努力を決意する立花美香3
「美香ちゃん、騙されないで。学校に赤いチェックのシャツで来るなんて、普通の人じゃないよ!」
確かに! なんか普通に学校来てるから、そういう人なんだなぁとしか思わなかった……!
「待ってくれ、それについてはちゃんと説明できる」
井上先輩が、栞をなだめるように言う。
「朝のホームルームで、担任が言ってなかったか。『今朝、我が校の生徒が、溺れている小学生を助け出しました』って。その学生が智也だ」
え、マジなんそれ?
「俺は、智也と一緒に登校してたんだけどさ。こいつ、溺れてる子供見つけるや否や、川に飛び込んで、子供助けてさ。普通、そんなに早く行動できないだろ? 子供抱えながら泳げるのかとか、飛び込むよりもっといい方法があるんじゃないかとか、考えちゃうだろ? でも智也は、直ぐに行動した。困っている人を見たら、頭より先に体が動いちゃう奴なんだ」
あれ? なんかかっこいいな。
「デュフ、そんなこと言いながら、雅紀殿も助けるの手伝ってくれたではありませぬか」
自分のしたことを謙遜するところ、イケメンに見えるな。
「少しはな。俺なんか、長い棒を持ってきて、智也と子供を引きずり上げるくらいしかできなかった」
「何を言いますか、それがなければ迅速な救助には至りませんでしたぞ。でゅふふ」
きらきらしたイケメンがいちゃこらしてるように見えるな。
栞はそんな反論意にも介さず、また自分の意見を述べようとする。
「美香ちゃん、いいの? あの人が彼氏になったら」
「いやいや、彼氏だなんてまだそんな」
栞の発言に、体くねくねさせながら照れてしまう。
そんな私の恥ずかしい挙動を無視して、栞が続ける。
「でゅふとか小生とかデート中に言うんだよ。周りの人が見てたら、ちょっと恥ずかしいよ」
確かに、それは恥ずい!
隣で「でゅふでゅふ」言ってるのはちょっときつい。
いやでもどうだ、これまでのイケメンエピソードで、ぎりプラスか?
左手を顎に当てて渋い顔をしていると、井上先輩がまたもフォローを入れてくる。
「まてまて、智也は女子と接するのがまだ慣れてないだけだ。仲のいい男子と話す時はうんまあ、多少は、……マシになる」
……多少?
歯切れの悪い発言に思わず怪訝な顔をしてしまう。
私の表情からフォローしきれていないのに気づいたのか井上先輩はどうにか話を続ける。
「ほら、ワ◯ピースの登場人物だって特殊な笑い方してて魅力的だろ」
「いや現実世界の恋愛において、ワ◯ピースの様な特殊な笑い方はマイナスになるんよ」
天も犬飼智也はあまり良く感じないのか、彼氏である井上先輩に反論する。
「それに、一人称はどう説明するんですか」
栞が続けて責め立てる。
二人の猛攻にどうすることもできないのか、井上先輩は「いや、それは」などと口をつぐむ。
まあ、イケメンエピソード込みで私的には完全になしではないかな。
少しくらい犬飼智也とやらと話してみてもいいかもしれない。
そう思った私は、少しヒートアップした場を収めようと間に入ろうとする。
その時、犬飼智也が動き出したのだった。
徐に眼鏡を外して、猫背気味だった姿勢を正す。
「しょ、正直今まで他人にどう見られようがどうでもよかったけど、みみ美香さんがオタクっぽい言動をあまり好まないのであれば、僕はそれをやめる様に努力します! わ笑い方は無意識に出てしまうかもしれないけどそれも少しずつなくなる様に頑張ります!!」
え、ええぇぇぇぇ!!!??
想像以上にイケメン!!
確かに、顔は悪くないなぁと思ったけどここまでとは。
眼鏡に、漫画でよくある謎のぐるぐる模様がついていたから気づかなかった。
しかも、猫背気味だったから気づかなかったけど、高身長! 180cmはありそうだ。
サッカーをやっているだけ合って体もがっちりしている。
さっきまでクッソダサいと思っていた、赤チェックシャツのパンツインもおしゃれに見えてくる。
私は右脚を前に出して、脚をクロスさせる。少し体を倒して、上目遣い。最後に右手人差し指を右頬に当てる。
「一人称は俺の方が私は好きだぞ♡」
全力で男に媚びたポーズと声色に、引いている天が見えるけど知ったこっちゃない。
イケメンを全力で取りに行くのみや!!!