51話 増えた模擬戦相手
突如陛下によって落とされた爆弾発言。
私を皇太子殿下の嫁にって聞こえた気がするよ‥‥?
「恐れながら陛下。今、なんと?」
「だから、マリンをレグルスの嫁に出さないか?って言ったんだ。」
うん。聞き間違いじゃなかった。
「あの‥‥恐れながら陛下。いくら優秀なご令嬢でも皇太子殿下の妃に迎える程ではないのでは?」
「何を言ってるんだ?俺が学園の成績だけで選ぶわけないだろう?」
「では他に何か理由が?」
「ああ。勿論だ。さっき皆が食べていた黒竜だが、客人が討伐してくれたと言っただろ?」
「え?‥‥はい。」
「あれを討伐したのはここにいるマリンだ。」
『ええ!?』
会場がどよめいた。まあそうだよね。
普通11歳の女の子が竜を討伐なんてしないし、できないよね。
「それだけでも皇帝の座に就いてもおかしくない実力だと分かるだろ?」
「はい‥‥」
「で、ラルク。どうだ?」
会場の人達黙らせちゃった‥‥さっきは「客人」って濁した言い方したのにあっさり言った‥‥。
父様、どうするんだろ?
「陛下。それは俺ではなく、直接マリンに交渉してください。うちには「結婚相手は自分で決める」という家訓があります。子供達にもそれは言ってますので。」
あ~!ありましたね~そんなある意味素晴らしい家訓が!
くっ。父様、私に丸投げしてきた!
「じゃあま‥‥」
「では私が直接マリン様に交渉します!」
え?皇太子殿下?どしたの急に。陛下が自分と被ったから驚いてるよ。
「えっと‥‥皇太子殿下?交渉とは?」
「勿論決まってます!」
すぅ~、はぁ~。と深呼吸してますが‥‥なんだ?
「明日、父上との模擬戦前に私とも模擬戦をして頂けないでしょうか?」
「‥‥‥何故か伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。私と模擬戦をして、私が勝ったら‥‥」
「‥‥勝ったら?」
え?何か凄い真剣な目してるんだけど‥‥?
周りも固唾を飲んで見守ってる感じだし。
「私の妃になってください!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
『‥‥‥‥‥えぇぇぇぇぇ!?』
私に遅れること数秒。会場の全員が驚いた。
「えっと‥‥皇太子殿下?」
「私は本気で言ってますよ。そして勿論、今の私ではマリン様に勝てないであろうことも分かっています。」
「では‥‥どうして模擬戦を?」
「父上に言われて婚約するのは納得いかないからです。自分でマリン様の心を掴んでこそだと思ったので。なのでこの模擬戦は私の完全な我が儘です。それに付き合わせることになりますが、どうか受けて頂けないでしょうか?」
「え、ええ!?ど、どうしましょう?と、父様?陛下?」
「受けてあげたらいいじゃないか。シリウス王子とリゲル殿も模擬戦で叩きのめしたんだろ?」
「え!?何で父様知って‥‥アクア兄様ですか?」
「あははは‥‥ごめん。俺が言った。」
「へ~?シリウス王子達と模擬戦したならレグルスともしてくれるよな?マリン。」
「え!?いや‥‥でも‥‥。」
「頼む。マリン。受けてやってくれ。レグルスがここまでハッキリ意思を示すのは珍しくてな。正直、嬉しいんだよ。」
「いいじゃない、マリン。受けてあげたら。シリウス王子達はよくて皇太子殿下は駄目なんて不公平でしょ?」
「姉様まで‥‥。他人事だと思って‥‥。」
「そうでもないわよ?マリンが負けるとはこれっぽっちも思ってないけど、もし負けてもシリウス王子より皇太子殿下の方がいいもの。」
「「「確かに。」」」
「兄様達もですか!?」
「じゃあマリンはシリウス王子と皇太子殿下のどちらかと結婚しないといけなくなったらどっちがいい?」
「それは考えるまでもなく、皇太子殿下です。」
「でしょ?だったらいいじゃない。」
「はあ‥‥分かりました。皇太子殿下。模擬戦、受けて立ちます。」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
「あ。ちなみにマリン。レグルスも‥‥」
「あ、そういえばマリン様。私も呼び捨てで呼んでもよろしいでしょうか?」
「はい。勿論です。初めてお会いした際に申し上げましたよ?」
「あ。そうでしたね。では敬語も?」
「その方が話しやすいなら無くても構いませんよ。」
「ありがとう!」
「レグルス‥‥さっきから被ってるんだが。」
「え?あ。すみません、父上。」
「‥‥‥まあいいけどな。」
「じゃあ、マリン。私のことだが、皇太子殿下ではなくレグルスと名前で呼んでくれないか?」
「え?いや‥‥さすがに皇太子殿下を名前でというのは失礼かと‥‥。」
『そんなことありませんわ!』
会場にいるご令嬢全員か?ってぐらいの声が一斉にきた。
「え?」
「私達も皇太子殿下のこんな姿は見たことがありませんわ。しかもその皇太子殿下自ら是非名前でと仰っているのです。構わないと思いますわ!ねぇ?皆様?」
『ええ!』
ええ!って‥‥皆さん。それでいいんですか?
私、他国の人間ですよ?
「えぇ‥‥‥ではレグルス様?」
「できれば呼び捨てがいい。あと敬語もいらない。同い年だしね。」
「え?同い年だったんですか?」
「ああ。‥‥そういえば言ってなかったか。まあそういう訳で呼び捨て敬語なしがいいんだが、駄目か?」
「えっと‥‥‥どうしましょう?」
父様、陛下。助けて!周りにいる貴族の大人達から生暖かい視線が向けられてるから!
「「いいんじゃないか?」」
ぐぁ!マジか‥‥私の心の叫びが届かなかった‥‥。
「はぁ‥‥陛下まで許可を出すのならいいのでしょうね。分かりました。」
「では!」
「‥‥うん。で、レグルス。私は勝つ気でやっていいんだよね?」
「ああ。今回負けてもマリンを諦める気はないからな。」
「え?そうなの?」
「ああ。勿論だ。」
「はぁ~‥‥レグルスもか‥‥。」
「ん?私「も」?‥‥‥まさか!?」
「うん。シリウス王子とリゲル様にも同じ事言われた。でも‥‥。」
「でも?」
「シリウス王子やリゲル様。レグルスもだけど、何で私なのかなって。」
「どういうことだ?」
「3人共、私と同い年でしょ?なんで11歳で婚約とか考えられるんだろうなって‥‥。まだ会って2日だよ?シリウス王子達は当日だったけど、何でそんな短い間で一生の相手を決められるんだろ?って思って。私はまだ結婚なんて考えられないのに。」
「でもマリン。いつかは考えないといけないことだぞ?ちなみに、うちの家訓は「結婚相手は自分で決める」だと言っただろ?あれな、兄弟全員20歳までに相手が見つからなかったらお見合いさせるからな。」
「「「「「え!?」」」」」
「父様!?そんな事聞いてませんよ!?」
「言ってないからな。それにお前達兄弟、仲が良すぎるからな。このままだと結婚しない道を選びそうだ。」
「「「「「ぐっ。」」」」」
「図星か。まず、マリンは上の兄弟が結婚するまでは自分が先にするわけには行かないと逃げ続けるだろ?」
「うぐっ!」
「で、ヒスイは俺の後を継ぐからともかく、フレイ、クリス、アクアの3人共マリンが心配だから結婚しないって言うつもりだったんだろ?」
「「「ぐっ!」」」
「はぁ‥‥全員図星か‥‥。ちなみにマリン。お前のお見合い相手は皇太子殿下は確定だからな。」
「え?‥‥‥レグルスならいいかな‥‥。」
「いや。嬉しいが、その前に私がマリンを落とします!」
『おぉ~!』
いや、皆さんおぉ~って‥‥。
「えっと‥‥レグルス?私の意思も一応言っとくね。私は王国で生まれ育ったからっていうのもあるけど、王国には家族も友達もいる。そして何より私は王国が好きなの。だからね、レグルスを選ぶなら私はその好きな国、家族、友達と離れることになる。それでもいいって思う程レグルスを好きにならない限り嫁ぐことはないよ。だからね、レグルスが嫌なんじゃないの。むしろレグルスが王国の王子だったら婚約したかもしれないしね。」
「‥‥‥‥そうか。嫌がられてないならいいさ。私がやることは変わらないからな。まずは明日。全力で挑ませてもらうからな!」
「うん。返り討ちにしてあげるわ。‥‥陛下もです!」
「お。忘れてなかったか。良かった。」
「いや、陛下が先約でしょう?」
「そうなんだがな。‥‥‥ありがとな、マリン。レグルスのあんな楽しそうな顔、久しぶりに見た。」
「私、感謝されるようなことしたつもりはないですよ?」
「ああ。それでもだ。‥‥明日楽しみにしてるからな!」
「はい!」
こうして帝国3日目は皇太子殿下と陛下。2人との模擬戦に決まった。
当初は皇太子をあまり行動させるつもりはなかったんですが‥‥ふと気付くと皇太子は自己紹介しか言葉を発してない!このままは可哀想すぎる!ということで、行動を起こしてもらいました。