97話 帝都観光
さて、私含めて5人で冒険者ギルドに行って帝都観光もすることになったのだが‥‥
何故誰も馬車じゃなく歩きで行くことに疑問を持たない?
おかしいな‥‥レグルスとシリウスは王子だよ?リゲルとベネトさんも2人のいとこなんだから気をつけるべきだよ?
と、ベネトさんに言ってみたが。
「いやいや。マリンがいれば大丈夫だろ?」
これだ。
そしてやっぱり城から出た瞬間、また囲まれた。
囲んだ方々は帝国の国民の皆様なので、前回と同様にレグルスとベネトさんの一言でサッと退いてくれた。
ということで改めてギルドへ向かっていった。
ゆっくり出てきたので今はお昼前ぐらい。ギルドに着くとやはり人はまばらで、カウンターも行列はなかった。
昨日、別の冒険者の遺体を渡す時に対応してくれた受付嬢が今日もいてくれたので、その人の前に行き今日は遺品を渡しにきた旨を伝える。
すると、あっさりと奥に案内された。
そして指定された場所に遺品を出し終わり、再び受付まで戻ってくる。
「やっぱり、装備からして冒険者の方々ですよね?」
「そうですね‥‥。昨日お連れ頂いた方も含めて後はお任せください。ちゃんと持ち主の家族またはパーティーメンバーがいればどちらかにお返しします。」
「はい。お願いします。」
「それで、遺品の事ですが‥‥」
「換金は必要ありませんよ。先輩達を遺品だけでも帰して差し上げたいから持って帰ってきただけですから。」
「‥‥ありがとうございます。帝国の方ではないのに‥‥」
「同じ冒険者です。国は関係ありませんよ。」
「そうですね‥‥では陛下からの報酬をお渡ししますね。」
と、報酬が入った袋を出してくれたのだが、金額に驚いた。
「今回、陛下からの指名依頼ということで、白金貨10枚です。」
「‥‥‥‥え?‥‥白金貨10枚?」
「はい。ご確認頂けますか?」
「‥‥は、はい。」
そして、きっちり10枚あるのを確認したところで。
「‥‥確かに。‥‥確認しました。」
「ありがとうございます。」
「では‥‥‥遺品の事お願いします。失礼します。」
「はい。」
おい‥‥‥陛下、マジか?
白金貨10枚って1,000万だよ?
12歳になんて額渡すのよ!?
「‥‥レグルス、ベネトさん。陛下は何考えてるの‥‥?」
「「さあ‥‥?」」
「‥‥‥行こうか。」
『‥‥ああ。』
「切り替えよう。お昼、何食べる?」
「う~ん。俺達、城の外で食べることないからな‥‥」
「う~ん。‥‥あ。‥‥すみません、お勧めのお店ありますか?」
まだギルドから出ることなく話してたので振り返って受付嬢に聞いてみた。
「え!?私のお勧めでいいんですか?」
私はシリウスとリゲルを示しながら話した。
「はい。私とこの2人は王国の人間です。この辺りのことに詳しくないので、観光の意味でも現地の食事を食べてみたいんです。」
「それは城でも出るのでは?」
「城でも出ますが、私もこういう時じゃないと駄目だと言われるので、民の親しむ味を是非食べてみたい。」
「で、殿下もですか!?」
「それで、どこかありませんか?」
「えっと‥‥‥では‥‥」
とおずおずとお勧めのお店を教えてくれて、場所を聞くとレグルスが分かるとの事だったのでそこに行くことになった。改めて受付嬢にお礼を言ってようやくギルドから出てお昼を食べるべく向かった。
そして到着し、昼食後。
5人でこの後どこに向かうかを話していた。
「次、どこに行く?」
「う~ん‥‥私も道は覚えているが、店にはなかなか入ることがないからな。お勧めとかがないんだ。」
「俺も。」
「う~ん。じゃあまた気の赴くままに歩いて、誰かが興味を示したら入ってみるとかにする?」
「それでいいんじゃないか?」
「じゃあ行こっか。」
注文した時にお金は払っているので、そのまま出ても問題ない。
ちなみにこのお店の料理、めっちゃ美味かった。
スープやステーキとかだったけど、とにかく美味しかった。
‥‥‥真似は出来ないかな‥‥
そして、街ぶらを始めた私達だが案の定というか‥‥
色んなお店があったけど、反応するのは私ばっかりだった。
「あ!お米!ちょっと買ってくる!」
「あ!野菜と果物もある!買ってくるね!」
‥‥である。
でも4人共文句も言わず、待っててくれるの!ありがたい!
そして次に私の目に入ったのは‥‥反物のお店だった。
「ねぇねぇ。ここも入っていい?」
『どうぞ‥‥。』
「やった!」
と、ぐるっと店内を見て回っていると、店員さんが来た。
「実際に手に取って触ってみて下さい。」
「え?いいんですか?」
「はい。是非。」
「ではお言葉に甘えますね。」
と手に取って触ってみると、肌触りが良くてあることが気になった。
「反物はあるのに着物とか見ないな‥‥」
ぼそっと呟いただけのつもりだったが、側にいた店員さんが反応した。
「お客様、キモノをご存知なのですか!?」
「え?えっと‥‥あるんですか?」
「正確にはあった‥‥です。私のご先祖様が着ていたそうなんですが、それはもうありません。何も書き記した物もないので作り方が分からなくて‥‥。」
「ではどうしてご先祖様が着ていたとご存知なのですか?」
「ご先祖様の奥様という方の日記があったんです。そこにキモノの存在が書かれてました。それを読んで復活させたいと思ったのですが‥‥」
ご先祖様、日本人じゃ‥‥?
着物着てたってことは日本人でも昔の人かな?
‥‥‥私みたいに転生じゃなくて召喚された人とか?
いや、転生でも私みたいに前世の記憶を思い出して自分で作った?‥‥まあ考えても真相は分からないからいいか。
「そうですか‥‥。」
「お客様。作り方ご存知だったりしませんよね‥‥?」
「う~ん。多分私が知ってる着物と同じなら分かると思います。」
「本当ですか!?」
「はい。ただ、私がふと欲しいなと思ったのは同じ着物でも浴衣という物です。着物と浴衣。構造は似てますので作ってみようと思います。来年作ったのを見せにくるというのでどうでしょうか?」
「見せて頂けるのですか!?ちなみにキモノとユカタ?は何が違うのですか?」
「着物は基本的に2枚重ね着なのですが、浴衣は1枚で着物に比べて軽くて涼しいので、主に今の様な夏の時期に着るんですよ。」
「へ~!よくご存知ですね。あの、何故来年なのですか?」
「えっと‥‥私、王国の人間ですし、学生なので夏休みの今の間しか来れないんですよ。」
「あ‥‥なるほど。」
「というわけでいくつか反物を買って作ってきます!」
「はい!ありがとうございます!」
「というわけでシリウス、リゲル、レグルス、ベネトさん。リリ様とマリア様と姉様と‥‥リジアも入れるか。‥‥4人に似合いそうな生地選び手伝って!」
「「「「え?」」」」
「私の感性だけじゃなくて男性目線代表で選ぶ為よ!」
「「「「ああ~。」」」」
「マリンのは?」
「あ。じゃあついでに選んで。ちなみに浴衣と帯で2種類いるからね。」
「「「「え?」」」」
「お揃いでもいいよ。私の浴衣の生地と姉の帯が一緒とかね。」
「マリン。そもそもオビってなんだ?」
「浴衣を押さえるためにお腹辺りに巻く‥‥飾り?も兼ねてるか。そんな感じ。」
「「「「?」」」」
「う~ん。分かりにくいか。1人ずつ一緒に考える?」
「その方がいいだろうな。」
「えっと‥‥今更ですが、もしかして皇太子殿下でいらっしゃいますか?」
「ええ。そうですよ。」
「こ、これは失礼致しました!」
「構いませんよ。今は友人達の帝都観光に同行しているだけですから。」
「友人?‥‥ってもしかしてお客様のことですか?」
「はい。私達のことですよ。」
「お、お客様‥‥何者ですか?」
「何者って‥‥‥王国の貴族令嬢ですよ?」
「いや、それはお客様の話と見た目で分かります!」
「ああ。何故レグルスと友人かですね。私は辺境伯の娘で、毎年皇帝陛下にご招待頂いてるんです。それで、レグルスは同い年なのもあって友人になったんですよ。」
「‥‥‥‥‥‥お客様‥‥すごい方だったんですね‥‥‥」
「そうですか?」
「はい‥‥‥」
「さて、みんな。探そうか。」
「「「「ああ。」」」」
そして私、姉様、リリ様、マリア様、ついでにリジアの分も順調に選んでいった。
「‥‥‥ふぅ。とりあえず一通り選べたかな。あ。そういえば、着物も浴衣も男女それぞれあるんだよ?」
「「「「え?」」」」
「着方が違うんだけどね。ああ~でも種類も色々あるんだよなぁ甚平とか‥‥でも4人は浴衣の方が似合いそうだな。」
「また知らない単語が出てきた。」
「なんで知ってるんだ?ってたまに思うよな。」
「ふふっ。何故着物を知ってるかも内緒。いつか話すよ。纏めてね。それで、4人も着てみたい?‥‥‥って聞いても今は分からないか。来年私達が着た姿見てから決める?」
「そうだな。どんなのが出来上がるか見当がつかないからな。」
「ああ。‥‥ってことは来年私達が着たくなったらマリンが作ってくれるのか?」
「うん。いいよ。あ、でも兄様達も着たいって言い出したら難しいかも‥‥‥リジアに手伝ってもらえばいけるかな?」
「教え込むのか‥‥」
「というより、お客様。失礼ですが、そもそも貴族令嬢が縫い物なんてできるんですか?」
「ふっ‥‥店員さん。貴族令嬢でも簡単な物ぐらい作れる人はわりといますよ。それに私は学園で家庭科を取っています。家庭科は料理だけじゃありません。裁縫も学ぶんです。浴衣、作ってみせますとも!」
「おお~!」
「‥‥‥やる気が凄いな‥‥」
「ああ‥‥」
「そんなに着たいのか‥‥ユカタ。」
「私達で勝手に選んだ生地でクリス様達、良かったのだろうか?」
「大丈夫。私も一緒に選んだし、作るのも私。姉様達なら喜んでくれるよ。」
「マリン。そんなに着たいのか?ユカタってやつ。」
「うん。私が着たいのもあるけど、折角なら姉様を巻き添えにしたいの。それで、姉様を巻き込むならリリ様達もってことね。一緒に買い物行くと姉様は私のばっかり選んで自分のを選ばないんだもん。今度は私の番なんだよ。」
「ああ~確かに領地で買い物した時もマリンを構ってばっかりだったな。」
「でしょ?巻き込まれて頂きますよ~!来年はリリ様達も姉様だしね。」
「そうだな。」
「という訳で選んだ生地、全部下さい。」
「は、はい。‥‥‥全部で金貨1枚です。」
「はい。」
すぐさま金貨を出して会計を終える。
金貨1枚‥‥10万か‥‥
‥‥本来、12歳がサラッと出す金額じゃないよ‥‥?
私、この世界で金銭感覚がおかしくなったかな?
‥‥‥‥まあ‥‥いっか。今回は。
「‥‥‥お客様。これ‥‥今更ですが、運べますか?」
「問題ありませんよ。」
そう言いながら、マジックバッグに見せる為に持っていたポーチの口にストレージを展開し、受け取った反物を入れていった。
「マジックバッグをお持ちでしたか‥‥。」
「はい。むしろこの為のマジックバッグです。」
なんちゃってマジックバッグですけどね。
「では、お買い上げ頂きありがとうございました。来年を楽しみにしております。」
「はい。」
そうしてやっと反物の店を出ると、既に夕方になりつつあった。
「あ‥‥思ったよりゆっくりしすぎたね。‥‥‥結局私の買い物に4人を付き合わせただけだったね。ごめんなさい。」
「いや。いいよ。マリンが楽しそうだったからな。」
「ああ。それにマリンにつれ回された訳じゃないからな。」
「私達が興味なさそうなことはマリン一人で動いてたから、外で待つだけだったしな。何よりマリンが楽しそうだったから私としても満足だ。」
「だな。マリンは興味のあることには目をすごい輝かせるからな。それに俺達を気に掛けながらだったから全く嫌じゃなかったぞ?」
「良かった~。本当はね、浴衣の他にも履き物とか髪飾りとかもあれば見たかったけど、今日見たところにはなかったからね。まあまた探してみるか、最悪自分で作ることを考えるから。‥‥今日はもう戻らないとまずいよね?」
「そうだな。」
「帰るか。」
そして、ほぼ私の買い物で終わった観光?だった。
何故か無性に浴衣を着せたくなったので。
自分が一回しか着たことないから反動だと思います。
話の中は夏休み設定なので、夏休みといったら祭り。祭りといえば浴衣。という安易な考えです。