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第39話 ファルク様とデート

どうも実は知り合いになりたくないファルクだったが、次期騎士団長と言うなら仕方ない。


私の会話力では全然歯が立たないんじゃないかと思うけど、デートに応じてみようかしら。



もちろんエドには言っていない。なんだか言わない方がいいような気がしたから。


「OKしてくれて嬉しいよ」


ファルクは不思議と目を細めて喜んでくれた。


謎だ。


この人は、とても冷たい人だと言う噂だった。目上のものには丁重だが、目下の者には冷淡だと。

それに、本当に綺麗な男だが、誘い方も訳が分からない。花がかわいそうだから受け取ってくれって、妙だと思う。


「とても不思議ですわ」


私は言った。


「どうしてあんなところで働いている私に声をかけたのか」


「さあね?」


誘われたのは、街の中でのデート。


私は店の前で待ち合わせをして、ファルクに誘われるままに、街を歩いた。



私はガレンが初めてじゃない。


だけど、私の知っているガレンは、王宮だけ。


そして、ポーション売りをしていた時も、アルクマールの森からやってきた時も、私は息を(ひそ)めるようにして、自分の家から街の屋根だけを見ていた。

家の外に出るのは、三時間のみ。遠出は決してしなかった。



本当の街は違っていた。賑やかだった。


人々は笑ったり、叫んだり、騒いだりしてた。


忙しそうに物を運ぶ男、道端に陣取り物を売る女たち、行き()う荷馬車や馬車。馬車の中には、立派な紳士や貴婦人の姿もあった。


警笛やウマの(ひづめ)の音、誰かの呼び声、話し声、流れる色彩と雑多な音。


わたしは本当のガレンを知らなかったのだ。



「あれはなんでしょう?」


思わず聞いた大きな建物は、すごく立派だった。だが、王宮ではない。まるきり無防備で、誰でも入って行けて、それなのに見せびらかすように飛び切り豪奢だった。華やかで。


「あれかい? オペラ座だ。芝居を見るところだよ」


ファルクは含み笑いをした。


「君はどこの出身なの? 王都の人じゃないね?」


田舎者の質問。そういうことね。


「ガレンの王都出身ではありません」


「へええ!」


ファルクはうれしそうだった。


「だから、ガレンの話を聞きたいです」


オペラ座は豪華で、この街について、もっともっと聞きたいことはたくさんあった。

だけど、私はそんな用事でここにいるわけじゃない。


ファルクは、庶民的だけど、気の利いた店に私を誘った。


高級店でないのは、そりゃ仕方ない。だって私は町娘のなりだったから。


ファルクも地味な服を着てきた。

だけど気の利いた服だわ。似合っている。


私にはガレンの流行はわからなかった。でも、自分の格好が、多分、流行と違うことはなんとなくわかる。ちょっと、気が引けた。


別にファルクが目を()くような豪華ドレスだって、持ってないわけじゃないのよ?

でも、おかしいでしょう! このシチュエーションで。


お食事処で働く平民の娘をデートに誘ったら、宮廷の貴婦人スタイルで現れたら、おかしいわよね。


今日、私は、この得体の知れないファルクにくっ付いて、ガレンの王宮の中の秘密を聞き出さなくてはいけないのだ。



「ガレンの何が聞きたい?」


ファルクは楽しそうだった。


「そうですね。王様はどんな方なのか、王妃様はどんな方なのか」


「王妃様はまだいないよ。結婚式がまだだから、婚約者だな」


「婚約者! 素敵な言葉ですね。王様の求婚なんて夢みたいですわ」


「さあ、どうだろう。国王陛下が求婚したかったかどうかわからないし」


それはファルクの言う通りだろう。エドだって、私に求婚したかったわけじゃないもの。


「王様はどんな方ですの?」


「王様じゃなくて、僕に興味を持ってほしいな」


急にファルクが手を握ってきた。


「なぜ、お茶に誘ったかわかる?」


私は懸命に頭を振った。


いや、これはわからない方が安全そう。


ファルクは、クスッと笑った。


「君はバカだな」


思わず、むうと膨れた。


バカはないわ。


「君を囲いたい」


は?





それからとりとめのない話をして、いろんな店に寄ったり、平民の娘には高価すぎるアクセサリーを買ってもらったり、私は彼と一緒に街を歩いた。


「アクセサリーを買ってもらっても、ちっともうれしそうじゃないなあ」


私が懸命に辞退したので、ファルクは文句を言った。


「そんなことは……」


なんだか心配だ。このゲームの先には何が待っているのかしら?


「誰か好きな人でもいるのかな? 君のことを可愛いって思っているのに」


「ま、まさか! 好きな人なんかいません」


あ、つい脊髄(せきずい)反射してしまった。婚約者がいる前提だったのに!


「そう。空席なら安心したよ。安心して立候補できる」


「あ、いや、ええと、実は婚約者がいます」


「でも、好きじゃないんでしょ? なら、僕を好きにならないか?」


人混みの中なのに、ファルクは平然として口説いてくる。


違うってば。そんな話をしたいわけじゃなくて、私が聞きたいのは王家の噂話なんだって!


だけど、ファルクはぜんぜん私の言うことに耳を傾けなかった。


「そんなこと、関係ないでしょ? それにどうでもいいじゃない。どうせ、今の王様なんか長続きしないよ」


え? え? 聞き捨てならない。


私は、ファルクの顔を見た。


目と目が合うと、切長の光るような目が微笑んだ。


「僕を見て」


じゃなくて、どうして長続きしないってわかるの?


「君は無粋だな。そんなこと、どうでもいいじゃないか。王様が気になるなら、王様みたいな結婚式を挙げてあげる。君が喜ぶことを全部するよ。例えば……」


ファルクは、私の耳に触った。


「似合いの碧い石のイヤリングや、大ぶりの真珠の首飾り」


首と喉の周りを撫でて、耳元で感極まったように囁いた。


「かわいい」




私は思わず、後退(あとじさ)った。彼の指先から逃げるために。そして、急にどんと何かに突き当たった。


振り返ったら、目の前には少年が立っていた。


不機嫌そうな顔をした少年が。


「エ、ド……」



うわあ……。


「誰なの? この子?」


ファルクが、ちょっとおもしろそうな顔をして聞いた。


エドは、少年の格好だった。当たり前だ。私と同じく変身しているのだから。


「なんだか、この子、怒ってるみたいだけど」


怒っていた。


ええと、これは激怒しているわ。なぜだろう。


「エドと言う名前なの?」


ファルクが聞いた。


「えっと、いいえ。エドワード・ウィリアムって言うの。私の弟よ」


エドの青い目が大きく見開かれ、その後、私を睨んできた。



弟以外の他の設定があったら、むしろ教えて欲しい。


「へええ。そうなの。ティナの弟なの。こんにちわ」


薄笑いのファルクが挨拶した。


「ウィルって呼んで」


私は頼んだ。


「家族以外からはウィルなのよ」


エドは激怒していた。形のよい細い鼻の穴が膨らみ、ぐっと口を引き結んでいる。


えっと、これは何か勘違いしてるわよね?

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