第40話 エドは弟設定
エドの意味のわからない激怒の前で、私は困った。
そうだ。説明すればいいのよ。だって、ファルクは次期騎士団長なのよ。
意外な大物を釣り上げたのよ。情報の宝庫だと思うわ。
「エド……違う、ウィル。ファルク様は、次期騎士団長なの」
ファルクはエドをじっと見ていた。
エドはその言葉にビクッとなったが、怒った表情のままファルクを眺めた。
「君は騎士団長って言葉、知ってる?」
ファルクが子どもに話しかけるように聞いた。
「ウィルはまだ子どもだもの、わからないわ」
私はフォローに入った。
エドは激怒している。何を言い出すかわからない。
ファルクは、私には甘いけど、他の人には相当手厳しいと聞く。こんな少年だからって手加減するとは思えない。
「普通なら、こんな生意気な少年なんか、構いつけないんだが……」
見下ろすようにして、ファルクは冷たく言い放った。
「ま、君は僕の大事な花嫁の弟だって言うから、大目に見てやろう。騎士団長って言うのは、国王に仕える騎士の長さ。武官の中での最高位だ」
花嫁?
パッとエドが私の方を振り返った。私はファルクの顔を見た。
「ファルク様、結婚するとは言っていません!」
エドの目つきが苦々しげになった。
ファルクの方は、完全に面白がっている目つきになった。
「大事な姉を取られて怒っているのか」
それも違います。
ていうか、なんでこんなところで、そんな話を始めるの? 面白そうだから野次馬が寄ってくるんだけど?
通りで立ち止まって、変な感じに睨み合っていると、邪魔だと言わんばかりに通り過ぎていく商人にチラ見され、暇そうな馬丁などはニヤつきながら見物を始めた。
道端の物売り女も、日除けの大きな帽子の影からおもしろそうに見上げている。
「ファルク様、エド……じゃなくてウィル、場所を変えましょう!」
「付き合っているのか?」
エドが低い声で割り込んだ。
なんてことを聞くの!
「もちろん」「違います!」
「おー、意見が分かれたな!」
「なんでなんだい? こんないい男、そうそういないよ?」
「本気で結婚前提なら、いいお話だよ。そこの姉ちゃん、気取ってないでOKしちまいな!」
今や、外野がどんどん意見を述べ始めた。
もし、ファルクに反対意見なら、この一見優男風の剣聖は何をしていたかわからないが、彼をオススメする意見ばっかりだったので、ニヤニヤしながら聞いているだけだった。
「諦めなよ。弟なんだ。姉さんの幸せを願うもんだ。こちらの旦那はなかなか金持ちそうじゃないか」
「それにこんな綺麗な男、見たことないよ。あたしが代わってやりたいよ」
「別嬪の姉さんだから、弟も悔しいんだろうな。ハハハハ」
「ですから、場所を変えましょう! これではかっこ悪すぎますわ!」
私はもう泣きそうだった。
「そうだな。弟を説得するのも、家族の説得も必要だ」
ファルクが、ニヤニヤしながら妙なことを言いだした。
私は今日のところは帰りたい。だが、許してもらえそうもなかった。
ファルクは、その辺にいた馬丁に声をかけると、馬車に私たち二人を詰め込んだ。
「クレイモア伯爵邸へ!」
エドがピクリと動いた。
「クレイモア?」




