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1 終わりという名のプロローグ

 ドラマで首絞められるやついるじゃん?


 演技見てると、ああ、こいつは()()()()()()()って思う。


 やめてとか、まず言わないし、苦しいとか、思うわけないじゃん。


 そんな余裕、あるかっつーの。


 あるのは、圧倒的恐怖。


 首を締められてすぐ、息ができなくなるわけじゃない。


 でも、死んじゃうと思った瞬間、頭真っ白になって、息が吸えなくなる。


 一生懸命相手の手を外そうとして、力任せに引っ張ったり、爪立てたり、くぐり抜けようとしたり…でも無駄なんだよね。


 もう組み伏せられて、首絞められた時点で負けだよ。


 自分が生きるか死ぬかなんて、相手の気分しだい。


 どうやら、この世は弱肉強食で、あたしは最弱だから。


 大貧民でいえば、一番弱い「3」。


 数字が大きくも、絵柄がついていたりもしないで、「1」や「2」みたいに特別感もない、ただの「3」。


 誰もが、使えないなって思うやつ。


 うちの両親は、もし大貧民で、あたしのカードが配られたら、さっさと使い捨てると思う。


 でも、はっきり言っていい?


 こっちからすれば、親ガチャ、ハズレだから。大ハズレ。


 DVの父親が嫌で離婚したはずのに、またDVな彼氏をつくる歪んだ母親はともかくとして。


 三者三様に首絞めてくるってどういうこと?


 あたしは思ってた。


 いつか、おまえらが興奮しすぎて、匙加減を間違えて、あたしを殺すんじゃないかって。


 チキンレースなんてするから。


 あたしはニワトリみたいに首を絞めて殺された。


 息ができなくて、真っ白で、もうどうしようもないと思ったとき、急に視界が真っ暗になって、「あ」って思った。


 で、意識が遠のいて、これで終わりなんだなって思ったら、ちょっと気持ちが楽になって、なんだか笑えてきて、実際、クスクス声に出して笑ってた。


 意識がなくなったのに、自分の耳は自分の口が笑ってるのを聞いてんの。変でしょ?


 あたしも変だなと思って、今度は目を開けてみた。


 そしたら真っ暗なとこに立ってて、目の前には、灰色のスーツを着た小さいおじさんがフリップボードを持って立っていた。


 おじさんは、あたしに言われたくないだろうけど、とても平凡な顔をしていて、少しでも目をそらすと、もう顔が思い出せないくらい、ぺらっぺらの存在感だった。


 何これ……ちょっと……いや、かなりシュールだ。


「どうも」


 いつからそこに立ってたのか知らないけど、あたしが目を開けたタイミングで、おじさんは、そっと言った。


 フリップボード持ってるけど、お笑い芸人の「どうもっ!」とは全然違う言い方だった。


 どうでもいいけど。


 で、おじさんは「死んじゃいましたね」と言った。


 あたしは「はあ」って間抜けな返事をした。


「今、親ガチャ失敗した人向けに、<大逆転だ! ざまあ!>キャンペーンってのをやってまして…あ、申し遅れましたが、ワタクシ神です」


 あんまりぼそぼそ話すので、一瞬、神という珍しい苗字のセールスマンなのかなと思ったけど、ここが死後の世界なら、()()神だろう。


 だとしたら……。


 神、セールスは信用だよ。


 もっと自信満々に言わなきゃ。


 スーパーの食品売り場で、試食販売おばさんのあらゆるセールストークを聞いきたあたしが言うとおりにやってみて。


 と妙なお節介をしそうになって、ああ、そういえば、あたし、こういうとこあったなと思い出した。


 暴力にさらされつづけて、もとがどんな人間だったか、自分でもわかんないくらい、跡形もなくボコボコにされて、忘れてたよ。


 神は、あたしから反応が返ってこないのをみて、ちょっともじもじすると、自分で小さく「ジャーン!」と言って、フリップを引っくり返した。


「キャンペーンの内容としましては①現実世界にタイムリープ②平行世界に異世界転生のどちらか好きなほうを選んでいただけます」


 …………。


 神のセールストークが下手すぎるせいで、気持ちが盛り上がる前に、キャンペーン内容を知らされてしまったが、これはひょっとして、いやかなりの好条件なのではと思えた。


「え、①だったら、好きな時間に戻れるの…?」


 と聞いてから、いつだったら自分が幸せだったかと考えて、ちょっと悩んだ。


 両親が離婚する前、父親が酒癖が悪くなって暴力を振るう前には、楽しかったこともあった気がするけど、そのあとの地獄の日々を思い出すと、たとえ二度目でも、うまく切り抜けることは難しいんじゃないかと思った。


 だって、子どもだから。


 自分ひとりで、暮らしていける力があるわけじゃない。保護を求めたって、きちんと助けてもらえるかわからない。


 またあの日々に戻るのはいやだった。


「……未来へは? 大人になったあたしにはなれる?」


 つらいことを全部乗り越えて、ちゃんと大人になれた自分になら、なりたい気がした。


 しかし、神は残念そうに首を振る。


「①の場合、時を戻して、やり直すことしかできません。ただ、記憶チートが使えますので、回避行動を取ることはできるかと思います。あとは、初期的には勉強や運動が神童レベルにできますね」


 …………。


 ダメだ。あたしの脳みそは小3で止まってるから…たいした神童にはなれない。


 現実世界に見切りをつけて、②に目を向ける。


「こっちは?」


 神、ちょっと嬉しそうに両手をこすりあわせる。


「こちらはですね、文字どおり異世界転生なのですが、平行世界なので、お客様の身近な人間関係がそのまま反映された世界です」


「つまり、親はそのまま親ってこと?」


「そうですね、ただ①よりも、これまでの人生との乖離は大きくなりますので、ややイージーモードに設定されているケースが多いです、はい」


 うーん……。


 どっちも少しずつ微妙だな!


「現実世界で親ガチャやり直させてくれるのが一番なんだけど……」


「はい、おっしゃるとおりかと思うのですが……それはいわゆる本転生となりまして……」


 神は困ったような顔をすると、ハンカチを取り出して、額の汗をふきふき言った。


「お客様のように、不運にも生を全うしないでお亡くなりになった場合、本転生率の低さが問題となっておりまして……このキャンペーンは、お客様ご自身で、因縁の相手にざまあをして、スカッとしていただき、気持ちよく本転生していただこうというものでして……」


 つまり、あたしはこのままだと本転生がすんなりできないから、キャンペーン中に親に「ざまあ」をして無事、本転生しろと?


 それ、あたしにやらない選択なくない?


 それ、キャンペーンって言わなくない?


 文句を言おうとすると、神がちらりと腕時計を見て、慌てたように言った。


「申し訳ありません、次の方がいらっしゃるので、あと5秒で決めていただけますか?」


「え?」


「5……」


「いや、ちょっと待ってよ……」


「4……」


「まだいろいろ聞きたいこともあんだけど……」


「3……」


「話、聞かねえな、おい」


「2……」


「ちょ、待って待って」


「1……」


「②にします‼︎」


 あたしが叫ぶと、神はにっこりと笑った。


「ご参加ありがとうございます」


 かくして、あたしは<大逆転だ! ざまあ!>キャンペーンに半強制的に参加させられたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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