93話 変化
親善パーティーが終わり、各自部屋に戻って寛いでいる頃。
私はお風呂に入った後、涼みに庭園に足を運んでいた。
陛下から帝国にいる間、城内どこでも庭園含めて歩き回っていいと許可が降りているのでお言葉に甘えて歩き回ってます。
そして庭園に着くと、昼過ぎに来た時とは違う雰囲気を醸し出していた。
今日は特に月が明るい日だったので余計にだ。
と、そこに。
〈あ、マリンだ!〉
〈本当だ!〉
〈遊びに来たの?〉
「遊びにじゃないよ。涼みにきたの。」
〈そっか。〉
「みんなは?」
〈なんとなく~。〉
〈そう、なんとなくいた。〉
「そっか。‥‥‥‥ここは安心するね。」
〈安心?〉
〈安心って?〉
「う~ん。なんて言えばいいかな‥‥ほっとするかな。」
〈あ、それなら分かるよ~!ここにいるとほっとする!〉
〈私も!〉
と精霊達と話してると背後から声がした。振り返らなくても声で分かる。
「精霊達と話してるのか?」
「うん。レグルスは?どうしたの?」
「窓からマリンの姿が見えたから来てみた。」
「そっか。」
〈2人で話す?〉
〈私達が気になるなら株分けに行ってるよ?〉
「えっと‥‥みんなの事が見えて、声が聞こえるのは私だけだから特に気にしないよ?」
〈でもその人間、話したそうだから。〉
〈うん。私達離れてるね。〉
「あ、ありがとう。」
〈どういたしまして!またね、マリン!〉
「うん。またね。」
「マリン。精霊達去ってしまったのか?」
このまま背を向けて話す必要はないので振り返った。
「うん。株分けの所に行ってるって。」
「そうか‥‥。マリン。」
「ん?」
「今日はありがとな。」
「ん?なにが?」
「今までまともに話せなかった者達と普通に話せた。今日だけじゃない。マリンのお陰で私は色んな人と話せるようになった。感謝している。」
「そっか‥‥お役に立てたなら光栄ですわ。皇太子殿下。」
「役にか‥‥私はマリンの役に立ててるのか?」
「うん。前に言ったでしょ?シリウスやリゲルと普通に話せるようになったのはレグルスが間にいてくれたからだって。」
「ああ。‥‥そういえば、抱きしめるだけに止めるつもりだったのにあの2人。口付けまで‥‥。油断しすぎだぞ、マリン。」
「確かにそれは私も思ったけど、レグルスがそれ言う?隙を探ってくるくせに。」
「確かにそうだな。‥‥だが、このままは面白くないな。」
「え?‥‥‥わっ!なに?レグルス。」
いきなり抱きしめられた。
「ほら、また油断してる。」
「だってレグルスは私の嫌がることしないもん。」
「‥‥今日のことでその評価はシリウスとリゲルにもなんだよな?」
「う~ん。そうなるのか‥‥。2年前なら疑ってただろうけど、今の2人は変わったからね。確かに私が嫌がることも分かってくれて、しないって思えるかな。」
「はぁ‥‥。やっぱり早まったかな。‥‥でもこうしてマリンは逃げないでいてくれるからな。嬉しいし、これを独占するのは不公平だからな。」
「不公平って‥‥私、物じゃありませんよ?殿下。」
「存じておりますよ。マリン様、あなたは我々にとって大切なお方ですからね。」
「ふふっ。嬉しいですわ。殿下。」
「‥‥いつまでやるんだ?」
「楽しかった?」
「不意に始まるから楽しいな。」
「でしょ?‥‥それで、レグルス。いつ離してくれるの?」
「離してほしいのか?」
「そりゃそろそろ寝ないとだし。姉様が心配し始めるだろうし。」
「あ‥‥そりゃそうだよな‥‥分かった。でもその前に、いいか?」
「え?なに?‥‥‥不意打ちは恥ずかしいって思ってたけど、聞かれる方が恥ずかしくなってくる‥‥。」
「それで、いいのか?」
「駄目って言ったら?」
「駄目でもする。」
「拒否権ないじゃない‥‥。」
「方法はあるだろ?逃げればいい。マリンなら余裕で私から逃げられるだろ?」
「‥‥‥‥意地悪だ。」
「そうさせたのはマリンだからな。‥‥という訳でいいと勝手に判断するな。」
「え?」
またレグルスに口付けられた。数秒後離してくれた。
何回目?‥‥‥段々受け入れてる気がするな‥‥。
「‥‥抵抗しなかったな。驚きもしてなかったし。」
「そりゃ事前に予告してくれたし‥‥‥嫌じゃないし。もう何回もされてるから抵抗を諦めてきた‥‥のかも。」
「おお。抵抗を諦める‥‥か。慣れって素晴らしいな。」
「あの、抱きしめるのは続くの?」
「あ。‥‥名残惜しいが要望に答えてくれたからな。」
と、やっと離してくれた。
「あのね、レグルスに抱きしめられるのを拒否しない理由はね、もう一つあるの。」
「え?」
「なんとなくね、安心するの。姉様やリジアとは違う安心。
‥‥説明が難しいけどそんな感じ。」
「‥‥‥いいこと聞けた。送るよ、マリン。」
「え?‥‥‥う、うん。」
そして私はレグルスに送ってもらって部屋に戻り眠りに落ちた。
翌日。朝食の席にて。
「なあ、マリン。今日何するんだ?」
「えっと‥‥陛下の許可を頂けるなら帝都を歩きたいなと。冒険者ギルドも覗いてみたいですし。」
「まあそれ自体は構わないんだがな。」
「?」
「マリン。Bランク冒険者だったよな?」
「え?はい。そうですよ?」
「ということは「指名依頼」出していいんだよな?」
『え!?』
「父上、まさか‥‥!」
「ああ。そうだ。」
「なんですか?」
「帝都から少し離れた場所に魔物の森があるんだが‥‥。」
「アンデッドでもいましたか?」
「「!」」
「私に指名依頼ならそういう類いでしょう?それに嫌な感じがするのをサーチで確認済みですしね。」
「そうか‥‥気付いてたか‥‥なら話は早いな。頼めるか?マリン。」
「はい。去年は対処法が分かりませんでしたが、今年は出来ますから。」
「去年から気付いてたか‥‥助かる。よろしくなマリン。」
「はい。」
こうして私の冒険者としての初依頼は皇帝からの指名という異例の幕開けになった。