表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、人外対策部です  作者: 焼きだるま
第一部 前日譚
11/60

第十一話 歓迎の夜空

この作品は一話ごとに登場人物や時系列、舞台が変わります。それをご理解の上でお読み下さい。


 早朝、事務所に光が灯る。そこは、最近までテナント募集中と書かれていた雑居ビルの三階。二人の若い男は、その事務所に居た。


「凄いよ凄いよ! ほんとに僕達、人外対策部になったんだ!」


 目を輝かせながら(はしゃ)ぐその青年は、髪は赤焦げ茶で茶色の手袋と、オレンジ色のコートを見に纏っていた。


「民間だが、あんたの夢が叶ったのならよかったよ」


 そう言ったもう一人の青年は、黒い髪に、白のシャツと黒のコートを羽織っていた。


「民間でも全然構わない! 僕達はここから有名な人外ハンターになるんだ!」

「そうだね、きっと拓人ならなれるよ」


 拓人と呼ばれた赤焦げ茶の青年は大きく頷くと、思い出したようにロッカーに入っていた武器を取り出す。


「これ! 注文してた飛軽の武器だよ!」


 拓人はそう言うと、飛軽に武器が手渡される。それは、銃のような形をしていた。


「人外用ハープーンガン、ちゃんと公式の製品だな」


 念入りにチェックすると、満足そうにそれをホルスターへと仕舞う。


 人外用ハープーンガンは、銃の先端に引き金を戻すと引っ込む特殊な返しのついた、槍のような物が付いており。引き金を引くと、金属糸に繋がれた槍が発射され相手に刺さった時、相手をこちらへ引き寄せるという人外対策部公認の武器だ。

 しかし、扱いが難しく使う人間は少ない。


「ちゃんとそれ使えるの?人外を殺せる?」


 首を傾げながら拓人は聞く。


「こいつ自体で殺すのは難しい。こいつは殺す為じゃなく相手を引き寄せるのに使うんだ」

「引き寄せてどうするのさ?人外がこっちへ来ちゃうなら危ないじゃん?」

「引き寄せられた人外の前頭葉目掛けて銃を撃つかナイフで刺すのさ」

「そんな上手くいくの?」

「そこは使い手次第だな、確かにこちらから近付いて人外の急所を攻撃すればいい。でも、人外が必ず急所を攻撃させてくれる隙を晒してくれるとは限らない。そこで、こいつで人外を猛スピードで引き寄せることで人外に無理やり隙を作らせ、急所へと攻撃するのさ」


 想像はできるが、中々上手くいきそうにも思えないそれを何となくで頷くと、拓人はロッカーから自分の武器を取り出した。それは、小さく丸い紙袋に包まれていた。


「僕の武器はこれだ!」


 それは――飴だった。


「それをどう使うと……?」


 訝しげな顔で問うと、


「大阪ではおばちゃんが飴をくれるらしい。僕もそれに従って、人外に飴をあげてみようと思う。そうすればきっと人外もあまりの嬉しさに隙を晒すは――」


 間髪入れずに、拓人の頭に特大のチョップが振り下ろされた。


「ふざけたもん出す余裕があるなら、ちゃんとした武器を出せ」


 飛軽のお叱りを受け「冗談…冗談」と、目を横線一本にし一粒ずつの涙を浮かべながら、拓人は今度こそロッカーから取り出す。


 それは、飴だった。


「くどい!!!」



 ――午前9時、民間の人外対策部としての初めての仕事が依頼届く。


 場所は事務所から80メートル先であった。公安からの連絡を受け取ると二人は事務所を飛び出し、人外の発生した場所へと向かう。


 情報によれば、まだ覚醒しておらず被害も出ていないとのことで、初仕事である彼らにとっては丁度良い仕事であった。


 二人は目的地に向かい走りながら話をしている。


「今回の仕事、いくらくらい金が貰えるかな?」


 ワクワクしながら話す拓人に飛軽は、


「被害が出ておらず覚醒もしてないんなら、貰えても10万とかじゃないか?」


 民間は月に二〜三度程しか仕事が貰えない。武器の調達や維持費、人数、命が懸かっている仕事とすれば中々割に合わない。


「ちぇー!公安は給料が安定してるんだからこっちにもよこせってんだ」

「初日から仕事が貰えただけ有難い限りだ」


 そんな話をしていると、早くも目的地に辿り着く。ビルに囲まれ歩道の横にある少し広めの場所に、人外は居た。


 規制線が張られ、警察により野次馬は抑えられていた。その中央には人外化が始まりしゃがみながら呻き声を上げ苦しむそれの姿があった。


 野次馬をかき分け、警察官の元へと行くと民間人外対策部の証である手帳を二人は見せ、中へと入る。


 人外化が始まってすぐはまだ動けず、ある程度体が変形するとゆっくりと動き出す。しかし個体によって様々で、変形があまり進んでない状態でも動き出し人を襲う事例がある。今回の人外はその前者なのであろう。


 拓人は自身の武器である細長い槍のようなものを構えるが、飛軽はハープーンガンではなくナイフを構える。


「ここまで周りに人が居ちゃ、近接武器しか使えない。野次馬が……邪魔だということを理解していないのか?」

「仕方がないよ、てか街中で銃みたいなものは中々使えない。悲しいけど君のハープーンガンはお預けだね」


 そう言うと拓人は白く細長い槍を前へ向け、人外へと突撃する。


 呻き声を上げる人外は立ち上がると、拓人の方を向く。しかしその動きは鈍く、拓人の槍は人外の腹部を刺す。


 鮮血が人外の腹部から溢れる。拓人は刺したそのままの勢いで、人外の後ろにあったビルのガラスへと人外を押し飛ばす。


 ガラスに背を叩きつけられ、無防備に寄りかかる人外の前頭葉目掛けて、拓人の後ろから走ってきた飛軽はナイフを振るう。前頭葉を破壊された人外は活動を停止し、被害も無くその事件は終わった。



 ――事務所へ戻ると、拓人は大喜びで燥ぎ回る。


 飛軽は落ち着けと宥めながらも、喜びを隠せてはいなかった。


 たとえ誰でも倒せるような人外でも、彼らにとっては初めて彼らだけの力で倒すことのできた人外だ。


 勿論、人外と戦ったのはこれが初めてではない。人外対策部の隊員になるには18歳以上であり、人外対策試験に合格しなくてはならない。


 体力テストや戦闘技術、武器や人外についての知識、実践経験やそれら全てを達成、合格した者は二つの選択肢が与えられる。


 一つは公安の人外対策部。

 もう一つは民間の人外対策部、もしくは設立。

 公安は給料も安定しており、大体の者が公安に入る。しかし、民間に入る者も中にはおり。公安と違いなるべく危険度の低い人外が任されることや、武器の自由度が高い為一定の人気があるのである。


 公安は階級が上がらない限り、限られた武器しか支給されず選択幅も狭い。

 しかし民間は注文さえ届けば、ある程度の武器を最初から扱うことができる。



 二人は翌日、早くも口座に8万円の金額が振り込まれているのを見ると。なんとも言えない表情となった。


「二人で分けて4万――これ生活できるの?」

「まぁまだ初日だから……なんとかなる……なんとかなるよ」


 二人は落ち込んでいた。分かっていたことではあるが、予想の2万低かっただけでも悲しいものだ。


 それから二週間近く、依頼は来ていない。時刻は午後3時、流石に二人とも焦りが見えてくる。


「これやばくない?」

「割と」


 バイトをしながらやる訳にもいかず、スマホやパソコンなどでできる副業をちょくちょくやりながら生計を立てる。しかし、このまま何も依頼が来なければ生活ができない。


「飛軽はさ、なんで僕に付いて来てくれたの?」


 首を傾げながら、拓人は聞く。


「お前一人だと心配だからさ。お前、よく燥いだりふざけたりするから油断しそうで怖くてさ」

「失礼な、ちゃんと戦闘中は真面目にやるさ」

「自分の武器は飴だ、なんて言うやつにそんなこと言われてもなぁ…そういうお前はなんで民間なんかやろうと思ったのさ」

「有名になる為さ!公安じゃそこまで話題にならないからねっ!」


 目をキラッと光らせる彼に、飛軽は溜息を吐く。その時、飛軽とペンを唇の上に乗せている拓人の通信機に民間用の、公安の臨時オペレーターからの依頼が届く。


 先程、人外事件の通報があった。場所はそこから100メートル先にある三原ビルの8階だ。既に人外は成熟しており、覚醒は確認されていないが避難は完了している。十分に気を付けて任務に当たってくれ。


 すると、拓人は燥ぎ出す。


「やった!今の聞いた!?仕事だよ!」

「はいはい、燥いでないで行きますよ」


 落ち着いて準備を整えると、事務所横にある駐車場に停めてあった新車に乗り込む。車を発進させ目的地へと向かう。



「いやぁ買っておいた車が役に立ったね!」

「尚も車代が明らかに高すぎて大赤字だけどな、どうすんのこの借金」

「気合いで返す」

「気合いで返せるもんじゃないでしょう」

「少なくとも車を持ってる民間の人外対策部は、持ってないとこよりも仕事の依頼が来やすい。任される範囲が広くなるんだ」

「それは分かるけど、効果はあったのかい?」

「二週間は効果の範囲内だ」

「二週間は効果の範囲内なのですか」


 呆れながらもそう言いながら車を運転する飛軽は、目的地に着くと車を三原ビルの前に停車させる。


「ここの8階だとさ」


 車から武器を取り出すと二人は人の消えた三原ビルに入り、エレベーターで8階へと向かう。


「扉が開いた瞬間目の前に人外ってことも考えられる。拓人、槍を前に構えておけ」


 すると、言う通りに拓人は白く細長い槍を構える。エレベーター内は槍を前へ構えれるほどに広かった。

 8階にエレベーターは停まると、扉が開く。扉の前に、人外は居ない。


 廊下が横に伸びており、右の方にはデスクが沢山並んでいる部屋が見える。


 二人は左か右、どちらに行くかを同じタイミングで聞くと頷き合い、右と左で分かれて走り出す。

 飛軽の向かった左側は、部屋が幾つかあるT字路のようになっており、飛軽は一つずつ慎重に開けていく。


 拓人の向かった右側はオフィスとなっており、ざっくり見た感じ人外の姿は見受けられない。しかし、デスクの下に隠れている可能性も見て、拓人はオフィスを慎重に歩き出す。


 いつ現れる、心臓の鼓動は静かなビルの中、二人の耳によく響いていた。


 一筋の汗が、喉元へと流れる。


 拓人が4列目のデスクに差し掛かろうとした時。大きな爆発音のようなものが、飛軽の方から鳴り響く。


 それは、飛軽が5個目の扉に手をかけた時であった――幸い、爆発して吹き飛ばされた扉は飛軽の手をかけていた扉の二つ左で、爆発には巻き込まれていなかった。


 慌てたように走って来た拓人は、爆発した方向を見つめる飛軽と合流する。覚醒している人外が、爆発した部屋の煙の中から現れる。


 体表には黄色く光る亀裂に赤黒い体。角は生えておらず。口は変形しており、鋭い牙が生え並んでいた。


 人外がこちらを振り向くと。その途端こちらへ向かって突進してくる。


 二人は慌ててそれを、先程の廊下へと飛び込み回避する。


「こんな狭い廊下じゃ不利だ!向こうのオフィスがかなり広かった!オフィスへ向かおう!」


 そう提案する拓人に頷き、二人はオフィスへと向かう。遅れてオフィスへと辿り着いた人外は、二人の姿が見えないことに気が付く。


 すると、人外の右斜め前のデスク上の物の隙間からハープーンガンが発射される。


 ハープーンガンは人外の右側の鎖骨辺りに刺さり、人外が強力に引き寄せるハープーンガンによってデスク群の上へと飛ばされる。もう一つの片手で取り出されたオートマチック式の銃で人外の前頭葉へ向けて発砲するが、中々当たらない。


「当たらない……!」


 仕方なく引き金を戻すと飛軽は横へと跳び、引き寄せられた勢いのまま人外はオフィスの壁に激突する。


 数秒、動きが止まる。しかし、人外は動き出し銃を構える飛軽の方へ向くと口を開き、火炎玉のようなものを吐き出す。それは窓ガラスに当たると爆発を起こし、衝撃によりオフィスのガラスは全て砕け散り、破片が町へと飛び散る。


 既に周辺の人間は避難しており、落下してくるガラスの破片による死傷者も居なかった。


 飛軽は避けると距離を取ってから再度銃を構え直す。人外がこちらへ迫ってくる、飛軽は発砲するがそれは天井に当たる。


 人外との距離が8メートルに近付いた時、天井からオフィスを照らしていた吊り下げ式の照明が人外目掛けて落ちていく。


 それは、一時的ではあったが人外の動きを止めるのに十分であった。飛軽が撃ったのは、人外ではなく吊り下げ式の照明であった。


 倒れ込んだ人外の後頭部目掛けて、隠れていた拓人が上から大きく槍を振り下ろし、人外の頭を前頭葉ごと貫通する。人外の血が、オフィスの床を灰色から赤色に染め上げる。


 よっしゃー!と叫ぶ拓人に飛軽は安心しながら溜息も吐き、「落ち着きなよ」と拓人に言った。


 拓人が槍を引き抜いて飛軽の元へ向かった時、倒れていたはずの人外が起き上がる――急所は貫いていたはずだった。しかし、人外は現に動いている。


 驚く二人に人外は一言、初めて二人の前で喋り出す。


「お前達ダケでも、道連れニスル」


 その時人外の口は、大きな火炎玉を溜め始める。すぐにはその範囲からは逃れられそうにない。


 焦る拓人に飛軽は「掴まれ!」と大きな声で叫び手を差し出す。拓人がそれに従い飛軽の手を掴むと、飛軽はハープーンガンを向かいにあるビルに向かって構え、


 三原ビルの8階から飛び降りる。


 何を考えてるんだー!叫ぶ拓人に対し、飛軽は決して手を離さずハープーンガンを向かいのビルに向けて撃つ。


「これしかない!歯を食いしばって防御姿勢を取れ!」


 すると、ハープーンガンは向かいビルの窓ガラスを破り、縁へと引っかかると二人はターザンのように空中を飛び、大きな爆発音と共に向かいのビルの窓ガラスを勢いのまま蹴破ると着地した。


 着地後、二人はなんとか体勢を立て直すと目を輝かせながら拓人が言う、


「ハープーンガンすげー!」

「本来こんな使い方はしないんだけどね、まぁいいや」


 ほっとしたように言った飛軽は、後ろを振り返る。三原ビルの8階は、爆発により黒煙を上げていた。



 ――火は、駆け付けた消防により鎮火され、人外は瀕死だったようで爆発に巻き込まれ活動を停止していた。


 二人はガラスによる軽い擦り傷で済み、この事件は解決した。


 翌日、公安にて報告になかった覚醒した人外を討伐したことから50万という金と、覚醒した人外を民間が討伐した際に送られるバッチを手にし、事務所へと戻った。


「やったああああーー!バッチだよ!?バッチだよ!」


「そうだねー嬉しいねー」


 若干棒気味に言う飛軽だが、その顔は微笑んでいた。


 たったの2回で覚醒した人外を討伐した民間は少なく、そもそも覚醒した人外が民間の手に渡ることは中々ない為、それ以降二人の元に依頼はそれなりに来る事となった。


 若くしてその功績を残した二人は、民間の光として一時期有名にもなったのであった。


「拓人の夢が叶ったのならよかったよ」

「それ、前にも言ってなかったっけ」

「そうかな、まぁいいさ、お前に付いて来て案外正解だったかもな」

「だろ!?」

「危ない部分いつも俺な気がするけど…まぁいいや」


 二人は家への帰り道、そんなことを話していた。


 暗いはずの夜空には、町には珍しいほどの星空が広がっていた。それは、僕達を歓迎していたように見えてとても、綺麗だった。

 あとがき

 どうもー焼きだるまです。

 第十一話!11ですよ!ワンワンですよ!犬です犬!犬登場したことありませんけど!!

 じゃあ、次回は対抗して猫でも登場させちゃいますか!次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ