83話 それぞれの相談
マリンが消えた後。
「マリン、泣いてたぞ。どうするんだ?」
『‥‥‥』
「今話を聞いただけの俺でもマリンが言った通りだと思うぞ。‥‥‥最低だな、お前達。マリンの何を見てきたんだ?マリンは聡いやつだし、優しい。けどまだたったの12歳だ。お前達12歳の女の子に何してるんだよ?何甘えてんだよ?」
「‥‥‥ええ。そうですね‥‥。マリンに言われるまで私達が如何にマリンにひどいことをしていたか気づかないんですから、嫌われて当然ですね。」
「クリス。それ本気で言ってんのか?」
「え?」
「マリンが本気でお前達全員嫌うと思ってんのか?」
「‥‥‥‥いいえ。でも嫌われるのは時間の問題です。」
「はぁ‥‥。とりあえず明日帰ってくるって言ってたな。本当は心配だが、マリンは実力があるからな。何があっても自分の身は自分で守れるだろ。でも俺との模擬戦が終わったらまたいなくなるだろうな。今のままだと。」
『!!』
「どうするんだ?またマリンの優しさに甘えるのか?っていうか本当になんでマリンが最後なんだよ?何がそんなに言うのが怖かったんだよ?リリアーナ達は。」
「‥‥マリンちゃんに嫌われないかな‥‥と。」
「は?マリンがリリアーナ達を嫌う要素があるのか?」
「今思えばありませんでした。領地の屋敷で話した時にマリンちゃんに言われて気付きました。」
「なんでその後、フレイ達が継ぐ話とかしなかったんだ?」
「ずっとマリンちゃん、怒ってるみたいだったので‥‥。」
「それならそれでクリス達の誰かが言えばいいじゃないか。
‥‥‥ん?そういえばさっき「あ。」って言ってたな。まさか忘れてたとか言うんじゃないよな?」
『‥‥‥‥』
「はあ!?何考えてんだよ!?‥‥‥あのマリンが泣く訳だな‥‥。改めて言うぞ。お前ら最低だ。このままだとマリンは二度と戻ってこないぞ。‥‥‥明日までによく考えとくんだな。‥‥じゃあな。」
そして皇帝の後に続くように皇族が食堂を出ていった。
「姉上。マリンはここに来るまでの馬車の中でずっと考え込んでいました。恐らくさっき言っていたことだと思います。」
「それに本当は素直に喜びたかったと馬車の中で既に言ってました。だから姉上達を無視したのはその仕返しだと。それに屋敷を出た時に既に罪悪感を感じてましたよ。マリンがそう言ってたので事実です。」
「そんな‥‥。なんで言ってくれなかったの?」
「マリンに口止めされました。‥‥マリンも当初はここに着くまでに気持ちの折り合いをつけるつもりだったんじゃないかと。でも色々思い出したとか言ってましたから予定が変わったんじゃないかと。」
「リリ達に仕返しの話は私も聞いたわ。‥‥‥折角一晩で怒りを抑えてくれたのに‥‥私が一番最低ね。」
「後悔は尽きないが、マリンを俺達全員で泣かせたのは事実だ。」
『はい。』
「みんなもこのままマリンに一生会えなくなるとか嫌だよな?」
『当然です!』
「じゃあ後悔はここまでだ。」
『はい!』
そして家族と王族が話し合いを開始した。
◇◇◇◇◇
その頃、マリンは雪のところにいた。
「はぁ‥‥雪。ごめんね。毎回避難所みたいに突然来て。」
〔いえ。私はいついらして下さっても嬉しいですから。〕
「ありがとう。」
〔何かありましたか?〕
「顔に出て‥‥ああ。泣いたから目が赤いかな?」
〔ええ。目が赤いですし、辛そうな顔をされていたので。私で良ければお話しを伺いますよ?〕
「ありがと。じゃあ時間はあるから聞いてもらおうかな。実はね‥‥」
私は雪に一部始終を話した。
〔そうですか‥‥。〕
「まあ私が全部とは言わないけど、意地張ってるだけではあるよね。」
〔いえ。マリン様は言って当然だと思います。〕
「そう?」
〔はい。〕
「‥‥‥言いたいこと言って、ここに来て雪に聞いてもらって、ちょっと気持ちが落ち着いた。話を聞いてもらうだけで違うね。‥‥でもまだ家族の顔はまともに見れないかな‥‥朝までここにいていい?」
〔朝までと言わず、ずっといて頂いても構いませんよ。〕
「良かった。ここが一番落ち着くから‥‥」
〔それは嬉しいですね。〕
「‥‥‥ねぇ雪。このままさっきの話してたら気持ちが沈みそうだから話変えていい?」
〔はい。〕
「いつか雪達が守る封印が解けた時、私は神の御使いだからその封印されてたのと戦うことになるんだよね?」
〔‥‥‥はい。〕
「それは私じゃないと倒せない?」
〔‥‥‥はい。〕
「そっか。‥‥今のままだと負けるからいつか修行もしないと‥‥なんだよね?」
〔恐らくそうですね。〕
「じゃあ王国から出る訳にはいかないな‥‥世界を見るにしても拠点は王国じゃないとだな‥‥どうしようかなぁ‥‥」
〔マリン様‥‥‥ご家族を許すつもりですか?〕
「‥‥半々だね。半分は絶対に許せない気持ちはあるよ。」
〔半分でも許すのですね。‥‥‥優しすぎます。〕
「辛くなったらまた雪に癒されにくるだけだよ。‥‥それに半分でも許さないと戻れないんだよ。‥‥どうしても嫌いになりきれないみたいなんだ、私。‥‥それに今回のことはいざという時の布石にできるからね。」
〔先ほど質問されたことですね?〕
「うん。‥‥どんなに嫌なことされてもこの国に愛着が湧いちゃったから‥‥頑張ろうかなって思ってる。神様達は詳しくはまだ教えてくれないけど、いつか聞かせてくれるらしいしね。」
〔そうですか‥‥私もできる限りのことはさせて下さい。〕
「うん。ありがとう、雪。‥‥じゃあとりあえず、もう寝ようかな。」
〔では私を枕にして下さい。いくら夏でもそのままでは風邪を引いてしまうかもしれません。私の側なら温かいでしょうから。〕
と言って雪は寝そべって私が雪のお腹辺りで寝られるようにしてくれた。
「うん。‥‥‥‥温かくて気持ちいいね。雪。疲れたら起こしていいからね。」
〔マリン様は軽いですから疲れませんよ。〕
「そっか。じゃあおやすみ。雪。」
〔おやすみなさい。マリン様。〕
そしてマリンの寝息が聞こえてくると。
マリン様‥‥‥寝てしまったみたいね。今日帝国に着いたって言ってたから、疲れてるだろうに‥‥。
はぁ‥‥全く。マリン様の家族はなんてことしてくれたのかしら‥‥私達の主に。‥‥‥‥こんな優しさの塊みたいな方を傷つけるなんて、マリン様が半分だけ許しても私は一欠片も許さないわ。いつかマリン様が自由にして下さったら報復してやろうかしら。
‥‥‥‥‥‥マリン様に止められそうね。
はぁ‥‥この怒り。マリン様を見てるだけで少し癒えるなんてね‥‥‥今は優しい主のこの安らかな眠りを守ることに専念しましょうか。
家族と王族が重苦しい雰囲気で相談している頃、マリンは雪との相談を終えて眠りに落ちていた。