57話 2人の時間
私が目覚めたのは翌朝だった。
「んっ‥‥‥あれ‥‥‥?」
「あ。マリン。起きた?」
「‥‥‥姉様?‥‥‥あれ?もしかして朝‥‥?」
「もしかしなくても朝よ。」
「ふぇ!?」
え?えっと‥‥私確かレグルスと図書室行って‥‥あれ?
記憶が‥‥読んでる途中で眠くなってきてたから、そのまま寝た‥‥?
「あの‥‥姉様。私、もしかして本を読んでる途中で寝てしまったんでしょうか?」
「正解よ。殿下がここまで運んでくれたのよ。」
「うわ~。レグルスに申し訳ないことを‥‥。」
「そういえば殿下、マリンを寝かせた後、食堂に来たけど様子が変だったのよね‥‥。」
「変?」
「うん。マリンの様子を話したらその後一切喋らず黙々と夕食食べてすぐに部屋に戻っていったのよ。」
「話し掛けても反応なかったんですか?」
「うん。なかったわね‥‥。私ね昨日、夕食を食べに食堂に向かおうとしたらちょうどマリンを抱えた殿下に会ってね、ベッドを指示してそのままマリンを任せたのよ。その時は普通だったから、その後この部屋にいる時に何かあったんじゃないかなって。」
「う~ん。だったら恐らく2人きりの時に何かあったんでしょうね。私は寝てたので分かりませんが。」
「そうよね‥‥‥。シリウス王子じゃないんだから殿下ならマリンの寝込みを襲ったりしないだろうしね‥‥。」
「逆ですかね?」
「逆?」
「はい。私が寝てる時に何かしたとか‥‥?」
「う~ん。本人に聞いてみる?私達がいくら話し掛けても反応がなかったけど、マリンなら答えてくれるかもよ?マリンの予想が当たってたら当事者だし。」
「そうですね‥‥。」
「とりあえず朝食を頂きに行きましょ。」
「はい。そうですね。」
いつも通り話ながら着替えたのですぐに食堂に向かう。
「皆様おはようございます。」
『おはよう。』
「あの、陛下。昨日私、陛下をびしょ濡れのままにしてしまいましたが大丈夫でしたか?」
「おう!大丈夫だぞ。風邪も引いてないしな。」
「良かったです‥‥。本当は昨日の夕食の時に確認しようと思ってたのですが、寝てしまったので‥‥。申し訳ありませんでした。」
「気にすんな。大丈夫だし、俺の頭を冷やす為にしてくれたことだ。文句なんてないさ。」
「そう言って頂けて良かったです‥‥。あと、レグルス。」
「へ!?‥‥な、なんだ?」
「‥‥‥何でそんな挙動不審なの?」
「え!?そ、そうか?」
「うん。なんか変。‥‥‥とりあえず、昨日は部屋まで運んでくれてありがとう。」
「い、いや。ど、どういたしまして!」
「やっぱり変だよ?レグルス、何かあったの?」
「へ?‥‥‥‥やっぱり覚えてないのか?」
「え?覚えてないって、何を?」
「いや。‥‥‥‥‥覚えてないなら‥‥いい。」
「??」
「マリン。やっぱり寝てる間に何かしちゃったんじゃないの?」
「この反応はそうかもしれませんね‥‥覚えてないって怖いですね‥‥。私、レグルスに何したんでしょうか‥‥?」
「とりあえず朝食食べないか?」
「そうですね。」
そして私は朝食を食べながら「私、何したんだ?」と考えていた。
そしてみんな食べ終わった頃。
「なあ、マリン。動きやすい服ってことは今日、これから訓練するのか?」
「はい。そのつもりですが?」
「じゃあ今日は軍の訓練に参加しないか?」
「へ?軍の訓練にですか?‥‥‥陛下、昨日も思ったのですが、私は王国の人間ですよ?友好国とはいえ、他国の人間にそんなに内情を見せてよろしいのですか?」
「ああ。マリンは俺達を裏切る様なことはしないって信じられるからな。」
「へ?‥‥‥そ、そうですか。‥‥陛下がいいと仰るなら軍の訓練、参加してみたいです。」
「そうか!‥‥じゃあレグルス。一緒に行ってやってくれ。多分ベネトもいるだろうが、将軍はマリンとは初対面だろうからな。間に入ってあげてくれ。」
「へ?‥‥‥分かりました。」
う~ん。やっぱり何か変だ。
「それじゃあ俺とラルクは仕事があるから。マリンのこと頼むな。レグルス。」
「はい。‥‥‥じゃあ行くか?」
「うん。」
ちなみにヒスイ兄様は父様に付いていった。辺境伯の後継ぎとしての勉強の一環だそうだ。
そしてフレイ兄様、アクア兄様、姉様は軍の訓練はいいやと、3人でいつも通りの訓練をするそうだ。
という事でまたレグルスと2人一緒の行動になった。
何か作為的なものを感じる気がするんだが‥‥。
気のせいかな?
そして、軍の訓練場に着くと
『皇太子殿下!おはようございます!』
おおぅ。見事にハモった。
「ああ。おはよう。みんな私の事は気にせず、いつも通りにしてくれ。」
『は!』
う~ん。兵士さんには普通だな。
「殿下。おはようございます。」
「ああ。おはよう、将軍。」
「おや?殿下、そちらのお嬢さんはもしかして」
「ああ。王国の辺境伯家のご令嬢だ。」
「はじめまして。マリン・フォン・クローバーと申します。」
「これはご丁寧にありがとうございます。私は将軍を務めております、ベルゼ・フォン・ハウレスと申します。以後お見知り置きを。」
「はい。あの、陛下から軍の訓練に参加させて頂けると伺ったのですが‥‥。」
「ええ。聞いておりますよ。‥‥‥陛下と模擬戦をして勝ったのは本当でしょうか?」
「はい‥‥本当です‥‥。」
「ほう!それは楽しみですね。」
「あの、敬語なしの方が話しやすければそれでもいいですよ?」
「おや?そうですか?」
「あと、マリンと名前で呼んで頂ければと。」
「しかし、さすがに呼び捨てはできないから様付けでいいだろうか?」
「はい。それで構いません。他の兵士の方々も。」
「さすがに兵士達は敬語も外す訳にはいかない。そこはちゃんと線引きするべきだ。マリン様は客人だからな。」
「あ。そうですね‥‥すみません。」
「いや。‥‥それで、マリン様。訓練に参加するならまずは実力を見たいのだが、剣だけの打ち合いを兵士としてもらっていいか?」
「はい。勿論です。」
「殿下も参加しますか?」
「う~ん。‥‥‥まずはマリンがやってるのを見てるよ。」
「畏まりました。」
そして私は兵士さんとまずは1対1でやり、その後1人ずつ兵士さんの人数を増やして1対複数人の打ち合いに発展していた。
「凄い方ですね‥‥マリン様は。」
「ああ。父上を倒した程の実力者だからな。私もマリンに負けたしな。」
「おや?殿下もマリン様と模擬戦をされたのですか?」
「ああ。私から模擬戦してくれと頼んだら受けてくれたんだ。しかも父上の前に。」
「え?ではマリン様は殿下と陛下、2連戦で陛下に勝ったのですか?」
「ああ。」
「‥‥‥‥そんな方いるんですね‥‥。」
「そうだな‥‥。」
私と兵士さん達の打ち合いを見ながら将軍とレグルスは話していた。
そして、私達の方は‥‥。
兵士さん達が先にバテました。
「将軍様。兵士さん達が限界みたいです。‥‥‥回復魔法掛けた方がいいでしょうか?」
「え?マリン様、回復魔法を使えるのか?」
「はい。」
「じゃあ頼んでいいだろうか?」
「はい。いいですよ。では、【体力回復】他の方々もできるだけ集まって頂けますか?」
『はい!』
そして、兵士さん達の回復を終えたので
「次、レグルスもやる?」
「へ?‥‥えっと‥‥。」
「‥‥‥将軍。申し訳ありません。私とレグルスちょっと訓練を抜けます。そのままお昼を食べてから戻ってこようと思いますが、よろしいでしょうか?」
「え?ああ‥‥。構わないが。」
「ありがとうございます。‥‥レグルス、行くよ。」
動こうとする様子がなかったので、レグルスの手を掴んで城の中に向かって歩き出した。
「え!?‥‥マリン、行くってどこに!?」
「う~ん。2人になれる場所‥‥‥レグルスの部屋に行っていい?」
「へ!?‥‥私の部屋!?」
「駄目なら他のところでもいいけど。」
「いや。‥‥‥構わない。」
「じゃあ案内して。」
「‥‥‥はい。」
そして、レグルスの部屋に着くと備え付けられているソファーに並んで向かい合うように体を向けて座った。
「さあ、レグルス。昨日何があったか話して。」
「え!?」
「明らかに昨日と態度が違うじゃない。昨日レグルスが私を運んでくれたあと、私がレグルスに何かしちゃったから態度がおかしくなってるんでしょ?教えて。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥(口づけられただけだ。)」
「え?何でいきなり声小さくなるのよ。」
「‥‥‥‥‥寝返りを打ったマリンに口づけられた。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
え?口づけられた?って‥‥‥‥‥
私、レグルスにキスしたの!?
‥‥‥‥‥うわっ。はず!ヤバい‥‥。
あ。これだけは言わないと!
「‥‥えっと、寝てて覚えてないけど‥‥ごめんなさい。」
「いや!半分は私が悪いんだ!」
「‥‥‥どういうこと?」
そして、昨晩のことを聞いて
「私の寝顔見てたって‥‥‥凄い恥ずかしい‥‥‥。」
「ご、ごめん。すぐにやめて部屋から出ようと思ってたんだ。その時に‥‥。」
「‥‥えっと、レグルス。嫌じゃ‥‥ない?」
「嫌な訳ない!‥‥惚れてる子にされたんだ、むしろ嬉しい。」
「そ、そう‥‥なら良かった‥‥のかな?」
は~。他の人の前で言わなかったレグルスに感謝だよ。
今私、顔熱いから真っ赤なんだろうし‥‥。
「あ。でも、初めてだったんだよな‥‥‥レグルスだけ覚えてるのはずるいな。」
「初めて!?‥‥ま、まあ、私もだが。‥‥ずるいと言われても‥‥どうしろと言うんだ‥‥?」
「‥‥‥昨日は多分私がレグルスにしちゃったんだよね?」
「あ、ああ‥‥。そうなるか‥‥。」
「じゃあ、今度はレグルスからして。私達の初めての上書きして。」
「え!?‥‥‥その‥‥いいのか?‥‥相手が私で。」
「‥‥‥いいも何もしちゃったんでしょ?‥‥それにレグルスなら多分嫌じゃないだろうし。」
「え!?‥‥‥そ、そうか。‥‥じゃあいいか?」
「‥‥‥どうぞ。」
そして、私が目を閉じると私の両肩にレグルスが手を置いたあと、ゆっくり近付く気配がした次の瞬間、触れるだけのキスをされた。
唇が離れたのを感じて目を開けると、まだレグルスの顔が近くにあって、真っ赤になっていた。
「‥‥‥しちゃったね。」
「‥‥‥しちゃったな。」
「凄い恥ずかしい‥‥ね。顔‥‥‥真っ赤だよね?私。」
「ああ‥‥私も‥‥だよな?」
「うん。」
「「‥‥‥‥‥」」
うわ~。しちゃったよ。まさか11歳でキスすることになるなんて思わなかったよ‥‥‥。でも。
「‥‥‥やっぱり嫌って気持ちはない‥‥みたい。」
「え?」
「レグルスに口付けられても嫌って気持ちは湧かなかった。
‥‥‥まだハッキリ分からないけど、レグルスのことを好きになりつつあるんだと思う。」
「そう‥‥なのか?」
「うん。‥‥‥レグルス。その‥‥このまま気まずくなるのは嫌だからいつも通りに接してもらえないかな?」
「ああ‥‥私もそのつもりだ。昨日のことをマリンと共有できたからな。マリンに対して申し訳ないって気持ちはなくしていいんだよな?」
「うん。それは‥‥私も同じだから。」
「そうか‥‥なら、いつも通りに戻れそうだ。‥‥‥だが、いつかマリンに私のことを好きになってもらうつもりだから、そこは変わらず頑張らせてもらうからな。」
「ふぇっ。‥‥わ、分かった。‥‥れ、レグルス。良くそんなこと恥ずかしげもなくサラッと言えるよね‥‥。」
変な声出ちゃったじゃん‥‥。
「親善パーティーの時にも似たようなこと言っただろ?」
「うっ‥‥恥ずかしいついでに聞いてやる。レグルス、私のどこをそんなに好きになってくれたの?」
「え!?‥‥‥‥‥‥‥最初は一目惚れだ。」
「え!?レグルスも!?姉様やリリ様、マリア様や親善パーティーにも可愛い方沢山いらしてたのに?‥‥‥最初は?」
「ああ。私達の初対面は食堂だっただろ?扉から入ってきたマリンを見て、「この子だ!」って直感でな。その後は気付いたらずっと目でマリンを追ってたし、親善パーティーでも私にはマリンだけが輝いて見えていたんだ。」
「やっぱり聞くんじゃなかったかも‥‥自分で聞いといて今、凄い恥ずかしい‥‥。」
「だから自分を見てもらう為には私の意思を示さないとなって思ったら模擬戦の話をしている自分がいたんだ。」
「続けるんだ‥‥。」
「その後、負けはしたが正直、こうして「マリン」と呼び捨てで名前を呼べて、普通に話せている今がすごく嬉しいし楽しいんだ。例え友達でもマリンといるのは楽しい。」
「‥‥‥‥そっか。ふふっ。私も楽しいよ。男の子の友達なんて初めてだし、皇太子なのに対等に接してくれるしね。」
「それは私の方だ。私はやっぱり帝国の皇太子だからな。みんな遠慮して「レグルス」と名前で呼んでくれないんだ。父上が許可してもだ。だからマリンが名前で呼んでくれた時すごく嬉しかったんだ。」
「そっかぁ‥‥‥あ。だからかな?シリウス王子達も名前で呼んでくれって言ったの。」
「あいつらも言ったのか。‥‥‥マリンは名前で呼んであげてるのか?」
「最初の数回だけね。あとは周りに変な勘ぐりされたくなかったからやっぱりやだって言ってやめた。」
「そうか。‥‥私はいいのか?」
「うん。レグルスは友達だからね。シリウス王子達は友達すら嫌だから。」
「そうか。‥‥じゃあシリウスと私、どっちがいい?と言われたら?」
「そりゃレグルスだよ。」
「うん。やっぱり嬉しいな。今マリンを独占してるこの状況もな。しかも私の部屋だし。」
「へ?‥‥あ。‥‥‥昨日のことみんなの前だと話しづらいのかなって思ったから‥‥2人だけだったら話してくれるかなって‥‥‥もう!折角顔熱いの引いてきてたのに。レグルスの馬鹿!!」
「あはは!私としては役得だ。マリンの恥ずかしがってる顔を存分に見れたからな。」
「むぅ‥‥それ、レグルスも一緒だよ?」
「だな。でもマリンになら見せても問題ないからいい。」
「開き直った!‥‥‥‥良かった。レグルス、戻ったね。」
「!‥‥‥ああ。全部話してスッキリした。」
「そっか。じゃあもう大丈夫だよね?」
「ああ。いつも通りに戻れるよ。」
「うん。‥‥‥安心したらお腹空いてきた‥‥お昼食べに行かない?」
「ああ。行くか。」
その後、2人で食堂へ向かった。
レグルスはこの時、既にある決意をしていたのをマリンは知るよしもなかった。
まさかの宰相と将軍の名前被りに今頃気付きましたので、将軍の名前を変えました。
カミオ→ベルゼ
2021,1,15時点