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第7話 ポーション大人気

「ティナ様の魔法力、半端ないですもんねー」


ラビリアが大好物のアップルパイと紅茶を楽しみながら、私の背中に向かって言った。


私は、血眼になってポーションを作っていた。



村人と言うのは、実は結構ケガをしたり、病気になったりしていたらしかった。そして、死んだりしていたらしい。私は、それを聞いて真っ青になった。


「そんな命がかかってるポーションなんか作りたくない」



そもそもポーションなんか作ったことがない。


でも、けが人も病人も待ってはくれなかった。


で、仕方がなくて、力技で作ったのが、最初のポーション。効き目は薄かった。


その後、ラビリアに薬草を山ほど摘ませて、本を読んで、試作した。



「さすがは、ティナ様」


口だけウサギのラビリアは、ウサギだけあってさすがに鼻が利いて、薬草を嗅ぎ分けるのだけは天才的だった。


「でも、ポーション作ったの、おばあさまにバレたら、きっと叱られますよ」


そう。


人を助けることは善いことのはずなのに、私も考えることはあった。


不自然……なのかもしれない。目についた野生生物を助け続けたら……エサを与え続けたら?


「でも、人同士は助け合うものなのよ?」


やっと思いついた答えを返したら、ラビリアはすでにアップルパイを丸々一ホール平らげたあとだった。


「ティナ様、お代わりはないんでしょうか?」


ラビリアは、残念そうな声を出した。






そしてさらに、この冬、村は凍ってしまった。


正確に言うと、収穫の前に異例の寒さで霜が降り、大部分がダメになってしまったのだ。


「さあ、行きましょう!」


私は、畑を見てがっかりして、どうしていいかわからなくてオロオロしている村人に声をかけた。


「ど、どこへ?」


「森に行ってこの種類の木の実を集めて! できるだけたくさん! 雪に埋もれる前に!」


「何のためにですか? ティナ様?」


「ピカナの実は食べられるの」



食品としては、あまりおいしくない。だが、粉に()けば、薬になる。街へ行って売ればお金になる。



「食べらんないの知っている。何言っているんだ! この嘘つきのチビ女中め!」


誰かが罵声(ばせい)を浴びせた。



「よし。そう言うなら、あなたは帰りなさい。他の者はついて来て。売れたら報酬をあげるわ」


何人かが顔を見合わせた。


数人が村に戻り、何人かは付いてきた。女が多かった。女たちは顔見知りだったから私を信じてくれたのだ。


私は何時間か彼らと森をうろつき、ピカナの実を(ひろ)い集めた。


礼を言い、それぞれの名前を袋に書いて、重量を(はか)り、城に持ち帰って、ラビリアに叱られた。


「何深入りしてんです」


確かに。



「しかも、集めてきた人の名前と取ってきた量を記録しておくだなんて。何で、そんなとこ几帳面(きちょうめん)なんですか」


村人なんか放っときゃいいのにと言われた。


「おばあさまが言ってたでしょう。世界全体を救うことなんかできないって」


「村人って言っても数人だから」


世界を救うつもりなんかない。


この村の人たちが飢えていく(さま)を見たくないだけだ。




雑貨屋の主人が、こっそり私に頼み込んだのだ。


「どうかご領主様にお願いしてくれないか? ここらの農夫たちは計算が出来ないんだ。残りの食糧が春までもつか、自分でははっきりわかっていないと思う」


私はまさかと思って、亭主の顔を見た。計算が出来ない?


「割り算なんかできやしないよ。このままだと飢饉になる気がする。あんたはお城の女中だ。ご領主様と話は出来ないだろうけど、女中頭や執事の誰かを知らないか? 食料をわけてやって欲しいんだ」


領主は私だ。だけど、そんな判断は私にはできない。村人全員を助けるようなお金もない。


「……ダメかもわからないわ」


雑貨屋の主人はため息をついた。


「そうだな。ご領主様のお使いがここへ来たところを見たこともないから……」


『わかってんなら、頼みなさんな。ティナ様が困ってるでしょ? ティナ様、人がいいから、また変なこと仕出かすんですよ。そしたら私が後始末しなきゃいけなくなるんですよ、全く!』


黙れ、ラビリア。


「出来ることをするわ……」





ラビリアは胡散(うさん)臭そうに私を眺めた。


「挙動不審ですねえ。ティナ様、変に漢気(おとこぎ)があるから。……これどうすんです?」


ラビリアはピカナの実を()して言った。


「王都に持って行って売る。強壮剤になるから」


「ティナ様……どうやって王都に行くつもりなんですか?」


ラビリアの目には憐れみがあった。


「もうすぐ、道は全部雪で閉ざされるんですよ? 自分でそう言って、せっせと貯蔵庫大きくしていたくせに」



城には魔法の本がたくさん置いてあった。


特に私の寝室に。


読めと言う意味なんだろう。


そしておばあさまの罠にまんまとかかって、私はその本を全部読んだ。



「ラビリア……この城には魔法陣があるから」

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