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第42話 なんか、やな再会

黄色いドレスと、オレンジのドレスは、姉妹にピッタリだった。


「ファルク様、なんですの? その妙な子どもと下女は?」


私は(うつむ)いた。



どうして世の中は、これほどまでに再会したくないのに、再会してしまう仕組みになっているのだろう……



その二人は、リール公爵家のジェラルディン嬢と、多分その妹の誰かだった。


名前は知りたくない。


ジェラルディン嬢一人でたくさんだ。


「今日は姉と一緒に参りましたのよ?」


オレンジのドレスの方がにぎやかに声をかけた。


……姉妹確定である。


よく見ると、妹の方が少し小柄で、姉より親しみやすい表情をしていた。


ジェラルディン嬢には、王妃でも王太后でも、どんな役でも堂々務まりそうな威圧感と貫禄(かんろく)がある。


「お久しゅうございます。ファルク様」


ちょっと高飛車な感じでジェラルディン嬢が挨拶した。




聞くところによると、ジェラルディン嬢は、新国王の婚約者だそうな。


そりゃ、どこぞの伯爵家よりも偉そうにするだろう。生家は公爵家だし。



「リール公爵令嬢」


ファルクが嘲笑(あざわら)うように言った。


「今日はお茶のお約束でしたわね。遅れて来られた言い訳は後で聞きましょう」


早くも仕切ってる。ジェラルディン嬢、怖い。


ここ、他人のお城ですよね? リール公爵家のお宅ではないはず。


「ファルク様、お待ちしておりましたのよ?」


可愛らしい声で、ジェラルディン嬢の妹が声をかけた。


「婚約者を待たせるなんて、紳士のなさることではありませんわ」


ジェラルディン嬢がトゲのある声で言った。



婚約者!


私とエドは思わず顔を見合わせた。


ファルクには、しっかりばっちり婚約者がいたんだじゃないか!



いるに決まっている。


この城の感じから言うと、ただの伯爵家ではないだろう。


相当な勢力家だ。


それはそうだ。次男の彼が、騎士団長になろうかと言うのだから。


実家の力無くして、それはない。たとえ剣聖と呼ばれるほどの腕前の持ち主だったとしても、騎士団長の地位は、政治力と無縁でいられない。



むしろこれ程の家の息子の彼が、どうして呑気そうに、私の働いているちっぽけな料理屋なんかに出入りしていたのか不思議だ。


「メアリ嬢」


ファルクが冷たい声で呼びかけた。


「お茶に招待した覚えはない」


メアリ嬢のニコニコ笑顔があっという間にしぼんで、緊張した表情になった。


急いでジェラルディン嬢が前に出てきた。


その顔を見ると、ファルクはニヤリと笑った。


だが、その笑いは怖い笑いだった。ここは笑う場面ではないわよ。



そばで見ていた私は猛烈に緊張した。エドだってそうだと思う。


なんで、無駄に、縁もゆかりもない人たちの対決劇場を鑑賞しなくちゃならないのか。


そして、なんで、こんなにむやみやたらに迫力があるんだろう、この人たち。


ファルクは、背が高い上に氷のような美貌、ジェラルディンは早くも王妃以上に威厳を(まと)い、メアリとかいう妹だけが平凡なオーラだが、今にも泣き出しそう。



「帰りたい……」


幼い容貌のエドがつぶやいた。私は思わずエドの手を握った。


手に汗握るとはこのことだ。



「クレイモア家はこの婚約を了承しておられます」


「私はしていない」


ファルクは冷然と言い放ち、メアリ嬢は気の毒に顔を歪め泣き始めた。


「まあ。なんと言うことを。メアリが泣いております。紳士のなさることではありませんわ」


「私を紳士でないと言うのは勝手だが、婚約者を勝手に名乗られるのは困る」


「リール家のメアリのどこに不満があると言うのですか?」


「まず顔だ。背も低い。教養もいまいちだ」



わあああ。


今まで、ジェラルディン嬢の味方をしようなんて気になったこと、一度だって無かったけど、この断りよう!


他に言い方があるんじゃないの?


ジェラルディン嬢が唇を歪めた。


「あなたの未来の妻は、幸せであるべきです。未来の王妃として、それを命じます。メアリが泣いたり、不満であったりした場合は、王家の不興をこうむるものと覚えておくがいい」


それもちょっと言い過ぎじゃない?


もう少し温厚になれないの? なれないのか。事情が事情だからか。


私たちは、ファルクとジェラルディンがセリフを言うたびに、代わる代わるその顔を見物した。


「その王家、いつまで()つのやら」


ファルク! 怖っ!


そのセリフ、言っちゃって良いの?


「……謀反(むほん)と思われても良いのか。その首が胴体から離れるぞっ」


なんの脅迫大会なの?



私たち、もう黙って出て行ってもいいんじゃないかしら。


知りたいことは大体分かった気がするわ。


つまり、リール公爵家は、クレイモア家を妹を使って取り込みたいのね? でも、ファルク本人は反対だと。



でも、もう結構。十分堪能(たんのう)しました。


私たちは、モノの数にも入らない人間。出番はない。こっそり出て行っても、こんな話題で口論している連中は気が付かないに決まってる。


私はエドの手を引っ張って、そろそろと後退(あとじさ)りして、逃亡体勢を取り始めた。


「そんなことができる訳がない」


余裕っぽいファルクの声がした。


「なぜなら、メアリ嬢と結婚しないのは、私が真実の愛に目覚めたからだ」


思わず、ジェラルディン嬢とメアリ嬢、それに私とエドまで、珍しいものを見るように、氷の美貌のファルクの顔を見た。


えー? こんな男が、突然何を言い出すのかしら?


「まあ、突然、何をおっしゃることやら。氷のようと言われ続けたあなたが」


一瞬、ひるんだが、ジェラルディン嬢が心底おかしそうに笑い出した。


「一度もそんなお話を聞いたことがございませんわ」


面白いかも知れないけど、もういいや。私たちは再び目立たないように後ろに後退り始めた。


「私に愛する者が居て可笑しいか。今日は紹介しようと連れて来た」


あんなに苦労して退場しようとしていたのに、三歩で私に追いつくと、ファルクはジェラルディン嬢の前に私を突き出した。


ジェラルディン嬢の黒光りする目が、憎々しげに私を見据えた。


「なんですの? この女?」



もう、勘弁してください……私は密かに思った。

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