87話 関係性
一方、マリンが逃げた先は姉と一緒に泊まっている同室の部屋で、模擬戦後というのもあり、備え付けのお風呂に入っていた。
そしてお風呂から上がり髪を乾かしていると、扉が開き姉が入ってきた。
「あ!マリンいた!」
『本当か!?』
「おかえりなさい。姉様。」
どうやら一緒に帰ってきた他の人達も近くにいたらしく、私達の部屋を覗き込もうとした。
「あ!‥‥駄目!マリン、お風呂上がりみたいだから入っちゃ駄目!」
『え~。』
「私達はいいでしょ?」
「そうそう。女の子同士だし。」
「‥‥マリン、リリ達ならいい?」
「はい。いいですよ。」
「リリとマリアはいいよ。他は駄目!」
ということで姉様、リリ様、マリア様が部屋に入ってきた。
「リリ様とマリア様もおかえりなさい。」
「うん。ただいま。マリンちゃん。」
「ただいま。マリンちゃん。」
「マリン。お風呂入ってたの?」
「はい。模擬戦後だったのでちょうどいいかと思いまして。」
「‥‥ねぇ、マリンちゃん。それ、魔法で乾かしてるの?」
「はい。微風に火属性を加えて温風にしてます。で、乾いたら火を水に変えて冷風に変えます。」
「器用ね‥‥」
「ははは‥‥去年レグルスにも言われました。」
『え!?』
「え?なんですか?」
「マリンが髪乾かしてるの見てたの?」
「はい。‥‥城の図書室見せてもらったでしょう?あの時、レグルスがここまで迎えに来てくれたんです。その時に外で待ってもらうのは申し訳なかったので、中に入ってもらって今と同じ事してたのを見てたみたいです。」
「‥‥‥マリン。油断しすぎじゃない?」
「え?」
「シリウス達には見せたことないでしょ?」
「はい。‥‥そんな機会もなかったかと。」
「まあ王国は城に泊まらなくても屋敷があるからね。」
「そうね‥‥既にリゲルはレグルス殿下に負けてるわね。」
「へ?」
「マリンちゃん。クリスも聞いたと思うけど、シリウスよりはレグルス殿下の方がいいのよね?」
「そうですね。」
「もうレグルス殿下の婚約者になってもいいとさえ思ってるんじゃないの?」
「う~ん。確かにレグルスなら婚約者になってもいいかなとは思います。でも‥‥」
「「「でも?」」」
「‥‥私には勿体ないなとも思うんです。誰に対しても優しいですし、最初は紳士的でしたし。」
「最初は?」
「はい。最初はです。‥‥今は、さっき見た通り私が恥ずかしくなることばっかり言ったりやったりするので、どう反応したらいいのか分からなくなるので困ってます。それでもやり過ぎないようには気をつけてくれるので余計に反応に困るんです。」
「「「‥‥‥」」」
「あとは、よく周りを見てますね。シリウス達といても平気になって、友人にまでなれたのはレグルスのお陰ですから。」
「マリン。レグルス殿下の事、好きなの?」
「う~ん。すみません、姉様。この好きな気持ちが人としてなのか、恋愛感情なのかは分からないです。」
「「「‥‥‥」」」
「‥‥クリス。マリンちゃんを抱きしめていいかしら?」
「あ!私も!」
「え‥‥?なんでそうなるんですか?」
「駄目よ。私のマリンだもん。私が先よ。」
「え?‥‥ね、姉様?」
宣言通り?姉様が抱きしめてきた。
「マリン。この一回だけにするから。多分顔見たら言えない気がするからこのままちゃんと聞いて。‥‥リリとマリアの結婚の事、黙っててごめんね。昨日マリンが言った通りだった。気付かずにマリンを傷つけちゃったね。最低な姉でごめんね。」
「‥‥姉様‥‥はい。先程も言いましたが、半分だけ許してあげます。それと、姉様は最低じゃありませんよ。こうして話を聞いてくれますし、相談にものってくれます。あと、姉様にこうして抱きしめてもらうと安心するんです。それに私も隠していることがありますから。許したのは半分だけだと覚えてくれてたら、それでいいですよ。」
「うん。‥‥‥ありがとう、マリン。」
「あの、マリンちゃん。」
「リリ様達は先程話したのが最後です。もう謝罪は聞きません!」
「「うっ‥‥」」
「姉様と同じです。許したのは半分だけだと覚えてくれていたらそれでいいです。」
「「うん。」」
「‥‥あの、それよりお昼。食べに行きません?待たせてる気がするんですが‥‥。」
「「「あ!」」」
「行きましょう?」
「「「うん。」」」
「あ。マリン。さっきのレグルス殿下の話、あとでもっと聞くから。」
「え!?」
あのままうやむやになって欲しかったんだけどな‥‥。
そして4人で食堂に着くと。
「お、マリン。ちゃんと帰ってきたな。」
「はい。いなくなる理由はなくなりましたから。」
「そうだな。‥‥それで、親善パーティーまでみんなどうする?」
「俺達は昨日寝不足になったので仮眠を取ります。」
「え?‥‥姉様達も?」
「まあ‥‥寝不足ね‥‥。」
「じゃあ仮眠取るべきですよ!私と話すなんていつでもできるじゃないですか。」
「‥‥‥そうね。もうマリンは逃げないんだったわね。じゃあ私達も仮眠取ります。」
「王国側みんなか。‥‥マリンは?」
「私はちゃんと寝たので大丈夫ですよ。でも体動かす気分でもないので城内を散歩してもよろしいでしょうか?」
「ああ。いいぞ。‥‥あ。なら庭園見てきたらどうだ?」
「え?庭園ですか?」
「ああ。興味あるか?」
「はい。学園の庭園も見事でしたが、城の庭園は王国でも見たことがないので見てみたいです。」
「そうか。じゃあ見てくるといい。ここの庭園見事だぞ。」
「じゃあお言葉に甘えて見てきます。」
「なあ‥‥マリン。今学園の庭園って言ったか?」
「え?はい。学園の庭園って言いましたが、それがどうかしましたか?」
「マリン、庭園の主に会った?」
「主?かどうかは分かりませんが、優しそうなおじいさんなら会いましたよ?」
「何か言われた?」
「えっと‥‥今から水やりしようと思ってたからちょうど良かったとは言われましたね。」
「すごいわ‥‥。」
「ええ。」
「?」
「マリン。そのおじいさんはね、多分既に亡くなってる庭師の方よ。」
「え!?」
「学園の庭園には噂があってね。庭園の主であるそのおじいさんが認めた生徒しか庭園に入れないらしいの。」
何それこわっ!
でもあのおじいさん、優しそうな人だったけどな‥‥。
「そうなんですか‥‥?」
「うん。マリンには優しそうに見えて庭園に入れたなら気に入られたんだと思うわ。」
「庭園に入れないだけで、実害はないんですよね?」
「ええ。でも主にはもう一つ噂があってね。主は自分を成仏させてくれる人を待ってるってね。」
「えっと‥‥私、試してあげた方がいいんでしょうか?」
「う~ん。気が向いたら直接聞いてみたら?」
「そうですね。」
「マリン。成仏させられるのか?」
「成仏が浄化でできるなら。‥‥あ。その浄化魔法ですが、ここの図書室で読んだ魔法書に載ってたやつなんです。お陰で助かりました。」
「え?浄化魔法を使う機会があったのか?」
「例の私を天使と呼びだすきっかけになった時にですよ。」
「ああ!あれか。」
「敵が闇属性を使ってなければ浄化魔法を使わずに済んだのに‥‥恥ずかしい天使なんて呼ばれ方されないで済んだのに‥‥。」
「確か、浄化魔法で後光が差してる様に見えて、見下ろした笑顔が慈悲深かった‥‥だったか?」
「そうです‥‥。あぁ‥‥。翌日の学園はそれはもう恥ずかしいことこの上なかったですよ!ベネトさんは面白がって弄ってきますし!」
「そ、そうか‥‥。俺はぴったりだと思ったがな。」
『ですよね!?』
おぅ‥‥姉様、兄様、リリ様、マリア様、レグルスが見事なハモりをしてくれました。
‥‥‥‥身を乗り出してまで言われるとめっちゃはずいんですが‥‥。
「‥‥‥やめて下さい‥‥」
『あ。』
「悪い。マリン。」
「いえ、もう遅いです。‥‥すごい恥ずかしいです。もう耐えられないので、城内を歩いてきます。」
「あ、待ってくれ。私も行くよ。」
「え?でもレグルス、用事は?」
「ないよ。だから案内するよ。」
「あ、ありがとう。‥‥では陛下。失礼します。」
私は一人で行くつもりだったけど、確かに案内してもらった方がいいか。
そして私はレグルスと2人で庭園に向かった。