96話 アンデッド達の真相
そして陛下の執務室から出て、城を出る前は姉様と一緒に泊まっていた部屋に着くと、分かっていたことだが誰もいなかった。
姉様は王国に向けて父様達と帰っている途中の筈だ。
とりあえずお風呂に入って、1人になった部屋で髪を乾かしながらぼーっとしてると扉がノックされた。
扉を開けて出ると、そこにはレグルス、シリウス、リゲルの3人がいた。
「あれ?3人共どうしたの?‥‥‥あ。まだ言ってなかったね、ただいま。」
「「「おかえり。」」」
「おい。マリン、また髪乾かしてる途中で出てきたな。油断しすぎだと言っただろう。」
「ふふっ。3人だけだって分かってるから出たの。別に3人なら髪乾かしてる途中を見られてもいいよ。」
「私達が戸惑うのだが。」
「へ~?そうなんだ。じゃあ余計にだね。3人共入っていいよ。」
と言うと3人共おずおずと中に入った。
「余計にとはなんだ。」
「ん?普段から戸惑うことされてるからね。仕返し。」
「仕返しか‥‥。」
「それで、どうしたの?3人共。そろそろ夕食だから呼びに来てくれたとか?」
「まあそれもあるが、父上からマリンが疲れてると聞いてな、心配になって来た。」
「‥‥‥そっか。ありがとう。疲れてるのは精神的にだから大丈夫だよ。」
「無理してないか?」
「‥‥本当に駄目だと思ったら言うよ。今は帰ってきたばかりだから体に疲れがきてるだけの可能性もあるしね。」
「‥‥‥分かった。ならマリンの髪が乾いたら夕食を食べに行くか。」
「あ。本当に夕食だからって呼びに来てくれたんだ。」
「ああ。」
「じゃあ乾かしちゃうからちょっと待ってて。」
そして髪をまず温風で乾かし始めたのだが‥‥
見られてる‥‥
そして冷風に変えて涼んでいるときも‥‥
見てるな3人共‥‥待っててって言っただけで見るなとは言ってないし、部屋に入れたのも私だから文句は言えないか。
「‥‥‥ふぅ。‥‥3人共お待たせ。行こ。」
「「器用だな。」」
「‥‥‥レグルスやリリ様達と同じ事言ってる。」
そう話しながら3人と食堂へ向かう。
「私は見るのは2回目だが、やっぱり器用だなと思うよ。」
「そう?私、髪が長いから大変なんだよ。ちゃんと乾かさないと傷むし。」
「あ~。確かに大変そうだよな。」
「3人は短いから布で拭いた後、自然乾燥?」
「まあそうだな。」
「楽でいいよね~。」
「だからってマリンは短くするなよ?」
「うん。私、自分の髪の色好きだから切りたくないし、短くするつもりはないよ。」
「「「良かった‥‥。」」」
「ん?3人共なんでそんなに安心した顔してるの?」
「決まってるだろ!?」
「マリンの髪、折角綺麗なのに切ったら勿体ないだろ!?」
「ああ。勿体ない!」
「そ、そっか。ありがとう?‥‥あ、着いたね。」
そして食堂に着くと既に陛下達は揃っていた。
「陛下。遅れて申し訳ありません。‥‥皇后様、フローラ様。ご挨拶遅れました。本日の夕方無事、戻りました。」
「俺達も来たばかりだ。気にするな。」
「「おかえりなさい。マリン。」」
「はい。」
そして夕食が終わり、部屋に戻って一夜明け。
翌朝、朝食後。
今、城に残っている私、シリウス、リゲルと帝国の皇族が陛下の執務室に集まっていた。
「さて、マリン。昨日の指名依頼、アンデッドの浄化とだけ伝えて行ってもらった訳だが、マリンならアンデッド達が生前どういう者達だったか分かるな?」
「はい。‥‥‥元冒険者、ですよね?」
『!』
「正解だ。なら何故冒険者達が森の奥でアンデッドになったかの予測は?」
「大勢いましたから‥‥大規模討伐とかでしょうか?」
「それも正解だ。」
「え?父上、大規模討伐とはいつ‥‥?」
「レグルスが知らないのはしょうがない。16年前の話だからな。‥‥フローラが産まれたぐらいかな。‥‥それでマリン。何故アンデッド達が元冒険者で大規模討伐だと推測できた?」
「アンデッドですから顔とかは腐敗していたりしましたが、装備は人間の肉体程は壊れたりしにくいですから。アンデッド達が身につけていた装備は兵士の物とは違いましたし、それぞれ違う装備でした。だからまず元冒険者の方々だろうなと。」
「なるほどな。」
「大規模討伐はその元冒険者らしき方々が大勢いましたし、大分奥の方に集中していたのでそうかな、と。」
「ああ。だが、何故帰って来ない冒険者を放置することになったかは分からないよな?」
「いえ。竜が出没したからですよね?」
『!』
「!!‥‥何故それを‥‥?」
「教えてくれたんですよ。」
「え?」
「ある程度の範囲を浄化し続けてる間、ほとんどのアンデッドを浄化しました。中には後から私の姿を見つけて近付こうとして浄化されるのもいました。‥‥ですが、浄化をやめると更に奥に1人だけ残っていました。その方は近づいてくる気配もなく、ただ佇んでいました。私に気付くと、たどたどしくではありますが、話し掛けてきました。まず仲間を気にして、魔物と言ったあと負けたとそう言ったので私は魔物に負けたんだと思いました。ですが、その後すぐその方は「リュウ」と言いました。だから竜に負けたんだと言いたかったんだと思いました。‥‥実際その方の後ろ、森の奥ですね。そこには森の中にぽっかり穴が空いた様に、不自然に倒れた木の後とか、何事かが起こった様な痕跡がある、草原の様なところが広がってました‥‥だからそこで竜が暴れたんじゃないかと。」
「そうか‥‥。そいつ、たどたどしくてもそこまで話せるならリッチになってたんじゃないか?」
「恐らくは。私もアンデッド自体初めて見たので定かではありませんが、本の知識で言うならリッチだとは思います。でも、それにしては理性があるんだなと。」
「ああ。俺も本だけの知識だからハッキリとは分からんけどな。‥‥それで、そのリッチどうした?」
「竜に負けた時点で次に気になるのは、街や帝都に竜が行かないかだと思ったので私は両方無事ですよ。と答えました。
‥‥‥ここからは私の主観ですが、その時安心した様な感じを受けたので成仏できそうですか?と聞きました。すると僅かに頷いたように見えたので浄化しました。‥‥‥最後にありがとうと言ってくれて消えました。」
「そうか‥‥ありがとな、マリン。全員浄化してくれて。」
「いえ‥‥‥アンデッドを浄化するのは初めてだったので、ちゃんと成仏出来てるかが気にはなりますが。」
「後輩が浄化してくれたんだ。成仏出来てるよ。」
「そうだといいなと思います。」
「‥‥あ。話、戻さないとな。」
と言って陛下は経緯を話してくれた。
まず竜が出没したのは確かで、しかも複数体確認されたと。だから遺体の回収に行けなかった。
兵士達だけじゃ複数体の竜を倒すのは無理だったし、大規模討伐に出た冒険者の大半がAやBランクばかりだった為、冒険者の応援も得られなかった。
竜はすぐに住みかに戻ったようだが、冒険者が戻って来ない為、大規模討伐自体が成功しているか否か分からない状態だったそうだ。
なので少しずつ森の中を確認していったものの、森が広大で魔物に対処しながら討伐隊の居場所を探すのに数年かかったそうだ。
そして数年後、ある程度範囲を絞れた時に兵士達と冒険者達で奥の方に行き、戦闘の形跡を発見できたが、遺体が見つからなかった。
恐らくその時にはもうアンデッドになって移動していたんだろう。だからもう見つけようがないということで、捜索の打ち切りが決まったそうだ。
だが、ずっと気になってはいた。そしてここ数年アンデッドの目撃情報が出る様になっており、あの時の討伐隊の者達だろうと。
「でも浄化できないと本当の意味でやつらは救われないだろ?だから迷っていた。アンデッドは火にも弱い。自然破壊になろうとアンデッド達を倒してしまうべきかとな。」
「そんな時に私の存在ですか?」
「ああ。去年はまだ浄化魔法を使えるかどうか、マリンも知らなかったんだろ?」
「はい。機会がありませんでしたから。」
「だが、今年は浄化魔法を使えると分かった。俺は嬉しかったよ。待ち望んでいた浄化魔法の使い手が現れただけじゃなく、それがマリンだったことがな。」
「え?」
「マリンは帝国を気に入ってくれてるだろ?それに優しいしな。冒険者にもなってるから依頼という形ならアンデッドを浄化してくれると思った。」
「ふふっ。陛下。国も冒険者の立場も関係ありません。確かに今回、陛下からの指名依頼だから受けたのもありますが、私にしか出来ないならやりますよ。今回は特に、会ったことがないので見ず知らずの他人ですが、冒険者の先輩達でしたから。それが分かった時、この依頼を受けて良かったと思いました。私の手で先輩達を送り出せましたから。」
「‥‥‥浄化魔法の使い手がマリンで良かったよ。精霊王の加護もあるし、マリン自身が強いからな。必ず戻ってくると信じられた。」
「はい。ちゃんと戻ってきました。私まで戻らなかったら陛下の周りは敵だらけになるところでしたね。」
「ああ~‥‥確かに‥‥危なかった‥‥マリン。本当に帰ってきてくれてありがとな。」
「その筆頭は殿下とシリウス王子達と家族だな。」
「ええ。‥‥良かったですね?父上。」
「あ、ああ‥‥‥色んな意味で良かった‥‥」
「ふふっ。まあ冗談はここまでにして、陛下。遺品はどうしますか?冒険者ギルドに任せますか?」
「やな冗談だな‥‥。う~ん‥‥やっぱり冒険者の遺品だからギルドだろうな。後で渡しに行って来てくれ。ついでに今回の報酬も受け取ってくるといい。」
「分かりました。‥‥あ。ついでにそのまま観光してきてもいいでしょうか?」
「ああ。いいぞ。なんなら昼も食べてくるか?」
「いいんですか!?」
「ああ。‥‥ちなみに1人で行くのか?」
「「「そんな訳ないでしょう!」」」
「‥‥‥レグルス、シリウス、リゲルも行くのか?目立つぞ。」
「陛下。遅いです。前回ギルドにレグルスと行った時、すぐに囲まれました。」
「ああ~‥‥だよな。でも城から出る時点でマリン1人でも目立つんじゃないか?」
「そんなこと言ってたらギルドに行けないじゃないですか。
‥‥最悪の場合は姿消して逃げますよ。」
「え?姿を消せるのか?」
「はい。‥‥‥やってみた方がいいですか?」
「ああ。」
「分かりました。【雲隠】‥‥‥消えました?」
『ああ‥‥。』『ええ‥‥。』
「声は聞こえるんだな。」
「はい。姿を隠すだけです。」
姿を消したままでいる必要はないので解除した。
「これはマリン以外にも使えるのか?」
「そういえば試したことないです。‥‥‥3人共、いい?」
「「「ああ。」」」
「じゃあ手貸して。‥‥‥【雲隠】」
3人共すんなり手を貸してくれたので魔法を掛けてみると。
「あ。成功だ。3人共お互いは見える?」
「「「ああ。」」」
「端から見たらこんな感じなんだな‥‥3人共気配は感じるのに‥‥‥っ!?ちょっ!この感じ、抱きしめてるのシリウスでしょ!?」
「お。分かるのか。」
「そんな実験しなくていいの!‥‥全く。」
速攻で解除しました。
「‥‥シリウス?解除したから見えてるよ?」
「ああ。分かってる。」
「じゃあ離してよ。」
「やだ。」
「レグルスのせいだ!」
「え~‥‥」
「実際、レグルスを見ていていいな~と思ってたからな。でも、もう遠慮しなくていいみたいだし。」
「シリウス~?時と場合によるのよ~?」
「っ!」
「うん。そこで離してくれたから良かったよ。レグルスはもう少し粘るからね。」
「そうなのか?‥‥粘れば良かった‥‥。」
「シリウス~?」
「!‥‥なんでもないです。」
「仲良いな、お前達。‥‥じゃあマリン。3人と一緒に行って来ていいぞ。いざとなったら今ので逃げてこい。」
「陛下。殿下が行くなら護衛の俺も行きます。」
「ああ。みんなの事頼むな。」
「はい。‥‥と言っても一番強いマリンがしっかりしてるので大丈夫でしょうけどね。」
「だな。」
こうして、私を含めた5人でギルドに行くのと、帝都歩きが決まった。