第14話 これは何だ
「ここは何?」
そこは私の城で、お気に入りの屋根裏部屋だった。
エドは呆れ果てたように周りを見渡した。
そこには街の喧騒も、日の明るさもなくて、空は曇天、静まり返って鳥の声さえしない場所だった。
バタバタと足音がして、誰かがやってくる。絶対、ラビリアだ。
サッとドアが開いて、ラビリアがお約束のように顔を出して、次の瞬間、パッとエドの姿に目を走らせると尋ねた。
「これ、何?」
ええ。
これ、何なんでしょうね。
「こいつは誰だ」
騎士はラビリアの口のきき方に反発したらしい。ちょっと乱暴に聞いた。
「ラビリア」
私は力無く答えた。
「ちょっと、ティナ様。これは、なんですか?」
ラビリアの声が尖っている。
なんだと言われても……
「人間……?」
「カエルじゃないんですよね?」
ラビリアが念を押した。
「ハッハッハ……面白い冗談言うね」
別に冗談ではない。
この城では、カエルは、馬になったり人になったりしている。
ラビリアはウサギだし。
「エドだそうです」
名前しか知らないので、そう言うしかない。
「エドです。どうぞお見知りおきを」
それ以上説明する気はないのか。この男。
「で? あんたは誰?」
エドは、今度は鋭い目を私に向けて尋ねた。
そうよね。誰だか聞きたくもなるわよね。いきなり魔法陣を発動させたんですもの。
でも、まさか魔女ですとは言えないわ。
「……ティナです……?」
「え? 何?その疑問形。お互いに誰だか知らないの?」
ラビリアが私とエドの顔を、代わる代わる見ながら尋ねた。
「や……知っているといえば、知っているような。この人は食い詰めの貧乏騎士です」
反射的にムカッときたらしいエドが反応した。
「俺が知っているのは、この女はウサギ印のポーションとラビレットの販売員だってことだ」
ラビリアがつくづく私たちを眺めた。
「私が知りたいのは、どうしてその貧乏騎士様がここに来たかってことですけどね」
「うん。俺も知りたい。どうして、俺はここにいるの? これ、魔法なの?」
ええ。問題はそこですよね。
どういう事情でこの城に来たのかはとにかく、残念ながら、食い詰め騎士様は、当城の居候になった。食客とも言う。
文字通り、ダタメシを食らうだけの人である。
なにしろ、雪のせいで外には出られないのだ。
女二人の城に、大飯食らいの痩せ細った騎士がいるのである。外聞が悪いったらありゃしない。
「早く出たいんですけどねえ」
エドは口いっぱいにハムを頬張りながら、弁解した。どんなに出たいと言っても出ないで済む。弁解し放題である。
「なにしろ出られないもんで。この雪ではね」
うむむむ。なんだか悔しい気がするんだけど、どうしてかしら。




