82話 拒絶
モヤモヤした気持ちのまま帝都の城に着き、謁見の間。
「お久しぶりです。陛下。」
「ああ。マリン、久しぶりだな。また模擬戦するか?」
「早速ですか‥‥。明日にしましょうか。」
「ああ。そうだな。‥‥‥と、本当に来たんだな。シリウスとリゲル。」
「はい。お久しぶりです。陛下。以前は名のらず失礼しました。改めて、セレスティン王国第一王子のシリウス・ユラ・セレスティンと申します。」
「私も以前は名のらず失礼しました。セレスティン王国のリコリス公爵家嫡男リゲル・フォン・リコリスと申します。」
「ど、どうした!?2人に何が‥‥‥ってマリンか。」
「えっと‥‥陛下。人は変われるってことです。」
「そうみたいだな。‥‥うん。2人共、今の方がいいな。前みたいに戻るなよ。」
「「はい。」」
「大丈夫ですよ。陛下。以前の私達に戻るとマリンに嫌われるので。」
「ほう。‥‥‥なるほどな。去年聞いたことから関係が変わったらしいな。」
「はい。2人共友人ですよ。陛下。」
「そうか。ならマリンから見た二人は明日の親善パーティーに出しても問題なさそうか?」
「え?私の判断で決めるんですか?」
「ああ。家族以外の一番近くで2人を見てるのはマリンだろ?」
「確かにそうですけど‥‥それでも学園にいる間だけですよ?」
「ああ。それだけでいい。どうだ?」
「う~ん‥‥‥‥大丈夫だと思いますよ?」
「「!!」」
「なんで本人達が驚いてんだよ‥‥まあマリンがいいってんなら大丈夫か。」
「あの、陛下。シリウス達は3年前に来た時、親善パーティー出てないんですか?」
「ああ。さっきので分かったと思うがこの2人、皇帝の俺にさえ自己紹介すらしなかったんだ。それは帝国だけじゃないが招待客や貴族達に対して失礼だ。王国の汚点になりうることはできないだろ?だから出さなかったんだよ。」
「うわ~‥‥シリウスとリゲルってある意味肝が座ってるよね‥‥それに自己紹介すらしないってその頃もだったんだね。」
「うっ‥‥」
「そう‥‥だな。」
「さて、長旅で着いたばかりだからな。みんな今日はゆっくり休んでくれ。」
『はい。』
そして私は去年と同じく姉様と同じ部屋です。
旅装から着替えた後、一緒に一息ついて夕食へ向かった。
「そういえばマリン。リリアーナ達となんかあったのか?」
「え?なんでですか?」
「いや、俺の見た限りマリンとリリアーナ達一言も喋ってないだろ?それにリリアーナとマリアがずっと元気無いように見えるからな。」
「それはリリ様とマリア様が私に悲しみと怒りを植え付けたからです。」
「は!?‥‥どういうことだ?ラルク。」
「それはですね‥‥」
と、一通り父様が説明すると。
「そういうことか‥‥リリアーナ、マリア。それはマリンが可哀想だぞ。」
「「はい‥‥。」」
「ん?そういえばヒスイとリリアーナはいいが、フレイとマリアは大丈夫なのか?フレイは爵位持ってないだろ?」
あ。陛下もやっぱり同じ事考えるんだな。
結局誰も教えてくれなかったし、ちょうどいいか。
「はい。なので王女であるリリアーナ様が降嫁するということで、大公家を作ることになりました。それで、フレイ達が辺境伯を継ぎます。」
え!?そっか‥‥そうすれば問題ないのか‥‥ある意味裏技的な感じだな‥‥。
「なるほどな。‥‥‥でもそんな話になってるならマリンに言う機会はあったんじゃないか?」
「ええ‥‥まあ‥‥リリアーナ様達が学園を卒業する前ぐらいに話は上がっておりまして、話し合いの為に私とヒスイ、フレイも王都に来ることがありましたね。」
「その時でもいいじゃないか。ラルク、教えてやらなかったのか?」
「私達が口止めしてたんです。どうしても私達の口から言いたいからと。」
なに‥‥それ。
ちょうど食べ終わってるし、もう‥‥いいや‥‥
「そうですか‥‥分かりました。‥‥‥陛下。」
「ん?なんだ?」
「ちょっと出掛けて来ます。明日の陛下との模擬戦には戻ります。」
「は?どこ行くんだ?」
「ここにいる誰も行ったことがないはずの場所です。」
『え?』
「今、家族と王国の王族の顔見たくないので。」
「マリン。どういうことだ?」
「どうもこうも今の会話で分かるでしょう?‥‥‥この結婚話に私だけ蚊帳の外だったと。」
『!!』
「リリ様。今なんて言いました?私達が口止めしたから?それに父様も‥‥いえ、家族全員と王族がリリ様達の意思だけ尊重したってことですよね?私がどう思うか考えずに。」
『っ!』
「家族の筈の私の気持ちよりこれから家族になるリリ様達の意思を優先したんですよね?‥‥‥自分達の口で言いたいですか‥‥決意としてはいいですね。私の事全く考えてませんけど。‥‥はぁ‥‥まさかこんな裏切りが待ってるとは思いませんでした‥‥」
「マリンちゃん!あのっ!」
「何も聞きたくありません。父様も姉様も兄様達も‥‥ああ母様達もですよね。大公家を作るとか私が理解出来ないとでも思いましたか?なんで皇帝陛下と一緒に知る事になるんですか?」
『あ。』
「あ。ってなんですか?あ。って。家族の中で私は何歳で止まってるんですか?私は12歳ですよ?あと3年で成人です。爵位のことも理解できます。なのに家族全員、陛下か私が聞かないとこのまま教えてくれなかったんですか?」
「そんなことない!」
「では姉様。何故教えてくれなかったんですか?街に泊まってる時とか話せる機会はありましたよね?」
「そ、それは‥‥」
「いいですよ。どうせ私は後で話しても許してくれるとでも思ってたんでしょう?‥‥結婚の話からそうです。ヒスイ兄様達が王都に来たことを私が知らないということは城に泊めてもらいましたか?‥‥決定じゃなくてもその時に兄様と一緒に知らせてくれたら良かったじゃないですか。‥‥そうだ、リリ様達はうちに来たことあるんだから来て話すとか、話があるからって私を呼んでも良かったじゃないですか。考えればいくらでも言う機会はありましたし、作れた筈です。父様達も私に黙ってて心苦しいとかなかったんですか?」
『‥‥‥』
「はぁ‥‥みんなしてだんまりですか。私はリリ様達以外から聞いても喜んだのに‥‥。本当は素直に喜びたかったのに‥‥誰も教えてくれませんでしたね。私は家族もリリ様もマリア様も大好きでしたが、皆さんはそうじゃなかったんですね。」
「それは違うわ!」
「違いませんよ。‥‥違うって言うなら何故誰もこんな結婚間近になるまで教えてくれなかったんですか?私がどうでも良かったから後回しになったんでしょう?」
「どうでもいい訳ないじゃない!」
「リリ様。私は何も聞きたくないと申し上げましたよね?
‥‥今は特にリリ様達と話したくありません。」
そう言って私は席を立ち、外に出ようと歩き出した。
「待って!」
「追いかけてこないで下さい。話したくないって言いましたよね?‥‥‥あ。そっか。‥‥陛下。」
「そういえば陛下にも見せるって話してたな」と思い出した私は扉前で立ち止まり、陛下の方に振り返った。
「なんだ?」
「明日お伝えしようと思っていましたが、今一つお見せします。」
『まさか!』
「陛下。私がストレージを使える時点で空間魔法を使えるのはご存知ですよね?」
「ああ。」
「実はもう一つ空間魔法が使えるんです。‥‥ゲートといって、私が行ったことがあるところに一瞬で移動できる魔法です。例えばここからうちの屋敷に一瞬で帰ったりできます。
‥‥それを今、お見せします。」
「待って!マリン!」
「【シールド】‥‥来ないで下さい。例え姉様でも話したくありません。‥‥‥父様も姉様も兄様も‥‥リリ様もマリア様も‥‥‥大好きだったのに‥‥‥今は大嫌いです。【ゲート】‥‥‥失礼します。」
そして私は泣きながらみんなの前から姿を消した。