79話 優しい人
レグルスの腕の中でしばらく泣いた後。
ようやく落ち着いた私はレグルスから離れようとしたのだが、何故かそのままぎゅっと抱きしめられた。
「えっと‥‥‥レグルス?」
「ん?なんだ?」
「いや、なんだじゃなくて。もう落ち着いたから離してくれないかな~って思うんだけど。」
「え?やだ。」
「やだって‥‥なんでよ?」
「折角誰にも邪魔されない2人だけだし、マリンの方から抱きついてきてくれたんだぞ?嬉しさを噛みしめたいじゃないか。」
「うっ。‥‥まあ嫌じゃないからいいか。‥‥‥‥‥ありがとうレグルス。」
「どういたしまして。‥‥誰が泣かせたか聞いていいか?」
「うん。‥‥‥リリ様とマリア様。」
「あのお2人が?‥‥‥‥‥あ、もしかしてお2人とヒスイ様達の結婚話か?」
「レグルスまで知ってるなんて‥‥‥‥リリ様達やっぱりしばらく話すのやめよ。」
「え?‥‥‥まさか今さっき聞いたのか?」
「そうだよ!私が最後だよ!‥‥‥なんなのよもう‥‥。私に言い辛かった理由なんだと思う!?」
「え?まず言い辛いって言われたのか‥‥?理由?は分からない。」
「シリウスとリゲルだよ。リリ様達は卒業してるから最近の私達のこと知らないでしょ?だからまだ私が2人のことを嫌ってると思ってて、自分達の結婚も嫌がるんじゃないかって思ったんだって。」
「は?シリウス達は結婚に関係ないじゃないか。」
「だよね!?レグルスもそう思うよね!?‥‥‥本当、悲しかったよ。リリ様達に私はどう映ってたんだろうって、すぐに話してもらえないほど信用されてなかったんだなって。
‥‥‥‥私だって喜びたいのにこれじゃ素直に喜べなくなっちゃったじゃない‥‥。」
「やっぱり嬉しいんだな。」
「そりゃそうだよ!私、リリ様もマリア様も大好きだもん。義理だけど2人がお姉ちゃんになるなんて嬉しいに決まってるじゃん!」
「だよな。」
「だけど、今回のことは腹立つからしばらく話さない。リリ様達にも宣言したし。」
「そ、そうか。」
「それでレグルス。」
「ん?」
「いつまでこのままなの?」
「う~ん。‥‥ずっと?」
「何言ってるのよ。さすがに私達いなくなったの気づかれてるでしょ。帰らないと。」
「だよなぁ~。離したくないんだけどな~。」
「いやいや。とりあえず顔洗いたいから離して。」
「む。‥‥‥はぁ。しょうがないか。」
そう言ってレグルスが渋々ながらもようやく私を離してくれたので魔法で水を出して顔を洗い、ストレージから清潔な布を出して拭くと、それを見ていた様で、レグルスから「相変わらず器用だな。」と言われた。
「ねぇ。レグルス。私、まだ目赤いよね?」
「うん。赤いな。」
「う~ん。どうしようかな‥‥‥。心配掛けるよね?」
「だろうな。」
「う~ん。‥‥あ。そういえばレグルス、ごめんね。服濡らして。」
「ん?いいよ。別に。その内乾くだろ。それにマリンの泣き顔見れたし、抱きしめられたし役得だったからな。」
「なっ!‥‥‥なんでそんなことサラッと言うのよ‥‥。」
「ん?だって事実だからな。好きな子が泣き顔なんて一番見せたくないはずなのに見せてくれて、しかも自分に抱きついてくれたんだぞ?嬉しいに決まってるだろ。」
「むぅ‥‥‥。」
「ということで顔洗ったし、もう一回抱きしめたいって思うんだが、どうだろう?」
「ふぇっ!?‥‥だ、抱きしめたいの?」
「うん。」
「むぅ‥‥レグルスに迷惑掛けちゃったし‥‥お詫びになるか分からないけど‥‥ど、どうぞ。」
「やった!」
と言ってまたレグルスに今度はふわっと抱きしめられた。
「あ。でも迷惑じゃないぞ。むしろ嬉しいって言っただろ?」
「え?でも服濡らしちゃったし‥‥って‥‥んっ!?」
レグルスの片手が動いたと思ったら私の顎に手を添えてちょっと上に顔を上げられ、戸惑ってる間に口付けられること数秒。
え、え!?
そして離れたレグルスはそれはもう嬉しそうだった。
「な、何してるのよ!?」
「え?折角2人きりだし、2回も3回も変わらないだろ?」
「そういう問題!?」
「それとも嫌だったか?」
「嫌じゃ‥‥ない。嫌だったら突き飛ばしてるよ。」
「だよな?じゃあ、問題ないな。」
「私には問題あるよ。レグルスのこと好きかどうかハッキリしてないのに‥‥反応に困る。」
「私から見ると抱きしめても口付けても嫌じゃないなら好かれてると思ったけどな。」
「そう‥‥なのかな?」
「まあゆっくり見定めてくれ。どうせすぐに結婚なんてできないからな。成人してないし。私としては早く彼女に、婚約者にしたいけどな。‥‥でもちゃんと待つよ。ちゃんとマリンに好きになってもらいたいから頑張らせてはもらうけどな。」
「レグルス‥‥。楽しそうだね?」
「楽しいぞ?なんせマリンを独占してるからな。」
「むぅ。‥‥‥‥ありがとうレグルス。」
「ん?さっき聞いたぞ?」
「そうじゃなくて。‥‥‥泣いたらね色々スッキリした。憑き物が落ちたみたいにね。」
「そうか。」
「うん。さっき屋敷で会ったのがレグルスで良かったよ。シリウスや家族じゃ思いっきり泣けなかった気がするから。」
「お役に立てた様でなによりです。」
「はい。ありがとうございました。皇太子殿下。」
「「ふふっ」」
「えっと、レグルス。さすがにそろそろ帰るけど、このままの顔をみんなに見せたくないから今日は自分の部屋に引きこもるね。夕食も部屋で食べる。」
「分かった。伝えるよ。」
「うん。よろしくね。」
「ああ。名残惜しいが帰るか。」
「うん。」
そしてゲートを私の部屋に直接繋いで帰った。
「あ。私の部屋から出たら気まずいか。玄関に繋ぎ直すね。」
「私は気まずくないぞ?」
「私が明日気まずいの!」
「分かった分かった。」
「もう!」
レグルスはちゃんと玄関に繋いだゲートを通ってくれた。
そしてその日の夕食はシャーリーが持って来てくれたのでレグルスが上手く伝えてくれたんだと思う。
レグルスって本当に同じ12歳か?って疑いたくなるくらい出来た人だよ。全く。
私には勿体ないと思うよ‥‥。本当に。