第23話 超絶美少女は何もできない
母達は私を誤解している。
バカにしているとも言えると思う!
「姫様のような華奢で可憐、儚げな美少女がついて歩いたら、それだけでエド様は迷惑します。エド様には目立たないことが必要なのに、あなた様ときたら、誰もが振り返る幻の超絶美少女。連れ歩くだけで、質問攻めに逢います」
そんなつもりはない。
「馬にも乗れないし、ずっと面倒を見てあげなければならない。お一人で着替えもできない深窓の姫君なのに」
そう仕組んでいるのは、恐怖の有能侍女軍団だ。私は、そんじょそこらの女中より、よっぽど家事仕事ができる。料理も洗濯もアイロンもお手のものだ。全部、魔法を使うけど。
「とにかく、三日間おとなしくしていてください」
「私どもがお相手を務めますから」
「そうそう、今晩は、姫様が療養先からご無事にお戻りなった事をお祝いして、国中の選りすぐった方々をお招きしたパーティを開きますのよ? ご親戚にあたられる公爵家の令息や、王太子様のご学友の弟君とか」
ピンときた。
ガレンの王太子の線がダメになったので、別な相手を考えているのだろう。
兄と私は十才も離れているので、ご学友では歳が合わない。弟になっているのはそのせいだ。
「さあさあ、こうしてはいられません。どのご衣装がよろしいでしょう? 今まで姫様には婚約者がおられたので、誰一人お話しすることさえ許されませんでしたが、この度、正式に婚約解消されましたから、姫様の気に入った方がお婿様になることができますわ」
「ステキですわね」
エドとの婚約解消のどこがそんなにステキなの……?
「どなたがクリスティーナ様のハートを射止めるのでしょうね?」
侍女達はキャッキャッと楽しそうだ。
ここからでは見えないけれど、広間の方がざわざわしているのは、多分、準備に追われているのだろう。
「王太子殿下の時も、どなたを選ぶのか、大騒ぎになりましたわ」
「こんな浮き立つ行事は、最近はありませんでしたものね」
「なにしろクリスティーナ様は、生まれた時からご婚約が決まっていましたから」
「適齢期のご子息を持つご家庭は、どこも色めき立っているそうですわ」
「それはそうでしょう。ただでさえ、国王陛下と王太子殿下のお気に入りの妹姫。王太子殿下のところは、四人とも男のお子様ですし。いわば最後のチャンスですわ」
「その上、クリスティーナ様は、まるで夢のようなお美しさですもの。本当にあれほどの方は見たことがありません。どこの家もよると触るとその話で大騒ぎ……」
私はおとなしくしていろと言われたので、椅子に座って侍女達の様子を見物していた。
なんだか虚しかった。
この暖かな場所で、侍女達が豪華なドレスを何着も出してきて、どれがいいか議論している。
香りの高いお茶と、手遊びに珍しいナッツが入った小さなクッキーが盛られている。好きなだけ食べるように。
もし、ショコラが欲しければ声をかければいいだけだ。
私は雪解けの中を苦労して進んでいるエドを思った。
どこへ向かっているのだろう。
誰かあてでもあるのだろうか。
母は、ガレンの王位を取り戻して帰ってきたら再婚約してもいいと言っていた。
嘘だ。
無理だ。
何年かかるのだろう。ガレンの領土を取り戻すのに。
彼が出て行った途端に、この有様だ。私の夫を探そうと、両親は骨を折っている。
きっと私が一人では何もできないと思っているのだ。だから、早くよい夫を見つけて、その庇護の下で暮らすように、算段しているのだ。
エドは私に結婚してほしいと言った。
村娘の私に。
ポーション販売員の娘に。
婚約は破棄すると言っていた。
だけど、彼も、私が誰だかわかった途端、諦めたのだろう。
彼は私を連れて行こうとしなかった。安全なことがわかっている両親の元へ送り届けた。
「あのバカ……」
私は呟いた。
「なんとおっしゃいました? クリスティーナ様。こちらのバラ色のドレスと、濃いグリーンの光沢のあるこちらでしたら、どちらがお好みですか?」
みんな、みんな、勘違いしている。
私は儚げな外見の美少女じゃない。
手を汚し、耐え忍び、大声を張り上げて、運命に挑む人なのだ。きっとそうだ。多分だけど。
三日間は我慢する。
なぜなら、三日経てば、エドの後を追うことなんか、私にはもうできないとみんなが考えているから。
「そんなことはないわ」
私は魔女なのよ? 誰にも負けないわ。