第十八話 ただいま
この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい
「あーーー…」
上を向きながら口を開け、奇声を放つのは公安に入って2年目の女性隊員、花知夏 導である。茶髪のショートヘアーに、公安の制服を着ていた。
「遂に狂ったか?」
そう言ったのは、巡回の準備をしていた、長塚 寛治である。髪は黒く、公安の制服を着ている。
「最近、歩き回るだけの仕事に嫌気が差してきた」
「平和なのは良い事だろ、人外事件なんてそんな頻繁に起きてたら、人間が生きていける世界じゃねえよそれ」
「社内ニートで、税金食って生きてるだけのやつに何の価値があるのさ」
「巡回以外にも仕事はあるだろ」
「何それ、そんなのあったの?」
「????????????????」
長塚は、落ち着いてコーヒーを飲む。ダメだ、分からん。いや、分かりたくない。そう思うと、長塚は考えるのをやめた。
「近くにできたピザ屋、行った?」
「いや、まだ行ってない」
「まだってことは、行くのか」
「まぁ…その内」
「連れてけ」
「巡回になら連れて行ってやる」
「えぇ…」
「巡回の準備はできてるのか?」
「できてるよー」
「ちゃんと武器の整備とかもしてるのか?」
「ちゃんとしてるさー、多分」
何故この女とバディなのか、長塚は仕事ではなくこの女に嫌気が差してきたのであった。
「行くぞ」
「うぃー…」
午後2時30分、二人は巡回場所へと向かう。
「あーーー…今日も足を酷使してるぅ」
「そういう仕事だ」
「死ぬぅ」
「俺の胃が死にそうだ」
しかし、二人は死なない。このような会話ができるのも、平和である証拠なのだから。いつの間にか、長塚の後ろからは何かを引き摺る音が聞こえる。
「お前、ほんとは何の仕事したかったんだ?」
「なーんも?ただ学が無かったから体売るか隊員にでもなるかくらいしか、選択肢が無かった。強いて言うならニートしたい」
「よかったな、社内でお前は立派にニートやってるぞ」
「でも、何もやらなすぎるのは暇」
「お前は働きたいのか、働きたくないのかはっきりしろ」
「働きたくはないけど、働きたい」
「じゃあその足を動…か…せ!」
音の正体は長塚の右腕を掴み、自身の足を使用せず自動(人力)移動手段を手に入れた導であった。
「長塚〜、おんぶして〜ケツが大根おろしになる〜」
「お前のケツは色的に鰹節だ、いっそ削られてそのまま消えてしまえ」
「やだ〜、消えたら美味しいご飯食べれない〜いや、むしろ私が美味しいご飯になる側か…でもやだ〜!私は食べる側になるの〜!」
暴れる導を引き摺りながら、長塚は歩き続ける。
「美味しいご飯は、働いたものへのご褒美だ」
「私もご褒美欲しい〜!」
「じゃあ歩け」
「やだ」
「いや、本気で言っている」
「何」
「聞こえないか?」
「…?…何これ」
地響きのような、何かの音が聴こえる。
「ここら辺、工事とか建設予定地はあったか?」
「無いよ、ここら辺は空き地も無い上、住宅やら商店街しかない」
「…あっちからだな、行くぞ」
「うい」
商店街の一角、そこに地面に人間を叩き付ける人外が居た。
叩き付ける力は凄まじく。地面はひび割れ、叩き付けられている人間は、もはや原型を留めていなかった。
その時、オペレーターから通信が入る。
「現在、商店街の」
「今、目の前にその人外が居る」
長塚がそう言うと、二人で対処してくれとオペレーターは言った。
「導、銃は使うな。避難ができているか不明だ」
「ナイフだけで戦えと、あの怪力野郎に?」
「お前のケツの丈夫さに比べれば、何千倍も弱いさ!」
そう言うと、長塚はナイフを取り出し人外へ近付く。
導もそれに続き、人外へと近付く。
二人は挟み撃ちするように長塚は左側、導は右側から人外へナイフを振るう。
人外は片手で打ち付けていた死体を、両手で半分に割くと、その勢いのままそれを両側へ押し付ける。
すると、二人のナイフは死体に刺さり、見事な肉壁となる。
「クソ!外道が!」
長塚が斬りつけた死体の半身は、そのまま捨てられる。
「最低…!…!?」
導が、あることに気付く。死体を斬りつけたナイフが、抜けない。
すると、人外は導に向かって、左手で殴りにかかる。
「っ…!」
紙一重でそれを躱すと、長塚が人外の後ろから足の腱を斬る。
それにより、人外は動けなくなる。
人外は死体を掴んだまま、長塚に向け右腕で肘打ちする勢いのまま死体も離す。
長塚は避けるが、導は死体と共に後ろへ飛ばされる。
しかし、長塚が避けた先には、人外の左腕があった。人外は左拳で男の体を凹ます。
後ろへの攻撃の為、威力は弱いが相手は人外。肋骨を何本か折り吹っ飛ばしたのは紛れもない事実だ。
しかし、長塚が切った腱は人外にも効いており、人外は歩き出せない。それどころか、歩こうとして地面へと倒れ込む。
すると人外は、自身の体である下半身を、両腕を器用に使い怪力で切り捨てた。
上半身のみとなった人外は、都市伝説にあるテケテケと同じ状態となっていた。
それは両腕を使い走り出すと、壁に叩きつけられ意識を失っていた長塚へ、トドメを刺しに行く。
口を開き、突進の勢いで長塚の頭部を噛み砕こうとするそれから、導は長塚を庇った。
左腕は、骨の砕ける音と肉の裂け千切れる音。痛みは灼熱へ、肘から先の感覚は途絶える。
「ああっ!!!!!……………!!!!」
導は右手に持っていたナイフを、すかさず左腕に噛み付く人外の前頭葉目掛けて振るう。しかし、刺さりが浅く、人外はナイフが刺さったまま導に向かって襲いかかる。
「あっ……」
血は、彼岸花のように咲いた。
長塚が目を覚ましたのは翌朝、病院のベッドの上であった。
「…花知夏?」
人外事件は解決し、死者は2名負傷者は2名となった。
人外は覚醒していなかったが、身体能力などが通常の人外よりも高いことが分かった。
人外については、分かっていないことが圧倒的に多い。見た目も違う場合があれば、覚醒した能力の種類。特徴や身体的な違いは、人外という謎の存在を更に迷宮化していた。
長塚が仕事に復帰した時には、導の席には別の隊員が座っていた。
長塚の新しいバディとなる新米隊員だ。
隊員は目を輝かせながら、長塚に自己紹介をしていた。
あの新米隊員も、いつそうなってしまうのか、考えるだけで嫌気が差してしまう。
平和な日常は、例えやることがなくてもそれだけで有難いことなのだ。
気付けばあの事件から2ヶ月が経っていた。
仕事から帰ってくる。マンションに入り、ドアを開けると明かりが点いている。
「おかえり」
キッチンで、片手のみで器用に夕食の準備をしていた導が、そう言った。
「……ただいま」
あとがき
どうも、焼きだるまです。
リアルの都合で書く時間が少なくなってしまいました。しかし、頑張って毎日投稿していければなぁと思っています。勿論クオリティも更に上げますよーバリバリー!
それではまた次回!お会いしましょう!