努力を決意する立花美香2
そして、放課後。
「初めまして、立花さん。天の彼氏の井上です。それでこいつが、立花さんに今日紹介したいやつです」
「デュフ。小生は犬飼智也と申します。よよろしくお願いしますぞう」
「「「お前かい!!」」」
私と栞と天が同時ツッコむ。
「ちょっと! かっこいい人紹介してあげてって私言ったじゃん!!」
天が井上先輩に問い詰める。
「ちょっと待てって、俺は、俺が思う一番かっこいい奴を連れてきたつもりだ」
「どこがよ! 美香なんて『今日ってどんな人来るの? いや別に全然楽しみじゃないんだけどね』って滅茶苦茶ワクワクした表情で言ってたんだからね!」
え、ちょっと、え、私そんなに顔に出てたの。
私の動揺などつゆ知れず、二人の会話は進んでいく。
「聞けって、俺が思う智也のかっけーとこ言ってくから」
「私たちを納得させられるんでしょうね?」
天が怪訝な表情で言う。
井上先輩は静かに頷いた。
「まず一つ。智也は他人の目を気にせず、自分のしたいことをできるやつだ。こういうやつと一緒にいると、他人に流されることなく、自分のしたいことをしていいんだって自然と思えてくると俺は思う」
「……いやまあ、すごく良いところだとは思うけど、多分私と美香が考えてた『かっこいい』とは少し違うんだよ」
「もちろんまだある。サッカーが滅茶苦茶うまい。智也なしじゃ、俺らのチームは成り立たない」
「なんでうまいんだよ! 眼鏡で、髪ぼさぼさで、赤いチェックシャツをパンツにインしてる奴が、サッカー上手いわけないんだよ!」
いや、偏見がすごいよ天! ちょっと分かるけども。
でも本当にこんなザ・平成初期のオタク実際にいるんだ。
天が怒ってくれているおかげで、逆に冷静でいられる。
「昔は下手だったんだよ」
井上先輩が空を見上げる。
なんか始まったな。
「小4の時、グラウンドでサッカーしてたら、6年生があとからやってきてさ、雑魚はそこら辺の公園でしてろって言ってきたんだ。もちろん俺らは猛反発してさ。じゃあ、サッカーでどっちが弱いか勝負だってことになってさ。俺はそんときには、クラブで一番うまかったから、上級生にも負けない自信があった。でも、体格の差と俺以外のチームメンバーのサッカー経験が遊び程度でさ、結果はぼろ負けだった。俺悔しくて、わんわん泣いちゃったんだ」
井上先輩が、私たちの方を向いて微笑む。
「そしたらさ、こいつ俺に手ぇ差し伸べてさ、『次絶対勝って、グラウンド取り返そう』って言うんだ。みんな戦意喪失してたのに、智也だけはまだ瞳に炎が灯ってた。次の日からさ、こいつ、人目も気にせず練習初めてさ、学校の廊下でドリブルの練習始めた時はマジ笑ったわ。そのあと先生に怒鳴られててさ」
楽しそうに話す井上先輩に、犬飼智也が「デュフ、そんなこともありましたなぁ」なんて言っている。
「そんななりふり構わず練習してる智也に影響を受け始めて、戦意喪失してた奴らも『6年にリベンジしてやる』ってみんな練習し始めた。そんで何度か試合して、7回目でようやくリベンジ成功。6年生に勝ったんだ」
「デュフ、3回目あたりから6年生とも仲良くなって、「リベンジ」というよりただ楽しくてやっていましたなぁ」
犬飼智也が鼻下を人差し指でこする。
「ふふ、そうだな。まあ、つまり、智也には人を変える力がある。味方だけじゃなく、敵でもな。それって、すごくかっこよくないか?」
井上先輩が私に目を向ける。
あれ、こいつ、もしかしてかっこいいのか?
よく見たら、そんな顔も悪くないような。
「騙されないで!!」
声の方を見ると、栞だった。栞が声を荒げるなんて初めて見た。