですね。では、また次回お会いしましょう。




