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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
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第二話 楽しむ者

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい


 ――早朝、雑居ビル二階の事務所には男一人と、まだ眠そうな女一人が仕事の準備をしていた。


「クソ眠ぃ〜、なんでこんな朝早くから出動の要請がくるのさ〜!」

「仕事が無いと俺たちのようなハグレ者……、公安でない人外対策部は収入を得られないからな。あるだけ有難いと思え」

「仕事の時間とか決めてさ! こんな時間の要請とか断っちゃえば良いんだよ!」

「あのな桐花(きりか)、今もこうしているうちに被害が出ている可能性があるんだぞ? 一番近い俺たちが出動しなきゃ、救える命も救えない」


 桐花と呼ばれたその女は、大層不満そうに「ぶー」と頬を膨らました。服は薄い紫のパーカーに黒いスカート、茶色く下の方は黒い髪色をしていた。


 男の方は、髪は黒くベリーショート。黒のタンクトップに、伸縮性のあるジーンズを履いている。ベルトには、小さなバッグが付いていた。手にはナックルダスターが装着してある。


「準備はできたか? 桐花」

「もうとっくにできてるよ〜だ」


 桐花は手元の棒状の武器を取り、事務所の出入り口へと向かった。


「しゅーたろーさー、毎回思うんだけどさ〜、人外相手にそんな軽装備で大丈夫なの?」


 しゅーたろーと呼ばれたその男は言った。


「当たらなければ問題ない。動きやすい方が、俺にとっては良い」

「ふーん……まぁいいけどさ〜」


 階段を降り、雑居ビルから出ると二人は、すぐに目的地に向かって走り出した。


「ここから何メートルくらい?」

「大体八○メートルほどか」

「割と近いねぇ〜」

「近いから俺たちにこの依頼が来たんだ。もう依頼が来てから五分は経っている」

「人外の状態は?」

「一体のみだが、既に完全体であるとの御通達だ。被害もそれなりに出ているらしい」

「それあたしらの仕事ぉ? 公安にやらせりゃいいんじゃないの!?」

「仕事があるだけマシだと言っただろう。恐らくは、これを成功させれば当分は生きていけるだけの金が入る」

「死んだら元も子もないってのに……」

「なら、何故この仕事を選んだ?」

「……」


 五秒ほど、沈黙の時間が続いた――すると、


「わぁーたよ! やりゃ良いんでしょ! あんたは真正面から挑んでね、私は敵の背後から不意打ちのトドメを刺してやる。手柄は私のもんだ!」

「相変わらず、危ない部分は俺に押し付けるんだな」

「あっかんべーだ!」

「訳がわからん……」


 桐花は速度を上げ、別行動を始めた。男はそのまま、一直線に目的地へと向かう。


 ◇◆


「うあぁぁああ!!! 嫌だ!! 助けてくれぇ!! 死にたくない! 嫌だぁぁ!!!」


 助けを乞う叫び声が聞こえた。


 修太郎(しゅうたろう)は、ビル街の路地に入ってすぐの曲がり角に悲鳴の主が尻餅を搗いているの見た。修太郎は全速力で走り出す。


 その男の腕を掴むと、無理やり引っ張るようにそのまま走った。すると、次の瞬間――さっきまで男が尻餅を搗いていた場所には岩が突き出ていた。


「やはり覚醒もしていたか」


 すると、(かど)から出てきたのは、全身が燃えるように赤黒く。鬼のような角を生やし、全身には黄色く光る亀裂があり、もはや人とは呼べなくなっていたその怪物が居た。


 怪物は、こちらを見た。


「尻餅男ここから直ぐに離れろ、できるだけ遠くまでな。逃げ遅れた人が居れば、助けてやってくれ」


 すると、尻餅男は怯えながらもそれを承諾し直ぐに走り去った。


「すまないが、あんたが狙っていた獲物は食べ頃ではない。代わりに、食べ頃であろう俺がお前の相手をしてやろう……。かかってこい、人外」


 そう言うと人外は動き出す。人外が咆哮を放つと、放射路にアスファルトが割れ、下から岩が尖ったように突き出した。


 修太郎はそれを避けながら接近しようとするが、人外は走りながら、突き出した岩の一部を掴み取り修太郎に向け投擲する。


 近寄ることができず、投擲される岩を避けながら一方的に距離を詰められる。


「キリがないな」


 そう言うと修太郎は、バッグの中からスタングレネードを取り出し投げた。


 束の間――辺りには眩い閃光が走り、それは人外の視覚を奪った。


 その直後――復活した視界で人外が見た光景は、ナックルダスターを装着した修太郎の右拳が、人外の額に接触するところであった。


 ナックルダスターを装着した拳による打撃は凄まじく。その一発で、人外の前頭葉部分を綺麗に砕いたのであった。活動を停止した人外を前に修太郎は、


「……? 尻尾が無い……、どういうことだ?」


 成熟した人外には尻尾が付いており、その先端には注射針のようなものが付いている。それを刺し、卵を注入することで寄生していくのだ。

 

「既に切断されていた? そういえば桐花のやつはどこだ……? あいつが切ったのか?? ……っ――!?」


 その瞬間――人外の体は爆発した。一瞬だったそれの威力は凄まじく。大男一人を殺すには、十分な威力であった。


 ◇◆


 二○??年 十一月 七日――

 その日の人外事件では、多数の死傷者が出た。

 隊員も一名、行方不明となっていた。

 犯人はまだ、見つかっていない。


「――羽田(はねだ)さん? 何してるんですか? もう昼休憩入ってますよ? いつものカドカワレストラン行きましょうよ」


 若い男性がそう言った。それに対し、羽田と呼ばれた女性は、


「あぁ――分かってる。少し、書類の整理をだな」


 そう言うと、束になっていた書類を見せた。


「これ、未解決の人外事件の資料じゃないですか。しかも一番上のやつは全部、データに起き変わる前の……これは……最後の――」

「あぁ……私の娘が関わった事件だ」

「……そうですか」


 羽田と呼ばれた女性は娘を亡くしていた。


「……ですが……、何故オペレーターのあなたがそれを?」

「未解決の資料は、全てデータに変えろと言われてな。その作業中にこれに出会すとは……参るな……」

「手伝いますよ」

「いや良い、お前は先に飯を食って来い。私はこいつを片付ける」


 そう言うと羽田は仕事に戻り、男も言われた通り昼飯へと向かった。


「憧れなければ、こんなことにはならなかったろうに……バカだ……公安にさえ入れようとしなかった私もまた……バカなんだ……。せめて――どうしてもこの仕事をするならばせめて……私が……私が側にさえ居てやれば……」


 ◇◆


「三○年も前かぁ……隕石落下」


 午後八時三○分――スーツ姿の男二人が、居酒屋に飲みに来ていた。


坂本(さかもと)さんは、この業界に来て結構長いんですよね?」

「あぁ、かなりな」


 店の中は人で賑わっており、皆酒を飲んでは愚痴や世間話などをしていた。


「坂本さんがこれまで経験した中で、一番エグかった人外事件ってなんですか?」

「ん〜……案外、三年前の事件がキツかったかもなぁ」

「……俺が入社した年ですね……」

「そうだな……あの事件の後に、お前は入社したんだったな。あの時は酷かった――


 坂本と言われた中年は、懐かしむように語り出した。


「あの事件は、人外がどうやって人に寄生するかが、やっと分かり始めた頃だった……。その日、俺は被害拡大により、出動命令が出て目的地へと向かった。俺だけじゃない。他の隊員も総動員されたんだ……。本来であれば、一体を民間の人外対策部が処理するはずであった。だが、それは失敗に終わった。予想が大きく外れたんだ」

「その一体が、とんでもない強さだったと?」

「いや、一体自体は数名でかかればなんとかはなる。問題は、その数の多さと厄介さだった」

「見立てでは一体だったんですよね? それが数体?」

「増殖しやがったんだよ……しかも増殖した個体は寄生方法の一つである尻尾を持っておらず、本体である尻尾持ちは既に行方を晦ましていた」

「え、じゃあまだ未解決なんですかっ――!?」


 驚きのあまり、大声を出した男に対し坂本は、


「あまり大声を出すな……。そうだ、未だ解決していない。ただ死傷者が出て、ただ寄生のできない捨て駒を駆逐しただけだ」


 声のボリュームを下げた男はこう言った、


「どのくらい……出たんですか……?」

「――隊員含め死者四六名、負傷者八四名行方不明者に隊員が一人の大事件だ……」

「そんなに……? でもさっき、一体程度は数名でかかればと……」

「――爆発したんだ」

「爆発した……!?」

「そいつらは恐らく、任意のタイミングで爆発ができた。隊員を多く巻き込んで、爆発しやがったんだ。勿論民間人も、何人も殺してやがった」

「でもそれじゃ殺戮じゃないですか! 人外は獲物を殺す際栄養にするんですよね? なら、何故こんな無意味な殺戮を」

「わからん……。恐らく意味のある殺戮だったのだろう……捕食や寄生ではなく……何か別の……」

「もしかして、隊員の合格者が私の時に多かったのは?」

「あぁ、不足した隊員を少しでも補充したかったのだろう。実際あの事件以降、隊員の数が足りず人外事件の被害はいつもより拡大しまった……」

「坂本さんは……無事だったんですね……。その事件…」

「あぁ、俺が到着した頃にはかなり数を減らしていてな。悲惨な現場だったよ――薄紫のパーカーを着た若い民間の隊員は、足を爆破でやられたがまだ生きていたようでな……。上半身だけで抵抗しようとしたが、弄ばれるように他の増殖した人外によって腹を切られ、腸を引き摺り出され体を引っ張られ――絶命したようだ。他の隊員や民間人も、同じように死んでいた」

「殺戮を楽しんでいる……?」

「あぁ――かなり異質な事件の一つだ。いつ、またどこであの事件の犯人が同じことをしでかすか分からない……」


 震えるような声でそう言った坂本に対し、男は、


「大丈夫ですよ! 今や技術も進歩してます! もうそんな悲劇は起こりませんよ!」

そう明るく言った男に、坂本は「だといいな」と答えたのであった。


 ◇◆


 二○??年 十一月 七日 午後八時 四六分。

 東京のとある居酒屋にて、人外事件が発生した。


 店にいた者は全員が無惨に殺され、周辺には、尻尾を持たない人外が多数出現した。

 死者四六……負傷者……八四名……行方不明……隊員……一名。


 ――羽田は、データ上で一番古いこの未解決事件の後ろに、データ化した未解決資料が行くように保存した。


「もう……起こさせない。このような悲劇は二度と…いや……三度と――だから……私は――」


 羽田の表情が変わり、通信機を起動した。


「第三班行動を開始せよ、ターゲットはカドカワレストランへと向かった。覚醒をさせてはいけない。やつが――まだ人間の姿をしているうちに、一発で仕留めろ。裏切り者だ。ここで――排除しなければならない」


 ◇◆


 二○??年 十一月 七日 午後一時丁度――

 カドカワレストラン前にて、花澤光彦(はなざわみつひこ)の死亡を確認。


 予想されていた通り、花澤の前頭葉からは人外発生の元凶である寄生虫が発見された。


 人外無差別爆破事件の犯人を花澤と決定し、この事件は幕を閉じた。いずれも、公安に新人隊員が入って三年後のことであり、花澤が入ったその年の新人隊員は――花澤一人であった。

あとがき

どうも、焼きだるまと申しますです。後書きって何書けば良いんすかね?まるで分からんです。読んでくれる人すら居るかわからないこの作品に書くことなんてあるのだろうか…取り敢えず?楽しんで?次のお話も?読んでいただけると?嬉しいです!では!

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