表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/62

第3話 襲撃

別にラビリアの発言のせいじゃないが、アルクマールは撤退(てったい)を決意した。


「これでは(らち)があきません。ガレンの意図(いと)が読めない。一度戻りましょう」


水もくれないだなんて、おかしすぎる。


「ガレンの王家では内紛が起きていると思います」


アルクマールの代表者ビスマス老侯爵が言った。短い白いヒゲが顔を(おお)っている老紳士である。


なかなかステキなオジ様なのではないかと……(関係ないけど)


「王妃様はリール公爵家出身で、姪のジェラルディン嬢を王太子の妻に据えたいのです。権力を保持するために」


「王妃様と言う身分があるのに? 王太子殿下の母上でしょう?」


私は尋ねたが、ビスマス侯爵は首を振った。


「殿下の母上は、三年ほど前に亡くなられました。殿下はもう成人しておられたので、たいして問題にはなりませんでしたが」


「では、あの王妃様は、殿下の実のお母様ではないの?」


「義母にあたられます。ただ、これまで、全く問題ではありませんでした。陛下がお元気で全てを取り仕切っておられましたから。ですが、こんなことになっていようとは……」


ダメじゃないの。アルクマールの情報網。実は、殿下はジェラルディン嬢にメロメロらしいわよ。


「いっそ婚儀を取りやめればよかったのに」


「そんなわけにはまいりません。ガレンの国王陛下が倒れられたのは、一月前。もう、すべてが動き出した後でございました。結婚の契約の調印も、何もかもが済んでいます。反故(ほご)にはできません」


うん。わかっていた。

私の結婚は政略結婚。本人の気持ちは関係ない。


ちょっと憂鬱(ゆううつ)になった。たとえエドウィン殿下の心が、他の人にあったとしても、結婚式が挙げられるのだろう。


だが、ビスマス老侯爵は続けた。


「ですから、逆に結婚契約が履行(りこう)されなければ、アルクマールに戻ることもできるわけです。王太子殿下は一向に現れません。完全に契約違反です。こんな不安定で流動的な情勢のガレンの王宮に(とど)まることの方が危険でしょう」


私も(うなず)いた。戻ろう。エドウィン王太子もその方が喜ぶだろう。




「お帰りになるの。まあ、残念ですわ」


知らせを聞いたらしいジェラルディン嬢が、帰り支度で忙しいアルクマールの部屋に現れて、見えすいた嘘を言った。


笑っているのが、隠しても隠しきれていない。


「私たちの結婚式を見てお帰りになればよかったのに」


私の中で何かがプツンと切れた。


「ビスマス侯爵、早く戻りましょう」






私たちは来た時と同じく、馬車を(つら)ねて戻っていった。


ラビリアと私は、やっとゆっくり足を伸ばした。ガレンの王宮では一瞬たりとも気を抜けなかった。


「あー、ほんと、もうバカバカしかったわ」


「王太子殿下はどこへ消えたのでしょうね?」


「私たちが帰るのを待っていたのではないかしら? ジェラルディン嬢と結婚するために」



私は婚約者がいることを、ほんのり意識していた。


この世界のどこかに私と約束している人がいる。


その人は、隣国の王子様で、それ以外はわからなくて、きっと私の理想の人だった。


「それが、あのジェラルディン嬢の恋人だったなんて……」


かなりの幻滅だった。


「とにかく早く帰りましょう」




だが、一日も行かないうちに、馬車が何者かに襲撃されたのだった。


街道で待ち伏せしていたらしい。道の行手(ゆくて)に何者かが立ちはだかった。


ガタンと音を立てて馬車が止まり、同時に大勢の人声、馬のいななきが混ざり合った。


「どうしたと言うのかしら?」


こんなことはありえない。おかし過ぎる。


「窓を開けてはなりません! 姫君!」


護衛の誰が大声で叫ぶのが聞こえた。まさか本気で斬り合っていませんように! 

だが、金属性の音、悲鳴が聞こえる。何人かの人声と荒れた足音が馬車に近付き、大声が響いた。


「開けてくれ! ティナ殿!」


ティナ殿?


「誰?」


何人かが争っているらしく、荒っぽい数人の叫びが外で響く。


「ダメです。扉を開けてはいけません!」


誰かが叫んだ。だが、その途端、馬車は横に倒れ、私はラビリアの下敷きになり、同時にどこかに頭をぶつけて意識を失ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ