58話 帰国
レグルスと2人で話し、お昼を食べた後再び軍の訓練に戻った私達。
最終的に訓練に参加するというより兵士を鍛えるのに利用された気がしたのは気のせいじゃないと私は思う。
そして夕食の時に朝までは挙動不審だったレグルスが元通りになっていたのを見て、私達のそれぞれの家族みんなが質問攻めをしてきたが、私が一言「恥ずかしいから絶対に言わない。どうしても聞きたいなら私を倒したら教えてあげる。」的なことを言ったら諦めてくれた。
それから2日は軍の訓練に参加したり、リリ様、マリア様、レグルスを含めて兄弟全員で合同魔法訓練をしたりして過ごした。
そして翌朝。帝都に着いて一週間。
今日から王国へ戻るべく出発する。
私としてはお米と醤油と味噌を黒竜の素材買い取りの料金代わりに貰えたので大いに満足だ。
城の前に集合した私達はあと馬車に乗って帰るだけだ。
「それでは陛下、皆様。一週間、お世話になりました。」
「ああ。こちらこそ楽しかったぞ。いつでも来ていいからな。特にマリンは大歓迎だ。」
「はい!‥‥‥じゃあレグルス。またね。来年また会おうね。」
「ああ。また「来年」会おう。」
ん?今来年だけ強調した‥‥?
「あ。リリアーナ、この手紙を国王陛下に渡してくれるか?」
「あ。私も、この手紙をシリウス王子に渡して頂きたいです。」
「?‥‥‥分かりました。」
「それでは我々はこれで失礼します。陛下。」
「ああ。マリンだけじゃなく、みんなもまた来てくれ。」
『はい。』
そして私達はまた数日を掛けて王国の辺境伯家に帰ってきた。
「ただいま戻りました!」
「「みんなおかえりなさい!」」
「ディアナ母様!‥‥‥私、帝国に友人ができました!」
「わっ‥‥と。友人?」
久しぶりの母様に抱き付きました。私。
「はい!」
「ディアナ母様。マリンの言ってる友人はまさかの皇太子殿下のことですよ。」
「皇太子殿下!?え、クリス本当なの?」
「はい。」
「え、え?皇太子殿下と友達って‥‥。」
「本当ですよ。母様。模擬戦もしましたし。」
「模擬戦?陛下とじゃなくて皇太子殿下と?」
「お2人共しました。しかも連戦で。」
「2人共!?‥‥とりあえず、ゆっくり話を聞かせてね。」
「はい!」
そして私達はお留守番だった母様2人に帝国でのことを話した。
皇帝と意気投合したことや模擬戦で勝ったこと、黒竜を倒したことには予想通り凄い驚かれたが。
そして残りの夏休みもリリ様とマリア様は一緒にいて、学園の為、王都に行く私とアクア兄様、姉様と一緒に帰ることになった。
残りの夏休みの間、やっぱり魔法の練習をしているとある日にふと私は思ったことを口にしてみた。
「そういえばゲート使ったら帝国にいつでも行けますね。陛下に言っとけば良かったですかね?」
『駄目!』
と、全員に反対された。
何で‥‥。
「ゲートを見せたらしょっちゅう呼ばれるわよ?マリンも行くでしょ?そんなに気軽に行っていい所じゃないのよ?お城は。」
「あ。そっか。そういえばそうですね‥‥。」
「思えばマリンちゃんはわざわざ馬車に乗らなくても帝国だろうが、王都だろうが、一瞬で行き来できるのよね‥‥。そんなこと、帝国に知れたら更にマリンちゃんは陛下に狙われるわね。」
「え!?‥‥‥でも確かに私はストレージを見せてるのでゲートまで見せたら物流革命が起きますね。」
「えっと、そこじゃないんだけど‥‥それもあるわね。」
「?」
という会話もありながらあっという間に私達の夏休みは終わった。
そして何事もなく王都に着いてリリ様達とも別れ、翌日からまた学園が始まる。
「明日からまた学園ですね、姉様。夏休み、あっという間でしたね。」
「そうね‥‥。私はどんどん卒業が近付くけどね。」
「あ。そうですね。私は初めての夏休みだったので、あっという間だったな~ぐらいです。明日からまたリジア達に会えますし。」
「そうね。私も最初はそうだったんだけどね‥‥。卒業後を考えないとだから憂鬱だわ。」
「姉様。頑張って下さいとしか言えないですが‥‥。」
「うん。それでいいわ。」
そして、翌日。
学園のSクラスの教室に着くと、既にリジアは来ていた。
「リジア、おはよう!」
「あ。マリン。おはよう!」
「久しぶりだね!」
「うん。‥‥マリン。何かいいことあったの?」
「え?何で?」
「何か夏休みに入る前よりスッキリしてるっていうか‥‥明るくなったかなって。」
「?‥‥‥そう?」
「うん。」
「う~ん。多分帝国が楽しかったからかな。」
「ん?帝国?」
「うん。なんかうちさ、毎年帝国の皇帝に招待されてたらしくてね。夏休みに私とリリ様とマリア様が主に招待されてたから家族と一緒に帝国に行って来たんだよ。」
「何気にとんでもないことをサラッと言うわね‥‥。」
「ん?そう?面白い人だったよ?皇帝陛下。」
「そうよ‥‥。普通他国の人間が皇帝に会うなんてなかなかできないわよ‥‥。」
「そういえばそうだね~。」
「軽く言うわね‥‥。」
と話していると‥‥
バンっ!
「マリン!どういうことだ!」
と言いながら教室の扉を開けてシリウス王子が入ってきた。
「「マリン」?シリウス王子。‥‥長いな。‥‥殿下。また呼び捨てですか?あと、いきなりどういうことだと言われても分かりません。」
「あ。すまん。マリン嬢。」
「はい。そのままで。‥‥それで、どういうことだとは何のことですか?」
「夏休み、帝国に行っただろう?」
「はい。行きましたね。」
「皇太子殿下がマリン嬢と友人になったと手紙に書いてあったのだが。本当か?」
「はい。本当ですよ。」
「な‥‥ん‥‥だと‥‥?」
「友人ぐらいできても不思議はないかと思いますが?」
「いや。普通の友達ならそうだが、皇太子殿下だぞ!?」
「だからなんですか?私は皇帝陛下に招待されて帝国に行ったんですよ?当然皇太子殿下にもお会いします。同い年ですし、友人になってもおかしくないでしょう?」
「ぐっ。そう‥‥だな。」
「それで、殿下はなにしにいらしたんですか?私と皇太子殿下が友人かの確認ですか?」
「あ、ああ。」
「では、もう友人だと分かりましたよね?早く戻らないと、予鈴鳴りますよ?」
「は!‥‥みんな騒がしくしてすまなかった。失礼する。」
と言って王子という名の嵐は去っていった。
「はぁ‥‥朝から無駄に元気ね‥‥。」
「そ、そうね。‥‥‥ねぇ、マリン。皇太子殿下と友達になったの?」
「ん?うん。いい人だよ。殿下と大違い。むしろ真逆。」
「そう‥‥。マリン。あなた王族によく好かれるわよね。」
「?‥‥そう?」
「うん。」
「まあとりあえず、リジア。また一緒に頑張ろうね。」
「ふふっ。うん。」
一方その頃、王城では。
城の一室で国王はリリアーナから渡された皇帝からの手紙を読んでいた。
本当はリリアーナが帰ってきたその日に渡されていたが後回しにしていたのだ。理由は嫌な予感がしたから。
そして、手紙を読んだ国王は手紙を机の上に置き、ため息を溢していた。
「はぁ‥‥‥リリアーナから話を聞いた時はなんの冗談かと思ったが‥‥。まさかマリンがあの皇帝と意気投合しようとはな‥‥。しかも皇太子と友人になるとは‥‥。帝国もマリンを狙うのか‥‥。」
と、一人呟いていた。