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こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
15/60

第十四話 群青日和

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読みに下さい

 青空には雲がぽつぽつと、大小散らばっている。

「お空のご機嫌がよろしいようで」

 お空に近いビルの屋上、その端っこに白銀の髪が輝く少女が座りながらそう言った。

 ぶらぶらとさせている足先の下は、歩行者や車が彼方此方へ行っている。

 少女には、白いリングのようなものが体の中央を軸に浮いており、リングの両側には機械の腕が一本ずつ付いていた。

 白のコートに、茶色のスカート。

 少女には、ここから落ちてしまったら死んでしまうなんて考えが無いように、ご機嫌そうにそこで空を眺めている。

「空のご機嫌ついでに君にも聞いてみよう、君は元気かい?」

 屋上には少女一人しか居ない。しかし、少女はそう言った。

「元気だよ」

 少女にしか、その声は聞こえない。

「元気なあなたに質問、あなたはだぁれ?」

 周りから見れば独り言を喋る、異質な少女に見えるだろう。

「僕は君だし、君は僕だよ」

 声の主はそう答える。そしてこう続ける。

「君、毎回その質問続けてて飽きないの?」

「全然!だって、あなたが不思議なんだもん」

「周りから見れば君も不思議ちゃんだよ」

「そうかな?」

「実際君は普通の人間扱いなんてされてないだろ」

「そうかもね。じゃあ、あなたは人外?」

「じゃあ、君は人外?」

「私は人間だと思うのだけれど」

「ならば僕も人間だ」

「人間は頭の中で生きてたりしないよ」

「じゃあ君は人外だ」

「私は人を食べないし寄生管なんて持ってないよ。まぁ、私の遺伝子やら卵巣やら卵子は人と少し違うらしいけどね?」

「じゃあ君は何者なんだい?」

「そうだな…じゃあ人外とのハーフだ!」

「なら人を食う?」

「食べないね、不味そう」

「じゃあ僕は人間ってことで」

 その会話は、少女の左腕に装着されている装置によって、常に録音及び監視されていた。

 その時、屋上の扉が開く。

 中から出てきたのは担当のエリートオペレーターである羽田梨花だった。羽田は、少女に少し近付くと喋り出す。

待雪(まゆき)、出動命令だ。場所はここから2キロメートル先にある、新宿御苑にて逃走した覚醒人外を隊員達が追い詰めている。しかし、中々人外が強いらしく普通の隊員では歯が立たないとのことだ」

「ほいほーい、新宿御苑ねー!じゃ、行ってきますよー!」

 すんなり承諾しそう言うと、待雪と呼ばれた少女は約40階はあるであろうそのビルから、飛び降りた。

 羽田の「待て!」と言う声を無視し、少女は下へと落ちていく。

「君は相変わらずだねぇ、また怒られちゃうよ?」

「だってこっちの方が、早いんだもん!」

 すると、下へと落ちているはずの待雪の体は、横へと向いていき新宿御苑の方へと方向を変える。

 待雪は、空を飛んでいた。


 6月の24日。娘を失った私は雨の中、傘も差さずにどこへ行くともなく町を歩いていた。

 私を覆う喪失感に、心は限界を迎えていた。

 気が付けば、ビルの路地に入っていた。今思えば、私は何かに引き寄せられていたのかもしれない。

 ダストボックスの横、段ボールに身を囲む白銀の髪をした少女を、私は見つける。

 日本人ではないと分かったが、かと言って幼い少女がこんなところに居るのはおかしい話だ。

 私は、今にも壊れそうな心のまま、少女に話しかける。

「家族は?」

 少女は答えない。日本語が分からないのか?そう思ったりもすると、どうすればいいのか分からなくなる。家出ならば、捜索願いが出されているはず。しかし、そんなものは見た記憶が無い。

「警察の仕事か、私が関わる案件じゃない…すぐに連絡してやるから待ってろ」

 そう言うと、私は携帯を取り出そうとする。その時、私の携帯が宙に浮いた。

「…は?」

 何が起きているのか、全く理解ができない。

 いや、このようなことが起こる原因はただ一つ。

「クソ…!こんな時に人外か!?」

 そう言うと辺りを見渡す。しかし、私と少女を除いてそれらしいものは見当たらない。

「どういう…ことだ…?」

 ただでさえ娘を失って頭が働いていないと言うのに、世界は私を落ち着かせる時間をくれない。

 緊急事態の為、仕方なくその子を抱き上げると、私は走り出す。携帯は私の前で浮き続ける。

「何故私に付いてくる?…クッ」

 仕方なく、その携帯を使い人外対策部へと連絡する。

「こちら羽田。現在、姿が見えないが人外と思われる者によって携帯を宙に浮かされている!」

 電話の向こう側は「はい?」と返答するが、それも仕方ない。

「何を言ってるかは実際に、隊員を送り込んで目視で確認してくれ。どこに潜んでいるか分からないが、今のところ私にだけしか興味が無いらしい」

 そう言うと、電話の向こう側は何とかそれを承諾してくれ、隊員を送ってくれるという。

「せめて、二次被害を避けれる場所へ…」

 幼いとはいえ少女一人を抱えながら走るのは、中々にキツい。それどころか、鬱にもなって体重も痩せたというのに。

 人の居ない建築予定地へと入り込むと、少女を隅にあったコーンが乱雑に置かれていた場所へ隠し。側に置いてあった鉄パイプを持つと、呼吸を整え辺りを見渡す。

「何処だ…何処にいる…」

 するとその時、横のビルの窓から人外が飛び出してくる。

 私の前に現れたそれは、体表が赤黒く。角は片方に一本のみ生えており、歪な形をしていた。爪は鋭く、人外にしては人の形をかなり残していた。

「前線は引退したんだがな…生憎と…あんたと戦わなきゃいけないらしい」

 すると、人外は私の方へと一直線で走り出し、私をその爪で切り裂こうとする。

 それを鉄パイプで防ぎ、上手く躱すと今度は私から攻撃する。

 左足で人外の足を蹴り、体勢を崩させる。

 体勢を崩した人外に、私はバールで額の部分を何回か叩きつけるが、それだけで人外を倒せるわけがなく、人外は体勢を立て直すとバールを吹き飛ばし、爪を私に向かって振ってくる。

 紙一重で躱すが、今度は私が体勢を崩してしまった。

「しまっ…た…!」

 死を覚悟した、死は目の前に迫っていた。バールを飛ばされてしまった為、私に武器と言えるものは無い。

「もうここでいいか」

 そう言葉に出してしまう。

 その時、あの娘が憧れていた自分を思い出す。

 あの娘は、私に憧れて隊員となった。私は、あの娘を失いたくはなかった。だから、跳ね除けたというのに、あの娘は、民間に入ってまで隊員となった。

 あの娘が憧れた隊員。人を助ける仕事をしていた私。エリートとして、常に死と隣り合わせの現場で戦っていた私。

「死んでたまるか」

 自然と口から出る。

「私がここで諦めて死んだら。私に憧れたあの娘に、顔向けができない…隅に隠れているあの子を、救えない!」

 地面に倒れた私は、人外の振るう右腕を紙一重で躱す。すぐに体勢を立て直すと、右手一杯に拳を作り上げ、人外の顔面目掛けて渾身の一発をお見舞いする。

 人外は数歩後ろへ蹌踉めく。しかし、すぐに体勢を立て直すと、私に向かってもう一度その腕を振おうとする。

「かかってこい!この命尽きようと!隊員が来るまでの時間を素手でお前と戦ってやる!」

 雄叫びを上げ、人外と正面から向き合う。

 決死の覚悟で人外の攻撃を受け止めようとしたその時、吹き飛ばされたはずのバールが、猛スピードで人外に向かって飛んでいき、

人外の頭を貫通した。

「…は?」

 何が起きているのか、全く理解ができない。

 宙に浮いたあの現象は、今目の前に居る人外がやっていることではないのか?いや、ならば何故、「この人外はビルから出てきて、私との戦闘中にその能力を使わなかった?」

 人外は倒れ、活動を停止する。

 バールが飛んでいった先、バールは宙に浮いており、目の前に居るのは先程の少女であった。


 戸籍不明、日本の血ではないが、どこの血であるかすら不明。喋ることもしないそれは、本当に何処から現れ、誰によって捨てられたのかも分からない。

 一つだけ分かるのは、少女は人外としての能力を持っている、 人間である ということだ。


 その後、少女は国より管理され育てられた。本人はあまり、周りを信用しないようだが、私にだけは言うことを聞いた。

 未知数であった彼女は、普通の学校などには通えず、徹底的に管理され専用の施設にて育った。

 今思えば、彼女にとっては心底退屈であっただろう。

 実験によって分かったことは、彼女は念能力によって対象を浮遊、または動かすことができるということ。そして、その念能力は生き物相手には使えず、唯一生き物として浮かすことができるのは、自分自身のみであること。

 彼女に敵意は無く、人間を捕食することも無ければ、寄生管も持たない。強いて寄生管と呼ぶに近しいのは彼女の遺伝子にあると言う。

 虫が居るわけではないが、通常人には持たない遺伝子情報があると言う。

 寄生虫は何故かX線などでも検出はされず、直接目視でしかその姿を確認できない。

 その為、彼女の頭を解剖する訳にもいかず。彼女自身も過去を覚えていないとのことで、世界の求めている情報は、彼女から引き出すことはできなかった。

 彼女に名はなく、苗字もまた無い。育て親となれる自信も無かったが、仕方がない。私の苗字をその子に与え、名前を待雪とした。


 待雪は成長すると、ある日から独り言を喋るようになった。

 聞いても自分と話している、と訳の分からないことを言うだけだった。

 すると、私に願い事をしてきた。

「私を人外対策部の隊員にして!」

 それは、私にとって頭痛がする言葉であった。

 私はこの子を育てた訳じゃない、育てたのは国だ。だが、日に1〜2回しか現れない私に彼女は甘えた。

 母親に甘えるように、私に甘えた。

 もう、子を失いたくない。しかし、いくら危険でも子は親の言うことを聞いてはくれない。

 だから、今度こそ私は。


 待雪が18歳となった頃、上へとその事を話すと、時間はかかったが私の管理下の元、人外対策部の特別隊員として迎え入れることに成功した。

 また、上に頼み込み待雪専用の武器を作った。

 それは念能力を使う前提に作られた特殊なもので、人体への接続はせず、念力で宙に浮かし、念力で稼働する。待雪にしか使えない特別性のリングアームだ。

 待雪は、それに大変喜んだ。

 リングは丈夫で、人外の攻撃を喰らっても盾として使えるほど硬く、回転させる事でリングに付いているアームが全方向に対応可能となる。

 アームは念能力で動かせば物を持つこともでき、扱うこともできる。

 言わば待雪にとって腕が4本になったと言える。

 最初は少しだけ、腕の多さに苦戦して体含めた全てを動かすのは難しかったが、すぐに慣れ扱えるようになった。

 それから待雪は、私の管理下で人外の任務へと向かうのだが。本人は念能力ですぐに自分の体を浮かして、目的地へと向かってしまう。

 街中で宙に浮いてるやつが居れば、市民が驚くだろうと言うが、本人は反省する気がない。

 私の言うことを素直に聞いていたあの頃は、一体何処へ行ってしまったのか…。

 今日も心配ではあるが、信じてサポートしよう。


 私が緑豊かで美しい新宿御苑へと辿り着くと、そこには隊員によって囲まれている人外の姿があった。

 人外の体表は白く、亀裂が見え頭というか体全体がトゲトゲしてるというかゴツゴツしていた。

 その時、人外は周りの地面からおにぎりサイズの塊を作り出し浮かすと、周りの隊員に向かって弾丸のようにそれを飛ばし出した。

 隊員に当たれば致命傷では済まないだろう。私は念能力で、人外の飛ばした岩?の塊の動きを止めると、逆に人外の方へと返してあげた。

 しかしまぁ、人外のお体が硬いこと。人間なら大穴が空いてるそれを無傷で済ませやがったのだ。

「こりゃ手強いねぇ、隊員達が手子摺る訳だ」

 頭の中の私は、そう言ってくる。

「でも私の敵じゃない」

 口に出してそう言うと、頭の中の私は「そうだね」と答えた。

「隊員達よ!ここは私、羽田待雪に任せて下がったまえ!」

 通信先の羽田オペレーターから「先輩も居るんだぞ、口には気を付けろ」と、堅苦しいことを言われたが知るもんか。

「あなた達を守る分の力を人外への戦闘に使いたいから、とにかくここから離れて!」

 そう言うと隊員達は従い、この場から去ってくれた。

「一対一だね。あなたを倒して羽田さんにご褒美にお小遣いをねだるのだ!」

 管制室で頭を抱えていた羽田は「全部聞こえている…」と、下を向きながら言った。

「聞こえるように、言ったんだよ!」

 そう言うと、待雪は人外に向かって走り出す。

 人外も、投石が無駄だと見透かしたのかなんと、今度は地面から立派な剣を作り出したではありませんか!

「うお!すっごーい!私もそれやってみたーい!」

「君の能力は念能力だけどね」

 頭の中の私が現実を突き付けるが、無視してやった。すると通信先から、

「油断するな!武器を作り出す人外は過去にも例があるが、皆その武器の扱いを分かっている!」

「おっけーい!んじゃ、使わせないようにこっちから先手打って攻撃だ!」

 そう言うと待雪は地面を蹴り、高く跳び上がる。リングを回転させると、加速するごとにアームは遠心力で強烈な殺傷武器となる。

 歯車のように回るそれを、人外にジャンプの勢いで近付きその一撃を放つ。

 それを、人外は作り出した剣で塞ぐが、人外を守り抜いた剣はその一撃で破壊される。

 着地すると、コートからナイフを2本取り出しもう一度人外へと近付く。

「うおー!まだまだぁ!」

 リングアームによる攻撃と、ナイフによる攻撃。その連撃に人外は対応しようとするも、何度かナイフによる攻撃を喰らう。

 その度に、人外には傷が増えていく。

「やるねぇ。でも、このまま傷を増やすだけじゃ早く致命傷を与えないと、こっちの体力が持たないよ?」

 頭の中の私が、そう喋ってくる。

「分かってるよ!でも、こいつ凄い守りが硬い!」

 人外とのハーフらしい私だが、体力は人間らしく戦闘時間が長引けば疲労が出る。特にこれだけ念能力を使えば、それだけ疲労も加速する。

「何か…弱点は無いかな!?」

「こんだけ硬ければ銃弾もダメだろうしなぁ、無いんじゃない?」

 適当に答える頭の中の私を当てにした、私がバカだった。

「にゃー!!ッ!?」

 人外が瞬時に作り出した剣により、私のアームが弾かれる。

 一度勢いを止め、後ろへと下がる。

「はぁ…はぁ…」

 流石に動かしすぎたか、疲れが出てきた。

「大丈夫か待雪!?無理はするな」

 通信先からはそんな声が聞こえる。

「大丈夫……私はまだ戦える。だって弱点を見つけたから!」

 皆、驚く。今回の人外はエリート隊員でも苦戦するであろうそれに、弱点を見つけたと言うのだ。

「恐らくなんだけど、あの人外、体の表面がダイラタンシー現象と同じになってるんじゃないかな?」

「ダイラタンシー?あぁ、あれか」

 頭の中の私も、思い出したらしい。すると、通信先からも声がする。

「ダイラタンシー…圧力を与えると硬くなる現象…防弾チョッキにも使用されているあれか…つまりあの人外は圧力を与えなければ?」

「多分、攻撃が入る。さっき、投擲した岩で傷が付かなかったのに、ナイフで攻撃した時は少しだけ傷が付いたのは、そういうことなんだと思う」

 すると、頭の中の私も喋る。

「つまりはゆっくりナイフをあいつの前頭葉目掛けて差し込んでやれば、活動を停止させることができると」

 イエスっと笑顔でグッドすると。人外がこちらへと剣を持って向かってくる。

「問題は、どうやってその隙を作るかだ。ゆっくりと刺すなんて、相当な隙が必要だぞ。お前の念能力は自分以外の生き物を思い通りに動かすことはできない。オペレーターの私からもまた、何もできない。何か策はあるのか?」

「無い!」

 オペレーターの胃は痛くなった。

「一度撤退して、他の隊員に時間を稼いでもらうこともできるぞ」

「そんなことしたら、隊員さん死んじゃうよこれ」

 至極真っ当なことを言うと、待雪は人外の攻撃を上手く躱したり、防いだりしながら時間を稼ぐ。

「ダイラタンシー相手じゃ、君の武器は完全に逆効果だね。どうする?」

「頭の中の私も、少しは考えてよ!」

「僕は頭が悪いものでね、誰かさん勉強嫌いだから」

「私は、元から天才だから必要無いんです!」

「なるほど、天才ならばもう答えを見つけているんじゃないの?」

 その時、私は閃いた。

「これだああああ!」

 そう言うと、待雪は逃げながら人外の剣を無理やり念能力で奪い取りその剣で、木を伐採し出した。

 オペレーターの胃は更に痛くなった。

「木なんて切ってどうする!?ヤケクソになっているのならお前の給料から賠償金払わせるぞ!」

「ヤケクソになんてなってないよ!」

 そう言うと人外の攻撃を躱しつつ、木をある程度の大きさに切り分けると、私は木を念能力で浮かせ、人外へとぶつけた。

「おりゃー!食いやがれー!」

 人外は木に吹き飛ばされ、そのままの勢いで地面へと倒れた。

 その隙を突き、私は人外の上からおかわりの木を大量に乗せる。すると、人外は木の重みで動けなくなり、弱点を晒す。

「なるほど、生き物を動きを念能力で止められないのなら、物で生き物の動きを止めると」

「そゆことだ!」

 オペレーターにそう言った私はすかさず、人外の元へ行くとナイフを人外の前頭葉目掛けて、ゆっくりと刺した。

 人外は活動を停止し、なんとか私も傷一つなく無事に仕事を終えることができた。


 公安に戻ると、胃が限界となっていた羽田さんに「ごめんごめん」と謝り、ちゃんとお小遣いを羽田さんのお財布から抜き取った。

 すぐにバレた。


「んで、自由時間となったので抜き取った金で昼食と」

 頭の中の私がそう言う。

「結局あなたって、何もしないの?」

 頭の中に問いかける。

「君の体の主導権は君だからね。僕は君の瞳から世界を見ているだけさ」

「つまらなくないの?」

「全然?」

「結局あなたは誰なの?」

「だから君だって」

「寄生虫なの?」

「君の中で生きてるって考えたら寄生虫かもしれないけど、僕だってよく分からない」

「自分のことなのに?」

「君だって自分のことを分かっていないじゃないか、それと同じだよ」

「そういうもんかぁ」

「そういうもんさ」

「ねぇ、今日は何を食べようか?何をして遊ぶ?」

「自分で決めなよ」

「あなたは私なんでしょ?ならそれは自分だ!たまにはあなたの意見も聞きたいな!」

「じゃあ、サラダが美味しい店」

「嫌がらせ?」

「うん、嫌がらせ」

 聞く相手を間違えた、そう思った。私はサラダが嫌いなのだ。

「…よし!たまにはいつもよりも遠いところまで行って美味しそうな店でも探しますか!」

 そう言うと、待雪は走り出す。

 オペレーターの声が聞こえる。

「あまり遠くへ行くなよ、常に隊員にも近くで監視されてるとは言えど、私から離れすぎると少し面倒くさい」

「大丈夫!ちょっと遠いところに行くだけだから!」

 話を聞いていない待雪は、ご機嫌に町を走り出す。

「君ってほんと、言うこと聞かない子だよね」

 頭の中の私がそう言う。

「誰かに縛られるのはもう散々だからね!…てか、そう言えばあなたと何年も過ごしてたけど、あなたに名前って無いよね」

「僕は君だから、待雪で良いんじゃない?」

「それじゃ、ややこし過ぎるでしょ」

「じゃあ何か良い名前付けてよ」

「じゃあ、ポンコツで」

「嫌がらせ?」

「うん、嫌がらせ」

 町を走る彼女は、今日の天気のようにご機嫌だ。

 人外の能力を持つ人間。それは今のところ彼女一人しか居ない。

 研究所も、彼女の研究で忙しい日々に追われている。

 そんなことも知らない彼女は、今日も呑気に、自身の楽しいと思う事を優先して過ごすのであった。


 〇月〇〇日〇〇頃。

 会議室には、上層部の者達が集められていた。

「待雪の卵子を使用し、子供を作る。代理出産により待雪の子を作り、人外用の戦闘要員として育て上げる。ニュージェネレーション計画を決行したい」

「クローンではない為、確かに法律的にも問題はありませんね」

「しかし、戦闘要員専用として育てるのは少し、非人道的過ぎませんか?」

「人外による被害は年々増え続けている。それに対抗し、我々も進化しなくてはならない。その為の新世代を、彼女の子を私達で育て上げるのです。そして、産まれた子供達も成長すれば、また新しい子を作り出せます」

「しかし、不確定要素があるのでは?子を宿した際にその子が人外になることは無いとされていますが。必ずそうならないとは言えないでしょう」

「それを承知の上で、やるのです」

「…しかし、羽田オペレーターや本人の意思、承諾は?」

「これは既に国絡みでの計画だ。本人の意思や親の意思は関係ない」

「国民の反感を買うだけでは?」

「そうならないよう、二人は必要が無くなった時には処分させてもらう。要らぬことを言わせない為にな」

「…」

 会議室が静かになる。10秒ほど経つと、一人の男が言う。

「私は賛成します。人類の存続か、二人の日常か、選ぶべきものは決まっているはずです」

 すると、周りもその流れに乗り、賛同の声が上がる。

「では、この計画を決定とし、待雪には定期検査として、眠らせ定期的に卵子を採取する。そして健常者であり素晴らしい経歴を持つ者の種で、新世代の子供達を作り上げる」

 その会議によりニュージェネレーション計画が始動することが決定した。

 それを盗聴によりこっそりと聞いていた小柄な男が一人、そこから立ち去った。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 今回はいつもより長めということで、短編としてスラスラ読む!というよりも、人外という作品にどっぷり浸かれるお話かなぁと思います。

 今回長かった分、次回は少し休憩回にできればなぁと思っておりますが、そこは神の味噌汁ということで、また次回お会いしましょう。

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